第34話 ようやく自己紹介(クラスメイトなのに)

 お互いに沈黙が流れていた。

 もの凄く気まずい状況に、口火を切ったのは少女の方だった。


「そう。それじゃあ如何して私を見ていたのよ?」

「うーん、綺麗でカッコいいから?」

「はっ?」


 表情を歪めていた。

 キモいって思われてしまったようで、宇宙は目を右往左往してしまった。


「えーっと、だって目立つから」

「この髪のせいよね。はぁー、嫌になるわ」

「そうなの?」

「当たり前よ。ダンジョンでも無いのに、地毛でこんな髪の色に変色する何て……」


 初めて知った。ダンジョンの影響で髪の毛の色も変わってしまうみたいだ。

 少女は自分の綺麗な髪の毛をクルクルと指で丸めていた。


「それじゃあ如何してダンジョンに?」

「説明しないといけないの?」

「そ、そうじゃないけど……えーっと、その」


 宇宙は唇を噛んだ。

 何を話したらいいのか全くではないが出てこなかった。


「はっきり言って欲しいんだけど? 私、貴方みたいなタイプ好きじゃないの」

「ご、ごめん。ネガティブな人って駄目だよね?」

「駄目じゃないわよ」


 意外な言葉だった。

 宇宙は顔を上げてしまった。そこには少女の整ったお人形さんのような繊細な顔があった。


「それも人の個性で性格よ。性格が早々変わる訳ないわ」

「うっ! い、痛い……心が痛い」

「でも少なくとも私は性格のためでもあるかもね」


 何か矛盾が生じ始めた。

 宇宙は首を捻ると、少女は腕を組んだまま帰ろうとした。


「それじゃあ言いたいことは済んだから。私は変えるわね」

「か、帰っちゃうの?」

「当たり前よ。別の学校に居ても意味がないでしょ?」


 確かにと思ってしまった。

 だけど宇宙は心残りが幾つかあったので、無理にでも待ってもらった。


「ちょっと待って!」

「何?」


 少女は振り返った。

 面倒そうな表情を浮かべていて、目付きも鋭く怖かった。


「この間はありがとう。その、色んな意味で」

「配信のこと? 別に気にしていないわよ」

「そ、それもだけど……その。友達になってくれるかな?」

「はっ? 気色悪っ」


 本気で気持ち悪いと思われてしまった。

 完全にドン引きされたと思い、宇宙は慌ててしまった。


「あっ、その、ごめんね。変な意味じゃなくて……」

「ふっ……変な子。友達って言うのは、確認を取らなくても成っているものでしょ?」

「えっ? それじゃあ……答えは?」

「自分で考えなさい。少なくとも私は名前も知らない相手と仲良くする気はないけどね」

「それはそうだよ」

「ここは乗って来るのね」


 そんなの当たり前中の当たり前のことだった。

 宇宙は真顔になってしまい、お互いに変な時間が交錯する。


「それじゃあ自己紹介しよ?」

「疑問形の意味が分からない」


 真っ当なツッコミが入ってしまった。

 宇宙は何て返すべきか色々迷ったけど、普通に無視した。


「僕は早乙女宇宙さおとめそら宇宙うちゅうって書いて宇宙そらって読むんだ」

「サラッと流すのね」

「うん。これ以上は、その、怒られそうだから」

「怒ってないわよ。でもいい名前ね。宇宙うちゅうのことを宇宙そらって読むのはSFの中だけだと思っているけど」

「あ、ありがと。嬉しい、です」

「キラキラネームだけどね」

「ぐはっ!」


 普通に痛いところを突かれた。

 確かにちゃんとした読みではないけれど、宇宙はダメージを負った。

 違う意味での精神的ダメージだった。


「そ、そういう貴女きみは?」

「……言わないと駄目よね」

「う、うん。できれば名前くらいは知っておきたいかなって。クラスメイトとして」

「うーん……ほろう」

「えっ?」


 聞き間違いかなと思った。

 あまり聞いたことのない名前の読み方でびっくりした。


永墓幽剣ながつかほろうよ」

「えっと、聞き間違い?」

「じゃないわよ。はぁー、だから嫌だったのに」


 少女こと、幽剣は溜息を吐いていた。

 宇宙も大概キラキラネームよりだけと、それでも読めた。

 けれど聞いたこともない名前にオリジナリティを感じた。


「ちなみに漢字は?」

「永久にお墓。それから幽霊に剣を持たせるの。それで幽剣ゆうけん幽剣ほろうなのよ」

「す、凄い。カッコいい」

「馬鹿言わないで」


 普通に怒られてしまった。よっぽど気に食わない様子だ。

 凄まじく睨まれてしまい、完全にアウェイな状況に飲まれてしまった。


「ご、ごめんね。永墓さん」

「そっちも好きじゃないのよね。私的には」

「じゃ、じゃあ幽剣さん?」

「むっ……はぁ、そうね」


 どっちかと言うと、名前予備の方が好きそうだった。

 表情の起伏的に感じ取ったのだが、当たっているようだ。


「私のことを名前呼びにする子が居たなんてね」

「だってこっちの方が、その、カッコいいから」

「まあいいけど。それじゃあ私も下の名前で呼ぶから」

「い、いいよ?」


 宇宙は断れなかった。

 だけど朴念仁の宇宙には、この意味がよく分かっていなかった。

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