第21話 能力を受け継ぐ広い宇宙

 いつの間にか元の姿に戻っていた。

 ソラはとても嬉しかった。

 一時は如何なるかと思っていたが、何が如何転んで元の姿に戻ったのか分からなかった。


「えっ、は、はい? な、な、な、なんで!? 何が起こったの!?」


 ソラは一人パニックに陥った。

 すると幽霊夫婦のヘリオスは「落ち着け坊主」と声を掛けた。


 ソラはピタリと止まった。

 すると腰に手を当てて「はぁー」と溜息を吐かれてしまった。


 そんなに迷惑だったのかと思った。

 ソラはしゅんとなってしまった。


「落ち込まなくても大丈夫よ。この人ね、キツイ言い方をしちゃうけど、とっても良い人なの」

「は、はい……落ち込んではいませんよ」

「それなら良かったわ。うーん、何に悩んでいるのかは知らないけれど、多分ソラ君は能力との親和性が・・・・・・・・細胞レベルで高いの・・・・・・・・・しれないわね・・・・・・

「さ、細胞レベル?」


 もしかしたらそのせいでこんな体になったのかもしれないと思った。

 しかしそれは良いことなのか悪いことなのか分からなかった。


「あ、あの、それって体に変化とか害とかは……」

「聞いたことないわね。ねえ?」

「ん? ああそうだな。多少体に変化はあるが、すぐに戻るぞ。能力さえ使わなければ何ということもないはずだ」

「そ、そうなんだ。良かったー」


 ソラはやっと安心できた。

 その様子に安堵したのか、幽霊夫婦のヘリオスとセレスはようやく話に移れた。


「そんなことより坊主、頼みがあるんだが」

「頼みですか?」

「ああ。俺達の亡骸……このままにしてくれねぇか?」

「えっ!?」


 ヘリオスはそんなことを言い出した。

 ソラは唖然としてしまった。

 埋葬されないまま、こんな寂しい洞窟の中に放置するなんてこと、しても良いのか不安だった。


 呆然とするソラにセレスがさらに続けた。

 如何やら同じ気持ちのようだ。


「俺達の体を誰かに触らせたくはない。どうせ土に還るんだ。それなら、このままにしておいてくれ」

「私達はいつまでも二人一緒。だから……お願い」


 二人はよっぽど愛し合っていた。

 その気持ちをソラは理解できなかったが、意図は伝わった。


 本当は報告した方が良かった。

 次ここに来た人がパニックにならないように先手を打つためだ。


 しかしあの矢印のこともあった。

 前にここに来た人がそのままにしているのなら、ソラもそれに従うだけだ。


 それに何よりもその方が丸く収まった。

 ソラはそんな気がしてならなかった。


「わ、分かりました。それじゃあ僕の心の中だけに留めておきます」


 ソラは釈然としなかった。

 しかし二人の意思を尊重することにした。

 そのくらいしかできることがなかったのだ。


「そ、それじゃあ僕はこの辺で……」


 ソラはそう伝えると、名残惜しそうに踵を返した。

 しかし夫婦はソラをまたしても引き止めた。


「「待って」」


 ソラはもう一度振り返った。

 するとヘリオスとセレスが満面の笑みを浮かべていた。


 それと同時に心苦しそうだった。

 何に対してそんな表情を浮かべるのか分からなかったが、夫婦の口から告げられた。


「俺達は既に死人だ。そんな死人にもかかわらず手を差し伸べてくれたからな。何かしてやりたい」

「何か? 良いですよ、それより二人でそらに向かってください」

「優しいですね。でもそうには行きません……そうですね、ヘリオス。分かっていますね?」

「ああ。俺達には必要無いからな」


 そう言うとヘリオスとセレスは指輪を嵌めた手をソラへと向けた。

 それから淡い光がソラの体を包み込んだ。


「えっ、ちょっと、はい!? な、何してるんですか!?」


 ソラはパニックになった。

 幽霊に出会った以上にパニックにはならないが、それでも不思議なことの連発にもう何に驚いたら良いのか分からなくなりつつあった。


「俺達の皮膚が残る指輪に触れたんだ。坊主の能力が発動しててもおかしくはないからな」

「そうですね。上手く私達の能力にも順応できたようです」


 夫婦はそんなことを口走った。

 しかしソラはパニックの渦中にいた。


「皮膚!? 順応!? 何を言ってるか分かりません!」


 とりあえず耳にした言葉を繰り返した。

 しかし言葉を頭の辞書で引いても、言葉が結果に繋がることにはならなかった。


「俺達の能力を坊主に渡した」

「の、能力!?」

「コレは貴方の能力ですよ、ソラさん。私達の能力、使ってあげてくださいね」

「わ、分からないです……」


 言っていることの意味が理解できなかった。

 しかし顔を上げると、ヘリオスとセレスの体が薄くなっていた。もうすぐ時間のようで、消えてしまいそうになっていた。


「あ、あの、体薄くなってますよ?」

「もう時間です。ですので、私達の手を……」


 ヘリオスとセレスはソラを呼び付けた。

 もちろん直接的ではなく、やんわり濁していた。


 しかしソラは直感で意味を理解した。

 ゆっくりと近付くと、両手を出した。


 右手をヘリオスの指輪に、左手をセレスの指輪に当てた。

 すると全身がポカポカした。

 自分には無い何かが溢れてきた。


「温かい……」


 ソラの心が和らいだ。

 ゆっくりと目を閉じてしまっていた。


 ふと頭の中に広がったのは無限の宇宙だ。

 たくさんの光が爛々と輝いていた。


「コレは……イメージ?」


 何かははっきりしなかった。

 しかしソラの中に眠る能力のイメージ図だと思うと納得できた。


「俺は太陽」

「私は月」


 ヘリオスとセレスはそう告げた。

 ソラの中に広がる広大な宇宙に太陽と月が生まれた。


 コレが能力を受け継ぐと言うことなのか、ソラはようやくピンと来た。

 するとヘリオスとセレスの声が遠のいて聞こえ出した。

 もう終わりだ。


「最後に一つだけ言っておく」

「そうね。最後に一つだけ」


 ヘリオスとセレスの声は小さくなった。

 しかしはっきりとしていて、新しい門出のようだった。


「「ありがとう、未来を行く者よ」」


 何だかそれっぽかった。

 ソラがそう思い目を開けると、そこに二人の姿はなく、骨は土へと還り指輪は影も形も無くなっていた。

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