第24話 剣士の少女はクラスメイト?

 スライムを追いかけてソラは走った。

 この慌てようはただごとではないと直感する。


「この先に何があるの?」


 コメント欄を見ている余裕はなかった。

 そんなことをしていたらスライムを見逃してしまうかもしれない。


 独り言をポツリと吐き、異様に速いスライムを追いかけ続けた。

 すると突然。


 ズドォォォォォォォォォォン!


「えっ、えええっ!? な、何この音!」


 とんでもない爆発音が聞こえた。

 ここまで衝撃波が伝わり、木々が激しく揺れ動いた。


 木の葉が大量に散った。

 激しく擦れ合い、金切り音を発した。


「ちょっと待って。今の音何?」


 コメントで何か分からないだろうかと尋ねた。

 しかしここにきて電波が急に悪くなった。

 

 カメラだけは回っていたが、かなり画質もfpsも悪くなった。

 非常に配信向きでないフレームレートと砂嵐を前にして、ソラは愕然とした。


「ど、如何しよう……こんな状況になるってことは……」


 相当危険な状況に陥っていた。

 ソラはそこまで直感だけで察すると、目が右往左往し始めた。


「ねえスライム。何が起きたの?」


 スライムと動きを止めてる。

 キョロキョロしていたが、ソラに尋ねられて急に動き出した。


 坂道を駆け降りていく。

 ソラはその後を続き、突然左に曲がった。

 草むらの中にダイブした。


「うわぁ! な、何で草むらなんかに!」


 顔に擦り傷ができた。

 スライムが草むらの中に入ったので何かあると思ったが何も無く、ソラはギュッと目を瞑った。


 しかしソラはすぐさま状況を飲み込まざるを得なくなった。

 飛び込んだ草むらの中から、カキーン! と金属がぶつかる音が聞こえたのだ。


「えっ、えええっ!?」


 明らかに人為的だった。

 しかも戦闘が繰り広げられているようで、もしかしたらスライムはコレを止めて欲しかったのかもと思った。


 が、如何やら違うらしい。

 プルプル震えていて、怯えていた。


 草むらの中から外を見た。

 すると鋭い剣の切っ先が、巨大で分厚い爪とぶつかり合っていた。


 カキーン! カキーン!


 激しく剣と爪が擦れ合った。

 火花を散らしてぶつかり合い、白熱するアクション映画が展開された。


「す、凄い……」


 片方はモンスターで、四足歩行の巨大な虎のようだが、何処となく鬼のような出立ちも感じさせる。

 全身が鎧のように分厚く、口からは火を吐いていた。


 ガッチリとした四肢。牙と爪をギラつかせる。

 逢魔時を司り、禍を招くような獰猛さを持ち合わせていた。


「人気出そうな敵キャラだよ」


 一方剣を構えていたのは少女だった。

 荒い息遣いで、肩を上下させていた。

 酷く体力を消耗しているようで、腕がプルプルしている。


「如何してこんなモンスターと……」


 少女は綺麗な白髪を携えていた。

 風に揺らめき銀色にも見えた。


 肌の色もやけに白かった。

 華奢な体格だが欲しいところにはきちんと筋肉が付いていた。理想的な体と言える。


 顔立ちもかなり整っていた。

 まるでお人形さんのようで、目付きが鋭かったが逆にそれがクールキャラとしての人気を確立させた。


「綺麗な人だなー……って、あれ?」


 そこでソラは目を擦った。

 何処かで見覚えがあるなと薄々勘付いていたが、この間ぶつかった子だ。


 普段から人目に触れるようなタイプではなかった。

 しかし同じクラスメイトの顔をソラは基本的に忘れることはなかった。


 名前はあまり覚えていないけど、ぶつかったので忘れるわけがない。

 しかも直近の記憶ということもあり、よく覚えていた。


「よ、余計に如何してだよ! 何で同じ学校のしかもクラスメイトであんなに綺麗な人が? ええっ!?」


 驚くのも無理はなかった。

 少女が手にしているのは自分の身の丈よりも分厚くて長い長剣だった。


 もちろん大剣なら何となく理解はできそうだ。

 しかし大剣ではなく普通に細身、しかし長かった。


 大降りになってしまうせいもあり、体力の消耗も激しかった。

 けれどそのおかげでモンスターとの距離を的確に測りながら、安全な位置で攻撃ができるのだ。


「はぁはぁ。流石にジリ貧ね」


 少女は顔を拭った。

 血などは出ていないものの、汗が鼻に溜まっていた。


 額や顳顬からも薄らと汗が流れた。

 死闘を行なっているので全く気が抜けなかった。


「こ、こんなの映画とかのレベルじゃない。本当なんだ……本物なんだ」


 ソラは見ているとしかできなかった。

 カメラを自然と下ろし、映さないように配慮した。


「スライムは僕にあの子を助けて欲しくて呼んだの?」


 ソラは自信を喪失していた。

 そこでスライムに真意を尋ねてみた。


 スライムがソラの方を向いた。

 目がうるうるしているので、如何やら本当に助けを呼びに来たようだ。


 しかしソラはできなかった。

 勇気が無いとかではなく、今の状況で飛び出してもきっと役に立たないと感じたのだ。


「ごめんね。僕も助けに行きたいけど……僕じゃ如何することもできないんだよ」


 本当に悔しかった。

 何もできないことがここまで心を蝕むなんて、今までなかった。


 ヘリオスとセレスの時とは違った。

 ここではいくら殺されてもダンジョンの外で復活できてしまう。


 痛みや苦しみ悲しみは残るものの、それでも死は訪れなかった。

 故に如何することも、如何してあげることもソラには残されていなかった。


 しかしそう言っていられる時間は無かった。

 一瞬でマズいことになってしまうのだった。

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