第35話 接客が上手くできないよ!
宇宙は学校を出た。
幽剣は先に帰ってしまって、宇宙はいつも通り一人で帰っていた。
「今日はちょっと楽しかったかも」
宇宙は鞄を背負い、いつも通りの通学路を帰っていた。
その道中でいつものショーウィンドウを見つけたので、ふと立ち止まってしまった。
「うーん、幽剣さんが言ってたけど、髪の毛の色も変わっちゃうのかな?」
宇宙は自分の髪の毛を触っていた。
今のところは綺麗な黒髪だけど、この髪色がもしかしてと思ってしまった。
「うーん。やっぱり女の子に見えるのかな?」
宇宙は自分の顔をまじまじと見てしまった。
何だか恥ずかしくなってしまい、顔を背けてしまった。
「いやいやいやいや、何してるの? 僕は別に自分の顔を恥ずかしく思う必要なんて……ううっ、はぁー。ダンジョンとの親和性も意地悪だよ」
宇宙は唇を尖らせた。
溜息を吐きながら、自分に自分が自信を無くしてしまった。
何と言うか、周りの目からすれば意味分からないことで勝手に凹んでいた。
「って、こんなことする意味ないよね。帰ろっと」
宇宙は再びトボトボと歩き始めた。
家に帰ったら普通に宿題をして過ごそうと考えていたのだ。
けれど宇宙の足が止まった。
「あれ?」
宇宙はびっくりした。
潤夏の営み喫茶店がこんな時間までやっていた。
「こんな時間までお店がやってる。それじゃあ、裏から入ろう」
宇宙は迷惑を掛けないようにして、喫茶店の裏口に回った。
すると急にお店の入り口が開いた。
宇宙が丁度足を前に出した瞬間だった。
「あれ? 宇宙君」
「潤夏姉。ただいま」
「お帰りなさい宇宙君。丁度良いところだから、ちょっと手伝って貰っても良いかな?」
「は、はい」
宇宙はお店の中に入った。
するとたくさんの人が居た。
いつもならこんな時間でこんなにたくさんの人が居るはずないのに、如何してだろうと思ってしまった。
「潤夏姉。如何してこんなに人が居るの?」
「今日は金曜日だからよ」
「金曜日……あっ!」
宇宙は思い出した。
潤夏の営む喫茶店では毎週金曜日はもの凄く繁盛していた。
その理由はとっても簡単で、金曜日は少し早めの美味しいディナーをやっているからだった。
「店員さん、この照り焼きチキンとっても柔らかいです」
「美味しいよー」
「こっちのスープも飲みやすいです」
「サラダが新鮮でシャッキシャッキ。噛み応えがあって、満足感凄いな」
如何やらグルメ評価を見てきた人が多かった。
宇宙は唖然としてしまい、「あはは……部屋に戻りたい」と思ってしまった。
もう乾いた笑いしか出なくなってしまい、脳がフリーズしてしまった。
「だから手伝って欲しいな」
「は、はぁ?」
困惑する宇宙の表情はぎこちなかった。
しかし潤夏には関係なかった。笑顔を武器に、宇宙に突き付けた。
「お店が終わるまで接客お願いね。次がラストオーダーだから」
「は、はい。わ、分かりました」
流石に断れなかった。
宇宙は急いでエプロンを着用すると、トレイとメニュー表を持って待機していた。
どうせならお客様には来て欲しくなかったけど、扉が開いてしまった。
カランカラーン!
優しい鈴の音色が響いた。
するとお店の扉が開き、そこに居たのは若い男性のお客様だった。
「い、いらっしゃいませ!」
「一人だけど座れますか?」
その人はカメラを持っていた。
凄く高そうなカメラで、鞄も持っていた。
「は、はい大丈夫です。こちらの席にどうぞ」
オドオドしていたけれど、接客は丁寧に頑張った。
するとコクコクと頷いて、宇宙の慣れない口調にも従ってくれた。
「ん? 可愛い店員さんだね」
「えっ、あっ、は、はい。あ、ありがとうございます」
冗談も交えてくれるありがたい客様だった。
宇宙は失礼が無いように努めた。
「ご、ご注文はお決まりでしょうか?」
「それじゃあこの特製ディナーを一つ」
「か、かしこまりました」
注文を取ると、宇宙は急いでキッチンの方に向かった。
しかし潤夏は予めディナーを用意していた。
「潤夏姉、今日のラストオーダーは」
「特製ディナーよね? もう少しでできるから待ってね」
あまりに準備が良かった。
宇宙は手早い動きに目を奪われてしまい、すぐさまディナーができ上がった。
「それじゃあ運んでくれる? 他にお客様も居ないみたいだから」
「わ、分かりました」
宇宙は慎重に注文された品をトレイに乗せて運んだ。
するとジッと待っていてくれたので、安心した。
「お待たせ致しました。こちらが特製ディナーになります」
「おお、確かに想像以上だ」
何が想像以上なのか分からなかった。
だけど宇宙は質問されてしまった方に驚いた。
「ちなみに如何してディナー何ですか?」
「えっ? そ、その……えっと」
「知らないよ」と心の中で訴えた。
だけど流石に何か言わないといけないと思い、当たり障りのないことを言った。
「えーっと、金曜日なのでみんなお疲れ様ってことですかね? ゆ、ゆっくり休日は休んでねとか?」
「なるほど。心労を取ってくれたら良いという意味ですね。ちなみに写真はとってもよろしいですか?」
「えっ?」
あまり騒ぎ立てられても困った。
今のところお店の中には他に人が居ないのでとりあえず一枚くらいなら良いかなと思ってしまう。
「い、一枚だけなら?」
「分かりました。それでは……」
何だかもの凄く疲れてしまった。
宇宙は自分の自身の無さを本当に毛嫌いするのだった。
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