第23話 洞窟を出るとスライムがいた。
色んなことがあった洞窟を出た。
暗いところから明るいところに急に出たので、とっても眩しいソラだった。
「うわぁ、眩しい!」
顔を腕で押さえた。
目の黒い瞳に直接光が集約して射し込んだので、とっても痛かった。
「目がチカチカする……」
目がチカチカして仕方なかった。
ソラはグッと奥歯を噛んだのだが、スマホの画面が勝手に暗くなっていた。
“暗いところから明るいところは見るべきじゃないよー”
「コメントの人、そういうのは早く言ってよぉー!」
ソラは自分のしでかしたことに文句を吐いていた。
他人のせいみたいに言ってしまったが、それでもコメントをくれる人達は寛容だ。
“フィルター掛ければ?”
「僕はロボットじゃないんだけど?」
“グラサンの出番っしょ!”
「持って来てないから」
“疲れてないですか?”
「疲れてるのかも」
大量のコメントを処理した。
いつもの笑みは無く、とりあえず疲れた。
先程までのスッキリとした心には何処となく不思議な感覚が過った。
何と言おうか? 例えが例えにならないが、無限の宇宙に星々が爛々と光っているみたいな感じだ。
(不思議だ。ポワポワする)
ソラはとりあえず帰ることにした。
目的も達したので、後は予定もなかった。
潤夏に言われていたことがある。
この陽喰の森は確かに初心者にも安全だが、一つだけ注意しないといけなかった。
元々ネットでも噂にはなっていた。
掲示板にも書かれていたので、頭の片隅に入れていたが、大変危険なモンスターも中には生息しているそうだ。
「と言うわけで今回はここまで……ん?」
ソラの動きが急に止まった。
配信を切ろうとした手を止め、視線が一点を見つめた。
木々の合間、草木の影から青い何かがチラ見えした。
コメント欄では何が起きているか分からないので、カメラをアップにして確認を取った。
「ねえ、あれ何かな?」
青いプルプルした固体が動いていた。
震えているのか、頭隠して尻隠さず的な状態だ。
“スライムでね?”
“もしかしてさっきやられたスライムかも!”
“今ならチャンスですよ。リベンジです!”
“こっち見てないな……行ける!”
みんな戦闘狂だった。
しかしソラはそこまで殺伐した空気を出せず、妙に静かで落ち着いていた。
何かあったのかもしれない。
そう思ったのは、ソラが感情的で屈託が無いからだ。
「震えてる? 何かに怯えてるのかな?」
流石にソラにではない。
だって一度倒した相手(勝手に逃げた相手)に臆するわけがなかった。
普通にやっても強いのに、同じ個体ならソラを見つける次第攻撃して来てもおかしくない。
だけどスライムはじっと震えたままだった。
不気味に感じ、空気が自然とどんより重くなる。
“調べてみたら良くね?”
「そうだよね。調べてみた方がいいよね。でも……また襲われたら……って言ってる場合じゃないかも」
ソラは勇気を出して足を前に出した。
するとスライムが気配を察知したのか、プルプルの体が背中からトゲトゲになった。
「うわぁ! やっぱり同じ個体だ」
嫌だなと正直に思ってしまう。
しかし攻撃をしてこないので、ゆっくりと近づいた。
後ろに忍び寄ると、捕まえてみようとした。
しかし後ろにも目があるのかと疑うレベルで、スライムが反転した。
「急に振り返らないでよ!」
またしても突っ込んできた。
今度はやられないぞと、ソラは身をかわした。
はずだったーー
「えっ!?」
スライムはソラの胸に飛び込んできた。
しかも今度は攻撃の意思が無く、プルプル震えていた。
怯えた目をしていた。
黒豆のようなまん丸とした目が右往左往している。
(ふ、不安だよ! 不安が募っていくよ! 何でこんなに強いスライムが!? えっ、スライムだからって言ったらいいの? 所詮スライムはスライムなの!?)
スライムが弱いなんて固定観念でしかない。
実際こんなに強いスライムが居たとは思わなかった。
けれどこの状況は何? 如何してこうなった?
自分よりも弱いはずの者に縋り付いていた。
不気味な空気がより一層立ち込めた。
「ね、ねえ。何かあったの?」
言葉が通じるとは思っていなかった。
しかし如何しても気になってしまい、声を掛けていた。
するとスライムが顔を上げた。
プルプルとした体と潤んだ黒豆の目がソラを見つめた。
ソラの目は不安で一杯のはずだ。
しかしスライムは何に頼り甲斐見出したのからスライムが急にソラの胸から降りた。
ちょこんと座って可愛い。
ソラも見惚れてしまうほどで、じーっと観察してしまう。
すると「こっちこっち!」と合図するみたいに体を伸び縮みさせた。
「えーっと、こっちに行けってこと?」
するとスライムがコクコクと頷いみせた。
それから勝手に駆け出してしまった。
突然のことで目を丸くした。
一瞬だけ思考が停止したものの、すぐさま手を伸ばした。
「あっ、ちょっと待ってよ! は、速いし」
スライムが思った以上に速くてびっくりした。
ソラは急いで追いかけることにする。
「ち、ちょっとだけ続けます!」
もう少しだけ配信を続けることにした。
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