第40話 ようやく友達になれたのかな?

 気まずい。宇宙は眉根を寄せ、渋い表情を浮かべていた。

 フライパンと睨めっこしながら、一番奥の席にチラチラ視線を飛ばしていた。


「ううっ……幽剣が居るの?」


 フライパンの上でトーストが丁度良い焦げ加減に焼けていた。

 皿に盛りつけると、先程採って来たロイヤルハニーをふんだんに掛ける。

 一瞬にしてキッチンの中に匂いが立ち込め、宇宙はニコッと笑みを浮かべた。


「はぁ……」

「溜息付いちゃうの?」

「う、うん。何でかな?」


 潤夏に心配されてしまった。

 宇宙は幽剣がこのお店にやって来たことを意外に思いつつ、何やら打ち合わせをしていた。

 ついつい耳を傾けると、打ち合わせの内容が聞こえてきた。


「それでは幽剣さん。今度の雑誌の表紙だけど……」

「はい」

「それじゃあ来月号は幽剣センターにモード系で行きたいんだけど……」

「分かりました」

「……いつもそうだけど今回も即決ね。それじゃあ黒を基調としてスリムな体系を活かしてクールに攻めてみましょうか」

「いつもと変わらないですね」

「不満ならもっとカジュアルな可愛い系でも良いけど……白を基調にして」

「遠慮します。私は似合わないですから」


 幽剣は淡々としていた。

 目の奥に芯は無く、時折瞬きをする程度だ。


 ついつい視線に入ってしまうが、髪をかき上げる瞬間だけ。

 宇宙の方をジロッと睨みつけてくるようで少しだけ怖かった。


「ううっ……絶対に怒ってる」


 宇宙はキッチンの下に隠れた。

 すると潤夏がゆっくり声を掛け、宇宙のお願いした。


「宇宙君。少しいかな?」

「潤夏姉? な、何?」

「あの子友達でしょ? さっき焼けたハニートーストを出してくれるかな?」


 より一層気まずくなった。

 だけど宇宙は折れそうになる雑魚メンタルを振り絞り、奮い立てる。


「二つ持って行けばいいんだよね?」

「うん。お願いね。それと……」


 潤夏は何か言おうとした。

 しかし宇宙の耳には全く届かず、お皿を慎重に運んだ。


「それじゃあ撮影場所は……あっ、宇宙さん」

「……」

「お、お持たせ致しまして。こちら当店で本日限定ロイヤルハニーをふんだんに使用したハニートーストです。少し焦げ目が付いているところがポイントですので、熱いうちにお食べください」


 宇宙は頭をフル回転。適当に思いついた文言をスラスラ並べ、美味しそう加減を演出する。

 すると秋音は「おお」と手を合わせる。こんな糖分たっぷりな代物を果たしてモデルさんに食べさせても良いのかと、宇宙はもの凄く心を痛めた。

 しかしながら秋音は「ありがとうございます。ロイヤルハニーを使ったハニートーストと言うことは、ダンジョンに言って来たんですね」と何かを察した。


「潤夏さんが採って来たんですか?」

「あっ、僕が採って来ました」

「えっ!? それじゃあ宇宙さんも探索者?」

「は、はい。まだまだ駆け出しのダンジョン配信者をやらせてもらっています」


 宇宙は質問に丁寧に答えた。

 すると「探索者は大変だけど、頑張ってね」と応援してくれる。

 素直に嬉しくて「は、はい!」と宇宙は笑みを浮かべた。


「ロイヤルハニーを使ったハニートーストね」

「だ、ダメでしたか?」

「そうじゃないわよ。無理すると体に堪えるわよ」

「む、無理はしてないけど……痛てて」


 宇宙は言われて肌が熱くなる。

 薄っすらと腕の表面が赤くなっていて、幽剣の目が鋭く光る。


「熱にやられたのね」

「そ、そうかな?」

「そうよ。魔曲武者の時も似たようなものでしょ?」


 今思えば確かにと納得できた。

 するとフラットな会話を展開する宇宙と幽剣の姿を見ていた秋音は首を捻る。


「その会話の言い回し、もしかして友達?」

「まあ?」

「一応?」


 意外な反応が返ってきた。

 たどたどしい宇宙とは違い、幽剣は顔すら合わせてくれなかったが、嬉しいことを言ってくれた。ポッと心が温かくなる。


「気色悪い」

「ひ、酷い……」


 ズバズバ言われて心が傷付いた。

 しかし幽剣は全く気にしておらず、秋音はそのやり取りをクスクス笑って見ていた。

 下唇に指を当て、舐め回す目を視線と共に向ける。


「仲が良いみたいね。もしかして付き合ってるの?」

「「あっ、それは違います」」


 お互い素に戻って素早く否定する。

 ここに関しては互いに同意で、秋音は「そうなの?」と意外そうな反応をされてしまう。

 幽剣もそうだと思うけど、宇宙も別に恋心なんて更々抱いていなかった。

 それだけは誰がどんな目で見ていたとしても明らかにしておく。


「似合うと思うよ」

「「似合いません」」


 秋音は面白くないみたい。だけど面白い面白くないはない。

 とりあえず宇宙は料理を出すとその場から離れようとする。

 踵を返して表情を隠すと、少しだけ嬉しかった。ようやく宇宙の思う友達になれた気がしたからなのだが、そんな宇宙のことを秋音は少し立ち止まらせるのだった。

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