第33話 睨まれてしまいました

 宇宙はいつも通りの朝を迎えていた。

 配信明けということも、満足感もあった。

 ベッドから起き上がり、腕を伸ばして全身の筋肉を柔らかくした。


「うーん。はっ! 今日も学校だ。いつも通り、いつも踊り」


 宇宙は自分に言い聞かせるようでした。

 だけど別に心に凹みがある訳でも、精神的に止んでいるわけでもありませんでした。


「おはよう、宇宙君。今朝も早いわね」

「おはようございます、潤夏姉」


 今日もいつも通りに起床した。

 だけど顔色がいつもよりも歪だったこともあり、複雑な表情をされてしまった。


「如何したの?」

「如何って言われても……何か変なところあるかな? もしかして、気分悪くさせちゃったかな?」

「そんなことないわよ、考えすぎなの。ちょっと目元がね。うーん、何かあったの?」

「何にもないけど。もしかしたら今日は僕が日直だからかも。って、いつも通り過ごすだけだけど」


 用意されていた朝食を宇宙は頬張っていた。

 今日のご飯も美味しくて、宇宙は満足感を更に膨らませた。




 学校はいつも通りだった。

 特に何か変わったことがある訳でもなく、いつも通り学校に到着すると、速やかに日直の仕事を終えて席に着いた。


「ふぅ……ん?」


 朝っぱらからなのに賑やかなクラスだった。

 何人かのグループに分かれて、中心人物が回していた。

 そうでなくても孤立している人は少なかった。

 このクラスだけではなく、この学校自体変なこともなく大抵誰とも交流があって仲が良かった。


 その中でも孤立している人は目だった。

 宇宙は気配を完全に同化させていたので違和感なかったが、やっぱり視線が移ってしまった。


「今日も一人だ……僕もだけど」


 宇宙は後ろの席なので教室の中を見回すことができた。

 するとやっぱり視線を惹かれた。

 そこに居たのは、銀髪の少女で、背筋をピンと伸ばしたまま特に何をするわけでもなかった。


「あんなに目立つのに、如何して誰とも話さないんだろ。僕とは違って……」


 宇宙は頬杖を付いたまま余計なことを考えてしまった。

 だけど本当に綺麗な髪をしていたし、口調はサバサバしてたけど優しかった。

 余計な視線を向けるのは、普通にカッコ可愛かったからだ。


(って、これ以上見るのは流石に迷惑だよね。うん、良くないよね)


 宇宙はすぐさま切り替えた。

 授業が始まるまでまだしばらくあるので、ぼーっとして時間を潰した。

 完全に変人でストーカー気質になってしまった自分を蔑むのだった。


 *


 気が付けば放課後になっていた。

 外は明るく、まだ夏でもないので日暮れは少し早めだった。


 オレンジ色の空が広がっていた。

 白いモクモク雲が魚の様に空の波を気持ちよく泳いでいた。

 宇宙はぼーっと眺めていたけれど、すぐさま目の前のことに取り組んだ。


「良し。これでいいよね?」


 教室の中が綺麗になっていた。

 気持ちよく片付けができて満足だった。


「後はコレを職員室に持って行くだけかな」


 すると教室に入ってくる足音が聞こえた。

 だけど忘れ物を取りに来ただけだと思って、チラッと視線を配るのも悪いと思ってしまい、宇宙は机に視線を向けたまま、顔を上げることはなかった。


(忘れ物を取ったらすぐに返っちゃうんだろうなぁ。あれ?)


 宇宙は何故か感じたことのある気配に首を捻った。

 ましてや足音が宇宙の方へと真っ直ぐ進み、目の前でピタリと止まった。


(う、嘘でしょ? う、嘘だよね! 僕何かしちゃったのかな? これって、いや、多分気のせい……)


 宇宙はすぐさま自分の中で振り切った。

 多分違う。気のせいだと言い聞かせのだが、それも無駄に終わった。

 何故先に切り出したのは、相手からだった。


「ねえ、ちょっと良い?」


 急に話かけられて、宇宙は顔を上げた。

 瞬きを何度もしてしまい、困惑してしまった。

 そこに居たのはついつい視線を向け、友達になりたいと思っていたクラスメイトだったからでした。


「えっと、僕?」

「貴方以外いないでしょ?」

「あっ、そっか」


 教室には誰も居ませんでした。

 宇宙は日直なので少し残っていたけれど、他のみんなはもう帰ってしまいました。

 だから話しかけられる対象は自分しかいなかったのでした。


「えーっと、何?」

「最近ずっと視線を感じるんだけど、貴方よね?」

「えっ、あっ、うん」

「言いたいことがあるんだったら、はっきり言って欲しいんだけど」

「な、何で怒られるの? ぼ、僕何かした?」

「何もしてないけど」


 宇宙の頭では理解できなかった。

 もっと高次元的な世界で話をしているようで、宇宙は置いてけぼりを食らった。

 だけど一つだけ言えるのは、睨まれていたことだった。

 しかももの凄く陰鬱で、怖かった。身震いしそうになった。それだけの威圧感を含んでいたが、宇宙は普通に話をした。


「何もしてないけど、視線だけ向けられても困るの。告白とかベタな展開だったら

きっぱり断ってあげるから。それでお終いでいいわよね?」

「あっ、違うよ」

「えっ?」


 普通に驚かれてしまった。

 如何やら想像と違ってようで、お互いに沈黙が流れてしまった。

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