第25話 結局放って置けないから
ソラは草むらの中でそんなことを思っていた。
しかし急にマズいことになった。
モンスターが四肢を震わせた。
鎧のような防御のための皮膚が、突然刃状に伸びたのだ。
「ここで形状変化……」
白髪の少女は唇を噛んだ。
痙攣している全身を奮い立たせると、周囲に目を配る。
「あのスライムは逃げ出したようで何より。これならようやく……うっ!」
少女は目を瞑った。
痛みがピークに達したようで、血管から筋肉にかけてを電撃が襲った。
(動かないんだ。でも如何して?)
少女の体が動かなくなった。
痛みがピークに達したからにしては唐突すぎた。
気を抜いたようには見えなかった。
むしろ全神経を研ぎ澄ませた気がする。
と言うことは別のところにあった。
注意深く見てみると、炎が刃を振動させていた。
「あ、熱い……痛い!」
少女が悶絶していた。
見えるのに見えない攻撃が少女を蝕む。
「何が起きてるの? もしかして、高温? つまりは熱!」
答えは簡単。刃を振動させる熱エネルギーが熱波を生み出していた。
あまりにもファンタジーだが、これがダンジョンの猛威だった。
自然と足が前に出ていた。
助けに行こうとした瞬間、少女は牙を向いた。
「だったら……」
少女は力を振り絞った。
細い腕を地面に付けて何かをしようとするが、その瞬間熱が襲った。
「うわぁ!」
地面が熱くなっていた。
まともに触れない程高温で熱されていたので、少女は急いで手を離した。
手のひらが火傷になっていないのは幸いだった。
それでもダメージはあり、作戦変更を諦めた。
「くっ。地面を熱されたのなら!」
少女は近くの木に向かって走り出した。
素手で木の幹に触れようとする最中、熱風を孕んだ刃が少女の行手を阻んだ。
如何やら相当怒っているようで、少女を逃す気はないらしい。
絶体絶命のピンチ。そんな中、ソラは如何したらいいのか自問自答していた。
「如何しよう……如何したらいいの?」
何度も思った。
ソラは戦えるだけの力を持っていなかった。
未だに能力の発動が定かではない。
ヘリオスとセレスが能力をくれたとは言っても、どんな能力でどんな形で発動するのかも分からない。
それが分かれば最初から苦労はしていなかった。
完全に当てのないガチャを回す前のようで、ソラは渋ってしまった。
「ヘリオスさん、セレスさん。僕にどんな能力を……」
両手に視線を落とした。
手のひらを見てみたが何も起こらず、剣を構えて必死に戦うクラスメイトの少女を見守るしかできない。
「いいや、それは違うよね。誰かに言われるとかじゃなくて……このままじゃ本当に」
ソラは手を握った。
嫌な汗が滲み出る中、少女が剣を叩きつけた。
しかし強靭な鎧が炎で振動させている手前では、いくら叩きつけるような攻撃も封殺されてしまう。
「くっ! はぁっ!」
少女は後ろに飛んだ。
しかし間に合わずに着ていた服の胸部分が大きく裂かれた。
「あっ!」
ソラは足を前に出していた。
膝を立てて少女の身を案じるも、怪我は負っていなかった。
とは体勢を崩されてしまい、その隙にモンスターは近づくと、刃を引っ提げた。
(このまま本当にマズいことになっちゃう。……ここに来たのは変わるためだ。こんなところで止まってられない!)
ソラは自分を鼓舞した。勇気を震わせた。
すると心臓が熱くなった。
極度の高鳴りが激しく訴えかける。
ソラの臆病でパニックに心を微かに動かし、意識が呼び掛けるよりも早く体が動いていた。
「こんなところで負けるわけには……はぁっ!」
少女が唇を噛んだ。
モンスターの鋭い爪が引き裂こうとする瞬間、炎が激しく揺らめいた。
「燃やせ!」
女声を無理やり低くしてカッコつけていた。
少女の目の前に居たのはソラだった。
「確かに僕は臆病ですぐにパニックになるけど……一度決めたここらが折れることは絶対に無い!」
まさしく主人公だった。
ソラは目を大きく見開くと、炎が髪を揺らした。
それにしても、一体何が起こったのか。
如何して炎が現れたのか。
ソラも少女も理由を知らなかった。
少女が引き裂かれそうになる瞬間、ソラが間に割り込んだ。
その瞬間両方の手のひらを合わせると、急に右手が熱くなった。
強烈な熱エネルギーを感じたのだ。
チラ見する暇もなく、気が付くと炎が出ていた。
後は簡単。右手から出た炎がモンスターの爪を炎で無理やりに受け止めたらしい。
本当に意味が分からなかった。
しかし少女の肉体と精神を守ることはできた。
「……貴方は誰?」
「そんなの今はいいよ。それより立てる?」
少女は地面に転がっていた。
その状態で体を起こしてソラに尋ねる。
しかしソラは軽く一蹴した。
自分の能力のことも完全に二の次で、少女の身を案じたのだ。
「……ええ、何とかね。うっ!」
口では強がっていたが、実際足は動かなかった。
体を起こすことはできても、ここまで一人で戦っていた。
慣れない戦闘ではないようだが、それでも疲労が蓄積していた。
表面上には出ていないが、火傷でも負ったようすだ。
「無理しないで。そこにいて、後は僕がやるから」
「貴女が? 突然出てきたのに?」
「突然出てきたけど、全部見てたから。だから僕、絶対に負けないよ!」
ソラは宣言した。
すると両手の手のひらが、それぞれ白と赤の光を放っていた。
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