第22話 結局変わったのは体だけ
何だか清々しかった。
洞窟の中、空洞に天井には穴が空いていた。
そこから射す薄らとした陽光が、暗闇を中から照らした。
ソラは天を仰いだ。
ここに縛られていた二つの魂が天へと還って行った。
まさかこんな経験をするとは思わない。
だからソラの心も凄く軽くなった。
もちろんしんみりとした。
とは言え悲しさは全く無かった。
「これで良かったんだよね。絶対良かったんだよね」
ソラは自分に言い聞かせた。
もちろん言い聞かせなくても決まっていた。
ソラの心は軽いので、そこに怯えはもう無かった。
「さてと、そろそろ戻ろうかな」
金縛りは完全に解けていた。
踵を返してみると、洞窟の入り口へと向かって歩けそうだ。
「と、その前に。ありがとうございました」
ソラはもう一度振り返った。
そこに骨はもう無かったが、手だけは合わせておくことにした。
「これで良し。さてと、元の姿に戻ったし、帰ろう」
そう言えばスマホは動くのかな?
ソラはノイズが走り、画面も砂嵐状態だったスマホの画面を覗き込んだ。
すると元に戻っていた。
しかしコメント欄は何が如何したのか分かっていなかった。
“急に配信が観られるようになひました!”
“何があったん?”
“やっと観れる”
“音割れ酷すぎて何も聞き取れなかったんですけど?”
“洞窟って電波届かないんですね。今時そんな場所があるとは”
“やっと観れたー。ってあれ? ソラさんちょっとスッキリした顔になってません?”
コメントが久々に届いた。
ソラはちょっと嬉しくなり、にこりと笑みを浮かべた。
「みんなありがとう。ちょっとだけ嬉しいことがあったんだ」
とは言えどんなことかは言えなかった。
そう言う約束なので、口出しはNGにした。
しかしコメント欄ではソラの体のことも気にしていた。
如何やら元の姿に戻っていたのが気になったらしい。
“ソラさん、元の姿に戻ってます!?”
“胸が……無い?”
“本当に男だったんですね”
「やっぱりみんな気になる?」
ソラは首を捻った。
するとコメントで“気になります!”とたくさんのコメントが届いた。
「うんとね、僕もよく分かってないんだけど、僕は能力との親和性が普通の人よりも高いみたいなんだ」
未だにピンとは来ていなかった。
そこで言葉の歯切れが悪かなるが、コメント欄では“?”が続いた。
“親和性?”
“そう言えば性格がガラッと変わる人がいるとか何とか”
“ダンジョンに入るには薬を打たないといけないんですね。ちょっと怖いです”
“体が変化するとか夢ありすぎんだろwww”
「確かにちょっと面白いかもね。……って、全然嬉しくないよ!」
ソラは一瞬だけくすりと笑って見せたが、すぐにムッとした表情に戻った。
コメントではそんなソラの表情を見て、かなり好感触を覚えていた。
“やっぱ可愛いっすね!”
“ソラさんって体は変わっても性格は変わらないんだね”
“よく分からんがとにかく良し!(500円)
“可愛い記念です。受け取ってください”(5000円)
“また女の子になってー”(300円)
“ソラさんは男と女も虜にする”(777円)
凄い量の投げ銭が投げ込まれた。
瞬きを車もないのでソラは驚き、同時に呆れてしまった。
(みんな、やっぱり女の子の方が好きなんだ……)
ソラはちょっとだけ落ち込んだ。
そんな表情からは優しいやんわりとした吐息が漏れた。
「みんな意地悪。ぷいっ!」
ちょっとキャラを作ってみた。
するとコメントらが湧き始めた。
大量のコメントで見えなくなった。
投げ銭も大量投下され、今日一日だけで五万円くらい投げ銭だけで稼げた。
何だか喜んで良いのに喜びきれなかった。
(な、何だろう……釈然としないよぉ!)
ソラは天を仰いだ。
もちろん洞窟の中なので光はなく、スマホの画面だけが白く光っていた。
“そう言えばモンスターは居なかったんですか?”
コメントでそんな質問が転がり込んだ。
これは話をすり替えるチャンスだと思った。
「うん。一番奥まで行ってみたけど、何にも無かったよ」
“味気なくない?”
“こんなに広い洞窟なのに何も無いの?”
“つまんねぇの”
“本当は何か隠してたりして?”
「そんなことないよ! もしかしたら見落としがあるかもだけど、奥に行けば行くほど電波悪くなるし、スマホのバッテリーも減るんだよ?」
ヘリオスとセレスのことを言わないためにもできるだけ話を絞った。
そのせいで変な言い訳になってしまったが、何とか分かってもらう。
「それより僕が嘘つくと思うの? 心外だなー」
ソラは慣れないキャラを演じてみた。
あざと可愛いキャラを獲得し、コメントの惹きを狙う。
“あっ、ソラさんが怒った!”
「怒ってないよーだ。って、このキャラ疲れる……僕らしくないよ」
ソラは一瞬でキャラが溶けてしまった。
恥ずかしくて仕方がなく、突然素に戻ると赤面してしまった。
耳が真っ赤になっていた。
全身が発熱して体が震えた。
「って、ああもう! 何で体は変わっても性格は変わらないの! これじゃあ全然意味無いよぉ!」
“そんなことないですって”
“可愛くていいじゃないすか”
“可愛い男の娘なんて絶対人気出るよ。同人誌になるって!”
「嬉しくない! 全然嬉しくないよ!」
ソラは頭を抑えていた
早く早乙女宇宙に戻りたくてウズウズしているのだった。
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