第38話 スペシャルなハニートースト

「ただいま」


 宇宙は能力の練習を終えてお店に戻って来た。

 ちょうど休憩時間だったようで、お店の中には潤夏しかいなかった。


「お帰りなさい宇宙君」

「潤夏姉、ただいま。コレ見てよ!」


 宇宙は早速成果を報告した。

 ペットボトルの中には蜂蜜がたっぷり入っていた。


「宇宙君、それは?」

「蜂蜜だよ! しかもロイヤル二ホンミツバチのロイヤルハニー! たまたま見つけて採って来たんだ」


 宇宙は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 すると潤夏は瞬きを繰り返して、「う、嘘っ!?」と驚いていた。


「す、凄いわね宇宙君。まさかロイヤルハニー何て……ほ、本物よね?」

「も、もちろんですよ。僕はこんなことで嘘は付きません!」


 宇宙は自信が普段はないけど、今回ははっきりを伝えた。

 すると潤夏は手を合わせて「凄い凄い!」と盛り上がっていた。


「早速この蜂蜜を使ってハニートーストでも焼きましょっか」

「ハニートースト!?」

「しかもただのハニートーストじゃなくて、ロイヤル二ホンミツバチのロイヤルハニーを使ったとびっきりのスペシャルハニートーストよ!」


 宇宙は言葉のインパクトにドンと来た。

 何だか食べる前から口の中いっぱいに唾液が集まって、お腹が空いて来てしまった。

 とは言えお昼におやつみたいなものを食べて良いのかと、罪悪が込み上げてきた。

 だけど人それぞれなので、無理やりにでも気にしない方向に意識を運んだ。


「それじゃあ早速作るわね」

「ぼ、僕も何か手伝うよ!」


 宇宙は潤夏と一緒にキッチンに向かった。

 するとエプロンを付けるでもなく、早速パンを切るところから始まった。


「それじゃあまずは一斤から切っていくわよ」

「どうして一斤なの?」

「その方が安いからよ。スーパーで売っている五枚入りの袋だと、賞味期限も近かったり、その分コストが掛かるわよ。だから私は行きつけのパン屋さんでいつも買っているの」

「そう、だったんだ」


 宇宙は今更だけど初めて聞いた。

 だけどフワフワの食パンの表面を見て、宇宙は目を見開いた。

 スーパーで売っている食パンも美味しいけど、一斤から切って来た一枚を見るとまた違った見え方をした。とっても美味しそうだった。


「それじゃあ次はフライパンの用意ね」

「潤夏姉。トースターは使わないの?」

「トースター、今壊れちゃっているのよ。それにフライパンで作った方がお得でしょ?」


 何がお得なのか、宇宙には分からなかった。

 だけど宇宙は特に首を突っ込んだりはせず、切ったばかりの食パンに包丁を使って十字の切れ目を入れた。

 こうすることでハニートーストの蜂蜜が浸透してくれるのだ。


「後は如何したらいいの?」

「普通に焼けばいいのよ」

「それだけなの?」

「それだけよ? 後は焼きあがったら斜めに切って二つにして盛り付けるのもアリだけど……それくらいかしら」


 意外に簡単にできてしまう。

 宇宙は特に何もすることはなく、ただフライパンが温まるのを待ち、じっくり焦げ目がつく程度で焼き上げるだけ。採取するまでが一番大変だった。


「そう言えば宇宙君。調子は如何だったの?」

「調子って?」

「能力の練習をしてきたのよね? 上手くいきそう?」

「……う、うん。ちょっと分かったかも」


 宇宙は自分の能力について詳しくは説明していなかった。

 だけど説明しないと理解して貰えないことなので、宇宙は噛み砕いて説明する。

 もちろん自分の体が性転換していることは秘密だ。


「実はね……」


 宇宙は潤夏に能力の練習を説明した。

 すると潤夏は「へぇー」と相槌を打つ。ちゃんと聞いてくれているようだけど、お互い料理に夢中なので半端な返しだった。


「なかなか変わった能力みたいね。大変そう」

「大変だけど面白いよ。でも如何やって使ったらいいのかな?」

「うーん、一人だとできることは限られちゃうから……他に能力を手に入れるか、誰かと一緒にパーティーを組んでみるしかないかしらね」

「パーティー……」


 その言葉を聞いて宇宙は表情を暗くする。

 そう言えばと思いながら頭の中では幽剣の姿が描かれる。


 もちろん他意はない。だけど宇宙にとっては唯一交流のある探索者だった。

 能力についてはよく分からないけれど、同じくらい変な能力なのは確定している。

 だからこそ、「もしかしたら」と口ずさみたくなる。


「その様子だと誰か心当たりがありそうね」

「そうなのかな?」

「ん? 含みのある言い回しね。あっ、そうだ。宇宙君。これからお客様が来るから、接客してくれるかな?」

「えっ!?」


 確かにもう少ししたらお店は開店だ。

 だけど潤夏の口調だと知り合いのような気がする。

 頭の中で納得したが、一体誰が来るのか分からない。ハニートーストが焼き上がるのを待ちながら、まだ誰が来ているわけでもないのに緊張してしまうのだった。


「はぁー、こんな性格だからかな」


 宇宙は自分の性格がとことん嫌になる。

 だけど性格はなかなか変わるわけが無いので諦めるしかなかった。







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新作小説です。

1話でも読んでいただけると嬉しいです。

メンタル雑魚のような配信者ものでもまだ明るめの話でもないので選ぶかもしれませんが、ちょっとヤバめのファンタジーはどうですか?


■異世界で万能な翼を手に入れたらいつの間にか《最速の運び屋》と頼られるけど恐らるようにもなっていた

https://kakuyomu.jp/works/16817330663207801473

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