第20話 幽霊達に感謝されてしまったのだが・・・

 如何やら本当に幽霊のようだ。

 ソラはにわかには信じ難い出来事に直面し、信じる他なかった。


 まさかこんな体験をするとは思いもよらなかった。

 むしろ誰も願っていなかったはずだ。


 ダンジョンは不思議なところだった。

 不思議だからこそ面白いのだが、それがまた絶妙に恐怖へと誘った。


 とは言え今回はそこまで怖くなかった。

 だからこそソラは不思議な反応をしてしまった。


「えっ……ええっ!?」


 怖いとかでは無く驚きだった。

 まさかこんな風に出会うとは思わなかったのだ。


 体があわあわとしてしまった。

 意図的に金縛りに掛かったとでも言うのだろうか、ソラの体はあわあわして同じ挙動で手を動かしていた。


「そんなに驚くことないだろ? なぁ」

「はい。私達は化け物ではないんです。面白くもありませんよ」

「いやいや、十分面白いですよ! って、ごめんなさい。酷いこと言っちゃいましたよね?」


 ソラは自分で言ったことに歯止めを効かせた。

 すると夫婦はソラに微笑み掛けた。


「何言ってるんだ。面白いのならとことん面白がれば良い!」

「そうですよ。楽しいのでしたら飽きるまでとことんやってみれば良いんです」

「か、寛容な大人だぁ!」


 ソラの感想は今っぽかった。

 尊重してくれる良い大人達で心がフッと軽くなった。


 ソラの両親と似たタイプだった。

 だからだろうか、いつもの流れで平然と話すことができた。

 オドオドは無く、できる限りフランクな話口調ができた。


「えっと。それで、その……失礼ですけど、何しに出て来たんですか?」

「坊主に感謝するためだ」

「感謝? そう言えばさっきもそんなこと」


 何に感謝されたら良いのかさっぱりだった。

 しかし見当付かずのソラとは対照的で、夫婦はソラに頭を下げた。


 突然大人から頭を下げられてソラは困惑した。

 こんな経験そうもなかった。

 タジタジになって動揺した。


「あ、あの頭を上げてください!」

「「本当に感謝しています」」


 ソラはそう言ったのだが、なかなか上げて貰えなかった。

 余計に困惑して頬をポリポリ掻いた。


「全く謙虚な坊主だ。だけどな、俺達のことを見つけてくれて本当に助かってる」

「ここで命を潰えたから早二十年ですね。ずっとこのままかと思っていました」

「二十年……そんな昔から」


 と言うことはこの人達はこの世界の人では無くなった。

 例の噂が本当だと確信し、ソラは心の落ち着きを取り戻した。


「それに一番大事なものを返してくれてありがとうございます」

「一番大事なもの? それってやっぱり……」

「ええ」


 女性は左手をかざした。

 薬指に嵌められた月の形を模った指輪がキラリと光った。


 よっぽど大事なもののようだ。

 如何やらその指輪を薬指に嵌めてもらえたことに感謝していた。


「この指輪はな、俺達の夫婦としての証なんだ」

「ここで命を失い、肉が溶け骨だけになり指輪が外れてしまった。その指輪を誰かに取られたくはなかったですが、まさかこうして返していただけるなんて……」

「取りませんよ。僕にだって分かりますよ!」


 指輪を拾った時には持ち帰ろうとも思った。

 しかし二人の骨を見つけた瞬間にピンと来て返すことにした。


 そこまで非道にはなれなかった。

 しかし男性はその寛容な心に感謝した。


「本当に優しい坊主だな」

「そんなことないですよ。それに今の僕はこんなですから」


 ソラは自分の体を触ってみた。

 すると変なことが起こっていた。


 体が軽くなっていた。

 いいや、違和感がなくなっていた。


 胸を軽く触ってみた。

 筋肉が付いていて、プニプニ感が無くなった。


 もしかしてと思った。

 ソラは気になっていたことを色々追求すると、やはりだと確信した。


「も、戻ってる……」

「「ん?」」

「元の姿に戻ってる!」


 ソラはとても嬉しかった。

 ここに来て一番嬉しかった。

 何と体が元の姿に戻っていたのだ。いつ戻っていたのかはさておきとして、とにかく心の底から嬉しかった。


「何か分からんが良かったな坊主!」

「はい。えーっと」


 そう言えば自己紹介がまだだった。

 言葉を詰まらせたソラに変わり、夫婦は自己紹介をしてくれた。


「俺はヘリオス。それでこっちが……」

「私はセレネです」

「ヘリオスさんにセレネさん。僕は宇宙って言います。早乙女宇宙です」


 互いに自己紹介をした。

 共通点が宇宙と言うことで共感した。


「ソラか。良い名前だな」

「ありがとうござます」

「それはそうと、さっきは何に悩んでいたんだ?」

「えっ?」

「体を急に触り出して、気持ち悪かったぞ!」

「気、気持ち悪い……」


 普通に傷付いた。

 するとセレネがヘリオスのことを睨み付けたが、空気を読んでだろうと、セレネが口を開いた。


「確かにそうですね。ですが一つお伝えしておきますね。貴方は私達と出会った時から姿はそのままですよ」

「えっ!?」


 如何いう理屈なのか分からないでいた。

 急に体が戻った理由に心当たりがなかった。


 それから如何して教えてくれなかったのか。もちろん聞かなかったのはソラ自身の責任だ。

 それに惑星に伝わる神様の名前を冠した夫婦に付いてもかなり気になった。

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