第19話 ゆ、幽霊を見てしまった!?

 ソラは固まってしまった。

 急に声が聞こえて来たのだ。


 ここは洞窟だ。

 みんな思い出して欲しいが、ソラがここにやって来た時、他に誰もいなかった。


 つまりこの洞窟にぽっかりと空いた空間に、ソラ以外の人影はなかった。

 とは言え隠れていただけパターンもまだあった。


 とは言えそうなれば気が付くはずだ。

 人とは意外にも他人の気配に敏感な生き物だ。


 特に視線が入ると、人間は否が応でも気が付いてしまった。

 その辺りは動物として正しく警戒する器官で問題は無かったが、だとしても静かすぎた。


 そのため誰かがいた可能性は極端に下がった。

 ましてや別で入ってきたのならば、もっと鋭い視線に気が付くと思った。


 だからあまりに不自然だった。

 この洞窟の空間に、ソラの耳へと直接語り掛ける声があるとは思わなかった。


「ほ、ほえっ!?」


 ソラは変な声を出した。

 あわあわとして、視線を下げた。

 スマホのコメント欄を見ようとしたが、もっとおかしなことに巻き込まれた。


「で、電波が無い!? しかもノイズが走って、映らない!?」


 さっきまで洞窟の中なのに普通に映っていたはずだ。

 最近は魔力の影響で、どんな環境下でもネットが通じる世の中になっていた。


 それはここも例外ではなかった。

 ダンジョン調査課に貰ったプログラムコードをスマホに入れているので、自動でモザイクも掛かるようにサイトに調整を掛けていた上に、明るさも変わったのに急に砂嵐が起きて映らなくなってしまったのだ。


 こんなおかしなことは無いはずだ。

 ますます不気味に思うところで、「こっちこっち」と声が聞こえた。

 優しくて柔らかい女性の声だった。


「ふ、振り返っても良いのかな?」


 正直怖かった。

 だけど今さら怯えている暇もなかったので、ソラは勇気を出して振り返った。


 するとそこには人の姿があった。

 きっと今頃コメント欄では“如何したんですか!”と言われているだろうが、ソラには返事をする暇もなかった。


 瞬きもできなかった。

 金縛りにあったように体が動かなくなり、そこに居る人影に怯える他なかった。


「えっ、ええっ!?」


 今度は腰を抜かしそうになった。

 ソラの前には二人の男女が居た。


 一人は痩せてはいたが筋肉質で、濃い顎髭を生やした男性だった。

 見た目的には三十代程で、はっきりとした瞳には男らしさが詰まっていた。


 もう一人は可憐な女性だった。

 清楚な立ち振る舞いと整った顔立ちが特徴的で、目を奪われてしまうことは言うまでもなかった。


「あ、あの……」


 ソラは張り詰めていた感情を口に出そうとした。

 突然男女に出会うなんて、何と運命的なことだろうかと錯覚した。


 しかし二人の男女はソラの姿を見ると笑みを浮かべた。

 何か伝えたいことでもあるようで、ソラは言葉を詰まらせた。


「まあまずは落ち着けって。坊主はさっきから汗を噴き出しすぎだ」

「えっ!?」


 急にフランクに話し掛けられたので緊張が解けた。

 すると女性もにこやかに微笑むと、先程耳にした優しい声で語り掛けた。


「そうですよ。そんなに警戒しないでください。私達は貴方に感謝するためにここに居るんですから」

「か、感謝?」


 感謝されるようなことをした覚えがなかった。

 しかしながら二人は何かを伝えたい様子だ。


 しかしソラは困ってしまった。

 こんな目立つ人達を忘れてしまうなんて、何て馬鹿なんだと頭の中を引っ掻き回した。


 とは言えいくら記憶の中を探っても何も思い出せなかった。

 そんなことは当然で、二人に出会うのはこれが初めてだった。


「あ、あの何処かで出会いましたか? あっ、ごめんなさい。その、覚えてなくて……最低ですよね」


 ソラはまた落ち込んだ。

 一応保険を付けておくことで最小限のダメージで済ませようとした。


「「ははははははははなな!」」


 二人は笑った。

 夫婦のようで、指には指輪をしていた。


 しかしその指輪には何故か見覚えがあった。

 この直近で見かけたばかりだった。


 とは言え気のせいの可能性があった。

 だがしかし、二人は面白そうに口走った。


「会うのは今が初めてだ」

「そうですね。貴方は間違っていませんよ」


 何が間違っていないのか分からなかった。

 分からなかったが分かりたくもなかった。

 何故だろうか、真実を知らない方が良かった。


「あ、あの。二人は誰ですか? 何処から来たんですか? 何のためにここに居るんですか?」


 けれど聞いてしまった。

 これが好奇心の招いた行いなのかも知れなかった。


 答えを知りたがるソラに二人は優しく教えてくれた。

 想像の範囲内でお願いしたかったが、如何やら不思議な方向に進んでしまった。



「俺達」

「私達は」


 二人は言葉を合わせた。

 一瞬溜めを作り、互いに目配せをするとソラに伝えた。


「「幽霊だから」」


 ソラの頭がフリーズした。

 当然何を言い出すのかと思った。


 現に今目の前に見えていた。

 ソラに幽閉を見るいわゆる霊視能力は無かった。


 だから幽霊が見えるはずは無かったが、それがソラの能力説もあった。

 とは言え今は能力を使っている感覚は無く、瞬き一つできなかった。


「えっ?」


 普通に信じられなかった。

 聞き間違いかと思ったが、二人はソラに伝えた。


「「足元を見て」」


 そう言われて恐る恐る足元を見た。

 するととんでもないことに気が付いた。


 二人の足はあった。が、影が伸びていなかった。

 洞窟の中にぽっかり空いた空洞だからでは無く、影が最初から無かった。


 代わりに足元には白骨化した骨が広がっていた。

 その頭蓋骨、髑髏から出ているように見えたのは見間違いではなかった。

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