クールな少女とコンビを組みました?

第31話 いつも通りの学校生活

 空は今日も青空が広がっていた。

 窓側の席から空をぼーっと見ていると、ついついウトウトしてしまった。


(平和だなー)


 宇宙は空を見ながらそう思っていた。

 右手が疲れるから頬杖を付き、片耳だけを傾けて授業を聞いていた。

 今は難しい古典の授業中だから、宇宙は左手だけでノートにサラサラと書いていた。


(しかも午後だからポカポカする)


 今日も一日授業が多くて疲れた。

 すっごく仲の良い友達も居ないせいか、休憩時間中も暇でずっと図書室に居た。

 それほど退屈なのは宇宙自身の性格に難があるからだけど、今日のところは少し違った。


(ダンジョンでは友達になれたと思ったのに……やっぱり僕の勘違いだったんだね。はぁー、早とちりしちゃうなんて……迷惑だよね、きっと)


 そう思うのは仕方が無かった。

 つい先日初めてダンジョンに行ってみた。いわゆるダンジョン配信と言うやつで、たくさんの不思議体験をしてきたけれど、その成果で同じクラスの子を成り行きで助けた。

 むしろ助けられたとも言っても良いのだが、そこである程度親密度を深めた。

 つまり友達に成れたと、宇宙は薄っすらと考えていた。

 だけど何も変わらなかった……。


(それもそうだよね。名前も良く知らないもんね……)


 おまけに配信をしたというのに、誰も宇宙に話しかけることはなかった。

 瞬間ではあるがランキングの急上昇欄にも躍り出ていた。

 それは宇宙が顔バレしてしまったからだけど、全くと言っていいほど変化が無かった。

 むしろいつも通り過ぎて、自分なんてと自己肯定感がより一層低くなってしまった。


(でもその方が良いかも……うん、これも避けない詮索を避けるためには必要だよね。多分……)


 それでも頑張ってポジティブに捉えようとしていた。

 変に仲の良くない子に話しかけられても初見の反応に困ってテンパりたくなかった。

 ただそれだけの安寧なのに、如何してか宇宙の心は軽くなった。


「なあ、この間の配信観たか?」


 ふと宇宙が息を吐くと、クラスメイトの小さな声が聞こえてきた。

 スマホを授業中なのにバレないように取り出し、何やら配信のことを話していた。


「この間さ、普段観ないんだけど急上昇に上ってた人がいたんだよ」

「へぇー。どんな人だよ」

「碧衣ソラって人なんだけど、マジで凄かったぜ。主人公って感じでさ」

「そうなのか? んじゃ王道系?」

「うーん、何だろ。メンタル雑魚だけど、本気出せば何でもできる系?」

「んだよ、それ。変な人だな」


 小言だったけど、宇宙の耳には良く聞こえていた。

 本当のことなので、グサリと宇宙の胸を貫いた。

 メンタルがガタ落ちして、ネガティブな空気が立ち込めた。

 すると教室の中が鬱蒼とし出し、古典の先生が「うっ」と声を漏らし始めた。


「な、何か空気重くね?」

「気のせいだろ……気のせい」


 宇宙の空気が伝染していた。

 教室の中で謎の空気の違和感を感じてしまったが、誰が原因で何でそうなったのか分からなかった。これも宇宙のメンタル的な才能の一つだった。


「えー、あっ、そこ! さっきから喋ってないでノートを取りなさい。次ぎ当てるよ」

「えっ、それは勘弁すよ!」


 するとさっきまでぶつぶつ呟いていた男子生徒が先生に怒られていた。

 軽口を叩きつつも「いいからノートを取れ。次の中間試験、痛い目を見ても知らないぞ」と正論をぶつけられてしまったので、「は、はい」と渋々黙ってノートを取り始めた。


(可哀そう……)


 宇宙はそう思った。だけど自業自得だとも思った。

 すると心の中にあったモヤモヤが溶けだし、不意に空気感が元に戻った。

 謎の空気の違和感を感じなくなったので、再び教室内は騒然とした。何が起こったのか、答えの分からない結果に、クラスメイト達は首を捻っていた。


(まあいっか。それよりも……)


 その空気にも全く動じなかったクラスメイトも居た。

 そのうちの一人で、宇宙は目立つ髪色をした少女を見つめた。


(やっぱりスタイル良いなー。モデルさんみたい。おっと、ガン見したら変な奴って思われちゃうよね)


 不意に視線を逸らした。

 宇宙も中間試験に向けてノートをサラサラと取ると、少女へと視線をチラつかせた。

 多分向こうは気が付いていないので、何事も無かった。


「はい、今日はここまで。次回は教科書二十八ページから。予習しておくように」

「「「はーい」」」


 古典の授業が終わった。

 教室の中は授業が終わった余韻に浸り、仲の良い友達と喋り出した。

 完全にグループができていて、とてもじゃないが宇宙には混ざれる空気じゃなかった。


「ふぅ。さてと……」


 宇宙は完全に存在感を消していた。

 その視線を教室に配ると、白髪の少女は居なくなっていた。

 いつの間にか教室を出て行ってしまったので、宇宙に見つける手立ては無かった。

 それにこのままじゃストーカーになってしまうと思った宇宙は、これ以上余計な詮索はしないことにした。それが一番丸いと思ったからだ。


「ちょっと絵でも描こうかな」


 ペン回しをクルクルさせた。

 ノートの片隅に小さなイラストを描いた宇宙は暇な時間を潰すのだった。

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