第28話 お互い無事で何よりだったね。
ソラは達成感よりも無事なことに安堵した。
とりあえず死の味を舐めなくて良かったのだ。
「ううっ、助かったぁ!」
ソラはペタンと座ってしまった。
元々足腰が柔らかいので、女の子座りになってしまった。
ますます女の子になっている気がした。
しかも能力を解いたのに、すぐには戻ってくれないらしい。
ソラはしばらく戻るのを待った。
その間も少女のことを心配する。
「あ、あの。大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。痛っ!」
少女は左腕を押さえていた。
火傷の痕は無いものの、ヒリヒリしている。
見た目では分からないのだが、本人が苦い表情を浮かべていたから何となく伝わった。
ソラはそのことを気にしてしまい、もう一度「大丈夫?」と声を掛けた。
「火傷してるの?」
「そんなことないわ。それより貴女は何? 何処から来たの?」
今度は少女に質問されてしまった。
だけど引き下がるわけにはいかなかった。
「そんなのは話しながらでいいよ。とにかく手当しないと」
「ちょ、ちょっと!」
しかしここで手が止まった。
ソラは何も持って来ていないのだ。
「ご、ごめん。手当する道具何も持って来てなかった」
「でしょうね」
「ご、ごめんね」
ソラは落ち込んでしまった。
その瞬間、頭の中に何かイメージが湧いた。
左手を使えと訴えた。
何故かは分からないが、能力を再び使う。
すると左手が光り出した。
その手を見ていると、安らぎの気持ちに満たされる。
「もしかしてできるんですか? セレスさん」
「誰に言ってるの?」
ソラは今は亡き魂に語り掛けた。
何となくできそうな気がしたので、少女の左手にかざした。
すると眩い輝きを放ちながら、少女の腕を癒した。
「う、嘘でしよ!? 痛みが引いていく……」
「良かった。でも傷を癒せたんだ」
「だから分からなかったの?」
「う、うん。初めて使ったから」
ソラは全く隠す気がなかった。
少女は呆れてしまった。
「呆れたわ。とんだお人好しね」
「お人好しとかじゃ無いよ。一緒に頑張ったでしょ?」
ソラは当たり前のことを言ったつもりだ。
しかし少女は余計に呆れてしまった。
「馬鹿みたいね」
「馬鹿って……さっき言ってたよね? スライムが如何とかって……」
ソラが尋ねると、少女はハッとなった。
それから急いで立ちあがろうとして、腕が持ち上がる。
「そうよ! あのスライムは無事ににげやれたのかしら?」
「うん。えーっとね、あっ! おーい!」
ソラは周りをキョロキョロ視線を配る。
するとスライムの姿を見つけた。
安全になったので呼び寄せる。
ピョコン!
スライムが草むらから飛び出した。
エンカウントしたソラ達はスライムを迎え入れると、少女の方に飛びつく。
「あ、あれれ?」
ソラはスライムに素通りされた。
それから振り返ると、少女はスライムを抱き抱えていた。
「貴方が呼んで来たのね。でもお手柄よ」
スライムは褒められて嬉しそうだ。
それから地面に降ろされると、そのままペコリと顔を下に向けてから、何処かへと去っていく。
それから一呼吸置いた。
話始めたのは少女の方だった。
「でもアレね。まさか私と同い年くらいの女の子に助けられるなんて」
「えっ?」
「意外だったのよ。私、友達のような親しい間からはいないから」
凄く悲しいことを口にした。
けれどそれを言えばソラも同じだ。
親しく話せる同級生はそうはいない。普通に会話するレベルで、親友と呼べる人はいない。もちろん彼女もいない。
「あ、あの……」
ソラは言葉を紡ごうとした。
何と言ったらいいのか分からないけど、とにかく言いたかった。
「ね、ねえ、えーっと」
「何よ?」
「その、良かったら友達にならない?」
「はっ!?」
少女は唖然たした。眉根を寄せて睨んできた。
ソラはオドオドしていた。
急に睨まれたので、もしかしたら嫌われたと思ったのだ。
だけど言ってしまった以上は仕方ない。
流石にソラも引き返すことはしない。
「だ、だってほら! な、何だろ? えーっと、ねっ?」
「意味が分からないのだけど」
少女は考えることすら億劫だった。
完全にコミュニケーション能力がお互いに欠如していた。むしろ足りていなかった。
だけど少女はしばし考えてから言葉を選んだ。
柔らかな唇から出た言葉は、ソラにとっては意外な幸運だった。
「まあ、考えておくわね」
「えっ、いいの?」
「考えておくって言ったのよ。別に減るものじゃないし、私も嫌いじゃないわ」
「や、やった!」
ソラは拳を突き出した。
その瞬間、心が晴れた。
と、同時に変なことが起こる。
「あ、あれ戻った!?」
「えっ、ちょっと待ちなさい。貴女、男だったの?」
「う、うん。ご、ごめん……」
少女は体を硬直させた。
脳の機能が著しく低下しててフリーズする。
それもそうだとソラも納得だ。
自分自身、まだ納得できていないのだから仕方ない。
それが他人となれば尚のことだ。
頭の中では理解できていないことが、目の前で繰り広げられる。
「何が如何してこんなことに?」
「わ、分かんないけど。でも、騙すつもりはなかったんだよ? 僕能力を使うと親和性が高いとかで、その……ごめんなさい」
ソラはペコリと謝った。謝ることではないが謝った。
尊厳だとなそう言ったものが邪魔をしていた。
これは険悪になる。そう確信した。
しかし少女は寛容だった。
「はぁー。まあ、そうね……」
大きな溜息を一つ零す。
しかしそれ以上はなく、顔を上げたソラに対して腕組みをしながら感謝を述べた。
「一応助かったわ。ありがと」
「あっ、如何いたしまして……でも」
「でもね、もう少し自分の力の幅を知って、ちゃんと自信を持ちなさい。そうじゃないと、ダンジョンは簡単に貴方自身の心と体を食べてしまうわよ」
ソラの言葉を封じた。
それから少女ははっきりとした物言いで、駄目出しした。
ソラは自覚があったので何も言えなかった。
けれどそれはソラだけが悪いわけではない。
そのことが分かっているけれど、少女自身も気が付いていた。
だからこそすぐに言葉を潰した。
代わりに頬を少しだけ赤らめさせていた。それが何とも可愛い。
「でもまあ、一応は感謝しておくわ」
「あ、う、うん。そんなに大したことはしてないけど」
「謙遜は止めて。私が惨めに見えるから」
少女はそう告げた。
腕組みをしていたが、やはりスタイル抜群で、カッコ可愛かった。
ソラは如何やら少女を見事に助けてしまったらしい。
何となく物語の主人公になった気分だけれど、それから特に発展することはなかった。
「それじゃあ帰りましょう」
「う、うん。そうだね」
最後までキョドっていた。
それだけ精神がまだあやふやで、自分に自信を持てていない証拠だ。
完璧を求めてはいなかった。
だけどもっと勇気があればと思った。
ソラは大きな溜息を吐きそうになったが、無理矢理堰き止めた。
今はとりあえず少女と無事を祝い、帰ることだけを考えるのだった。
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