第29話 登録者が爆増していた件
それからソラと少女は家路へと着くことにした。
お互い駅までやって来ても無言だった。
会話するネタも無いので、仕方ない。
けれど何だか気まずかった。
(ど、如何しよう……何か話さないと駄目かな?)
せっかく友達? になれたのに、全く会話がなかった。
と言うよりも、まだ友達になったわけではない。
宇宙が勝手に勘違いしているだけだ。
宇宙はもう配信をしていなかった。
ダンジョンから戻る際に配信を切ってしまった。
スマホがイカれてしまったのかと思ったが、砂嵐は止んでいた。
おかげで修理に出さなくて良く、ホッと一安心を付いたのだ。
(あー、こんな時に話せる勇気があれば……やっぱり駄目駄目なのかな?)
宇宙は自分を非難した。
だけどほとんど初対面の相手と面と向かって話せるだけのポジティブさも図々しさも宇宙には元々無かった。
だから仕方ないのだが、あまりにも空気が重い。
隣を歩いているのだから何か会話があっても悪くはない。
が、一言も互いに口を開かない。
それどころか、宇宙は小さくなってしまっていた。
対照的に少女はスタイルが良く、歩き方も堂々たしていた。
モデルのような佇まいだけではなく、歩き姿をしていた。
(綺麗だなぁー)
ふと視線に入ってしまった。
整った顔立ちや髪も相まってか、もの凄く映えた。
しかしジロジロ見ているのも悪かった。
けれど隣を歩いていると、自然と視線に入ってしまうものだ。
「何?」
「あっ、ごめん。隣を歩いているからつい」
「そう。歩きスマホをしないことは賢明ね」
「そんなのしないよ。ダンジョンの中だと、しても良いけど」
ダンジョンの中ではスマホを見ても良い。
と言うのも、ダンジョンは何が起こるか分からないので、常に連絡できる機器を手放せないのだ。
それに何よりも動画を観たりゲームをする暇がなかった。
そんなことをしている暇などないのだ。
それだけ命の危機が懸かっていた。
だから誰もしないししようとしない。何より後遺症が残る方が困るのは当然なので、常に気を張り続ける必要がある。
「本当、注意していればね」
「だ、大丈夫だよ。無事に帰れてるでしょ?」
少女はモンスターと戦う目的が果たせていた。
しかしそれでも微かにダメージを負う不覚を取ったので、そのことを気にしてしまっていた。
だから宇宙は少女を励ました。
しかしあまり意味がないみたいで、ムスッとした表情を浮かべられてしまった。
(ううっ、き、気まずい)
宇宙は冷や汗を流してしまった。
少女はそれ以降口を開かないでいた。
それからまた無言を貫く時間が続いた。
宇宙は話す話題も特になく、少女共にとにかく駅を目指し、しばらくの間待ちぼうけることにするのだった。
*
ギィィィィィィィィィィ!
電車がやって来た。
大体十分くらいベンチに座っていると、ブレーキをゆったりと掛けて停まった。
(来たっ)
とりあえず電車に乗り込んだ。
車内は異様なほど空いていて、宇宙と少女以外に誰も居なかった。
(す、空いてる)
宇宙は一瞬固まった。
しかし少女が素早く乗り込むと、足を組んで座ってしまった。
宇宙も遅れないようにと乗り込んだ。
それから一つ開けて座った。
(如何しよう。ここまで凄くだんまりだった。ううっ、とりあえずスマホでも見ようかな?)
宇宙はポケットからスマホを取り出した。
見れば少女もスマホを見ていた。
いつも通り動画配信サイトを開いた。
耳にイヤホンを付け、一人の時間に篭ろうとした。
その時だった。
不意に自分のアカウントでチャンネルスタジオを開くと、登録者数とさっきまでしていた配信アーカイブの視聴率がドンと目の前に飛び込んだ。
「ええっ!?」
宇宙は叫んでしまった。
その声に反応して、少女もチラッと視線を向けた。
ギロッと視線を向けられる。
しかし宇宙は構っていられず、視線をスマホに落としたままだった。
その異常性が気になったのか、少女は尋ねた。
「如何したのよ。急に車内で騒いで」
「ご、ごめんね。えーっと、色んな意味でごめんね」
「何のこと?」
宇宙は言い辛かった。
だけど当の本人には伝えないといけないので、ゴクリと喉を鳴らした。
それから三秒程間を取り、勇気を出して口を開く。
「えっとね、配信乗っちゃったみたい。顔が」
「ん?」
「えっとね、僕配信してるんだけどね……そのー。ごめんなさい」
ペコリと精いっぱいお辞儀をした。
少女は一瞬何が起きたのか分からなかった。
しかし宇宙の態度を見て何かを察したらようだ。
その時見せた表情には怒りのようなものはなく、意外に思われてしまった。
「配信? えっ、急に何を言ってるのよ?」
「えーっと、つまりその、配信に映っちゃったかも?」
「はぁ?」
首を捻って固まってしまった。
それもそうだよね、と宇宙は思ってしまった。
(まあそうだよね。そんな顔されちゃうよね)
だけど驚くこともあった。
いつもはこんなに伸びないはずなのに、少女が出たことによってか、かなり動画やアーカイブが回っていた。
それこそチャンネル登録者も七万人程爆増していた。
(な、何だろう。喜びたいのに、喜びきれないよ……)
宇宙は喜びたくても喜びきれなかった。
喜んでも良いことなのか、それとも駄目なのか分からないからだ。
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