第37話 蜜蜂にごめんなさい
宇宙は森の中でもう少し練習を続けた。
ちょっとずつだけと上手く使えるようになっていたが、宇宙にはその実感が全く無かった。
「うーん、これで良いのかな?」
何が正解何だろうと思ってしまった。
やっぱり自分では能力が上手く使えているのか分からなかった。
「如何しよう……もう帰ろうかな?」
何だか
宇宙のテンションがダダ下がり始め、配信でも始めようかなと思ってきた。
だけどスマホに手を掛けようとしたのだが、宇宙はそっとスマホをポケットの中に戻した。
「ううん。配信は今日は無し。というか、ダンジョンで配信何て……もういいかな」
あまり気乗りしなかった。
撮れ高を考えたことは会っても気にしたことは一度もない宇宙にとっては、この間の顔バレがあまりにも心臓に悪かった。
あれ以来もの凄く気にして撮影してしまっていた。
別に嫌ではないのだが、あんなミスをしたくなかったのだ。
「でも、ダンジョン配信は大変だけど楽しかったから……如何しよう」
宇宙は自分で板挟みになってしまった。
メンタルが悉く削られる中、ふと視線の先に何を見つけた。
「アレは……蜜蜂かな?」
だけど普通の蜜蜂じゃなかった。
それが知識の無い宇宙でも一発で判ったのはあまりにも大きかったからだ。
如何やらダンジョン内で魔力をたくさん保有した特殊な固体らしく、スマホで調べてみると、形状や飛び方が載っていた種類を同じだった。
「ロイヤルニホンミツバチー? 何で伸ばし棒が付いてるのかな?」
とは言え間違いなくこのロイヤルニホンミツバチーだった。
もしかしたら近くに巣があるのかもと思い、目で追っていた。
すると木の裏側に巣があった。これはラッキーだ!
「た、確かロイヤルニホンミツバチーの蜂蜜は希少価値が高くて、マヌカハニーが何とかって書いてあって……とにかく体に良いんだよね」
調べてみるとキロが六千円で取引されていた。
一回食べてみたいなと思った宇宙は珍しく乗り気だった。
「そ、そうだ。この炎でちょっとだけ……」
落ちていた木の棒を拾い上げた宇宙は先端に炎を灯した。
特製の松明を作った宇宙は距離を取りつつ、蜂の巣に松明の先端を近づけていた。
もしかしたら一部だけが溶けて蜂蜜が取れるかもと淡い期待をしたのだが……
「あっ!」
本当に一部だけが崩れてしまった。
すると中からトロッとした蜂蜜が零れだしたのだが、考えていなかった。
如何やって回収したら良いのかさっぱりだった。
「あ、あっ、ど、如何しよう……えっと、えっと、そうだ光!?」
宇宙は左手を使った。
光が袋の形をして零れ落ちる蜂蜜を受け止めてくれた。
液体を受け止めることができるので、宇宙はもったいないことにならなくて良かったと胸を撫で下ろした……のも束の間。
ブーン!
「あっ、如何しよう。今度はロイヤルニホンミツバチーを怒らせちゃった!?」
こっちも考えていなかった。いいや考えていなかったは嘘になる。
一応距離を取っていたし、ロイヤルニホンミツバチーは飛ぶのが苦手で重いから追ってこないとは思っていた。
だけどもの凄く羽を擦り合わせて蜜蜂特有の熱攻撃を始めた。
「あ、熱い……だけど今更返せないよ!」
悪いのは宇宙だけど今更返す気が無かった。
だから宇宙は自分の身を守る方法を考えた。
そのために能力の練習をしに来たんだと、脳をフル回転させて至極の策を練った。
「そうだ!」
熱いならもっと熱くすればいい。
それからこっちは熱を遮断すればいい。
宇宙は右手と左手を同時に使った。
「まずはセレスさんの光を自分に纏わせて熱を完全に遮断……それからヘリオスさんの炎でロイヤルニホンミツバチーを追い払う!」
これ以上ない完璧な作戦だった。
そのおかげでロイヤルニホンミツバチーは宇宙に近づくことができなかった。
ロイヤルニホンミツバチーは羽をとにかく擦り合わせて熱を発生させた。
だけど宇宙の方が熱くてロイヤルニホンミツバチーは羽を震わせられなくなった。
「あ、あれ?」
ロイヤルニホンミツバチーは動けなくなった。
体力を切らしてしまったようで、地面に落っこちてしまった。
「も、もしかして死んじゃったの?」
宇宙は不安になった。
だけどプルプル震えていて、一応生きているようだ。
安心した宇宙はホッと胸を撫で下ろすと、手に入れた蜂蜜を持っていたペットボトルの中にゆっくり入れ直した。
「ごめんなさいロイヤルニホンミツバチーさん達」
宇宙は申し訳ない気分になりつつ、蜂の巣もそこまで被害が無かった。
宇宙は流石にこれ以上は駄目だと思い、能力の練習は止めて家路に着こうとした。
「痛たたたぁ」
だけど宇宙にもダメージがあった。
如何やら能力を解いた後に熱波を受けてしまい、皮膚がもの凄く痛かった。
火傷はしていないけれど、宇宙はこれも仕方ないのかなと思い込むことにしました。
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