第30話 一日で色々あったけど

 一日、いいやたった数時間のうちに登録者数が八万人を超えていた。

 こんなことがあるのだろうか?

 いわゆるバズったってやつだけど、宇宙は喜びきれないでいた。


「えーっと、ごめんね」

「……それは謝って済む話なのかしら?」

「えーっと、すみませんね。はい、すみませんでした」

「掛けなくていいわ」


 少女は無表情でツッコミを入れた。

 それとそのはず、話が急展開すぎて理解が追いつかないでいた。


 要は宇宙が少女を助けた場面が砂嵐の中、微かに映り込んでいたらしい。

 魔曲武者の熱波を受けても尚、最も低い画素数で配信を続けてくれていたようで気が付かなかった。


 その結果、いわゆる主人公的な、人間のヒーロー願望が働いてしまった。

 人々の視線と好感を集めてしまったことで、急上昇ランキングに躍り出て、結果こんなことになってしまった。


「別に僕は助けてないし、むしろ助けられた方なのに……ごめんね」

「そんな事はいいわよ。それより、私の素顔が出たのよね?」

「う、うん。魔曲武者の熱波のせいで、モザイク加工が入らなかったみたい何だ……ごめんね。後で、その……モザイク掛けておくから。そ、それよりアーカイブ消すよ!」

「いいわよ、そこまでしなくて。どうせ私の顔なんて知られているから」


 少女は達観していた。

 如何言う意味かと問おうとしたが、宇宙は一瞬躊躇った。


(顔が知られてる? 如何言うことだろ? 僕は知らないけど、もしかして有名人なのかな? でも学校ではそんな感じで振る舞ってないのに……うーん、もしかして僕だけ遅れてる!?)


 宇宙は目を見開いた。

 ジーッと少女を見つめたまま、ただのクラスメイトでは無いのかと考えてしまった。


 しかしその視線があまりにも痛かったのか、少女がチラ見した。

 それから口を尖らせた。

 

「何?」

「ご、ごめんね」

「別に謝らなくてもいいから」


 少女は怒る事はなく、とてもあっさりしていた。

 宇宙は一安心して胸を撫で下ろすと、少女はキリッとした表情を向けた。


「けれどこれで共犯ね」

「き、共犯!?」


 何が如何してそんな謂れをされるのかと、宇宙は固まった。

 しかし少女は笑みを浮かべたままそれ以上言葉を発しようとはせず、宇宙も宇宙で言いづらかったので、何も言えずに電車に揺られることになるのだった。


 *


 宇宙は電車を降りると、真っ直ぐ家路へと向かった。

 少女も同じ駅だったのだが、特に話すこともないのでそのまま別れた。


「ううっ、大変だった……」


 相当クタクタになった。

 体が変に重くなり、家に着く頃にはげっそりしていた。


 カランコローン!


 一階の喫茶店の扉を開けた。

 昔ながらの鈴の音が聞こえ、潤夏がやって来た。


「いらっしゃいませー。えっ、宇宙君!?」

「潤夏姉ただいま」

「ただいまじゃないよ。如何したの?」


 朝とは比べ物にならない悲壮な顔をしていたので、潤夏も驚きが止まらなかった。

 それどころの騒ぎではないと、直感しすぐさま駆け寄る。


「何があったの?」

「えーっとね……うん、色々あったよ」

「色々?」


 色々が多すぎて、何があったとは言い切れなかった。

 それでも潤夏は頭の中で軽く想像し、もしかしたらと思った。


「魔曲武者に会ったの?」

「うん、会ったよ。倒したけど」

「倒したの!? それは疲れても仕方ないわね。でも……そっか、熱波攻撃と寒波攻撃を掻い潜ったのね」

「寒波攻撃?」


 そんなの知らない。むしろそんな攻撃して来なかった。

 潤夏は首を捻っていたが、宇宙も同時に首を捻った。


 まさかここで新事実。別個体に遭遇していたようだ。

 しかも潤夏が知っているものよりもより弱い個体だった。


 それに苦戦をするなんてと、宇宙は落ち込んだ。

 けれど初心者にしてみれば上出来だった。


「それで、何があったの?」

「えーっと……うーんと、凄いことの連続」


 話が一つ区切られたので、もう一度潤夏は尋ねた。

 けれど宇宙の頭はパンク寸前だ、話でいいことと駄目なことが混ざり合って、話だけのパワーが残っていなかった。


「ごめんね、潤夏姉。僕疲れてるみたい」

「そ、そうね。親和性が高すぎたの?」

「う、うん。そうみたい」


 親和性の話を知っていたのなら、最初にして欲しかった。

 宇宙は一瞬だけ魔が差してしまったが、すぐさま忘れた。


「えーっと、それじゃあ何があったのかは聞かないけど、何か良いことはあった?」

「良いこと?」

「そうよ。何か楽しいこととかあったのなら良かったけど……その顔は聞かなくても良さそうね」


 潤夏は宇宙の表情を見て察した。

 それだけ達成感のある目をしていたのだ。


「えっ、如何言うこと?」

「ううん。友達でもできたのかなって?」

「如何してそんなにピンポイントなの?」

「さあね。でもダンジョンはどんな人に出会うか分からないから、時には共闘しないといけないこともあるのよね」


 潤夏は流石のコミュ力だった。

 宇宙も見習いたいと思った。

 けれどそこまでのことをすぐには実践できない。


 だけど、宇宙は少しだけ笑みを浮かべた。


「友達かは分からないけど……ちょっとだけ仲良くなれたよ」

「そう。それじゃあ良かったわ。楽しかったみたいね」

「疲れたけど……楽しかったよ」


 宇宙は満足だった。

 とは言え色々ありすぎて、本当に疲労がピークだった。

 まさか一日でこんなに色んなことが起こるとは誰も思わないので、仕方がなかった。その分楽しいこともあったし、嬉しいこともあったので、宇宙の気持ちは清々しかった。


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 ここまで読んでくださいありがとうございました。

 現在二章を執筆中です。

 プロローグに繋がるような形で考えていますので、おそらく七月ごろには投稿できると思います。

 しばしの間更新はお休みしますが、是非何度も読んでいただけると嬉しいです。

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