第18話 指輪と髑髏(しゃれこうべ)
ソラは光る物が気になって近付いてみた。
洞窟の天井、小さな穴から差し込む陽光に反射しているので、おそらくはガラス製品だとソラは推測していた。
「もしかして、烏か何かが運んで落としたのかな?」
とは言えあの小さな穴から落っことして、真下でもない端っこに転がるなんて考え難かった。
見れば地面に傾斜はほとんどなく、この辺りは凸凹しているので、引っかかってしまうのは必然だ。
「うーん。難しいけど……拾ったら分かるのかな? ああ、でも! もしも呪いのアイテムとかだったら如何しよう……怖いな」
ソラはここに来て怖気付いてしまった。
足がすくみ、拾うのを躊躇った。
“ビビってんの?”
「ビビってるよ。だって怖いもん!」
“女の子みたい!”
「今はそれでもいいよ!」
コメント欄に反応してしまった。
ソラは引き返そうかと思った。
踵を返して見なかったことにしようとしたが、何故か逃げられなかった。
(あ、あれ?)
体が変に動かなくなった。
痙攣しているわけでも、自分の意思に反しているわけでもなかった。
ただ、ここから帰ろうとできなかった。
壁があるわけでもなく、足ががっしり固定されてしまった。
(う、動かせない?)
前に足が動かなかった。
つまり振り返ることはできた。
拾えと言っているのだろうか?
ソラは冷や汗を掻きながら仕方なく振り返った。
「わ、分かったよ。拾うよ……拾うしかないんでしょ?」
誰に言うでもなく口走った。
踵を返してもう一度落ちていた物を拾い上げる構えを取った。
ゆっくりと手を伸ばした。
もしかしたら噛まれるかとも思ったのか、ソラは目を閉じていた。
しかし指先が触れたのは別に怖い物ではなかった。
カラン! と甲高い音を奏でて指先に触れた。
「えっ?」
“何々?”
“何だコレ?”
“し、シルバーアクセサリー!”
“指輪だ。しかも二つ”
“何で指輪?”
“意外すぎて草”
コメントも意外な反応を見せた。
まさか落ちていたのは指輪だったのだ。
しかも一つではなかった。
何と二つも落ちていて、形も同じだった。
如何やらペアリングのようだ。
指輪には宝石がはまっていなかった。
普通ならダイヤの一つでもはまっていたら、それっぽかった。
けれどこの指輪には代わりにプレートが付いていた。
太陽と月のマークが刻まれていた。
変わったペアリングだと思った。
けれど本当に落ちていた理由が分からずになった。
「ペアリング? しかも名前が彫ってある……うわぁ!?」
指輪をついつい手放してしまった。
むしろ放り投げてしまった。
ソラは腰を抜かしそうになった。
しかし腹筋と足腰の筋肉のおかげで転ばずに済んだ。
何とかでこぼこの地面の上に転ばなくて良かった。
おかげで怪我もしなくて済んだ。
“な、何が起こったんですか!?”
“足元映して!”
“モザイク入ってない?”
配信側が強制的にモザイクを掛けていた。
ここ最近だとモザイクなどの規制も多少は緩くなったものの、今回は事件性も加味された。
まさかこんなことになるとは思わなかった。
さっきまでのひんやりとした硬直はもしかしたら金縛りだったのかもしれないと、直感した。
「な、何で……」
言葉を詰まらせてしまった。
初めて見たと言うよりも恐怖で体がすくんでしまった。
指輪の下にはあるものが落ちていた。
人為的とは思えないが、それは
「に、人間の……えっ、何で? って、あの噂本当だったの!?」
この森には奇妙な噂があった。
陽喰の森の奥にある洞窟で太陽と月が息絶えた。
その想いは残り続け、亡霊となって待ち人を待つとか待たないとかだ。
あくまでも噂だった。
だからソラも割り切っていたのだが、こうして目の前で起こってしまうと、その感情が一気に飽和した。
考えれば考えるほど、体が硬直した。
青ざめていく感覚と、過呼吸になる感覚がした。
まさかこんなことになるなんて。
コレは警察案件だと思った。
しかし骨はかなり朽ちてから時間が経っていた。
おそらくこの世界の人のものでは無く、如何したら良いのか判断に困った。
「と、とりあえず帰って……まずはダンジョン調査課? えっ、でも、この指輪……如何しよう。はめた方が良いのかな?」
ソラは一度捨てた指輪を拾い上げた。
この指輪は持って帰ってはいけなかった。
見れば二つの
左腕が指五本とも奇跡的に残っていた。
それを見たは持って帰るなんて駄目だった。
ソラは一人で完結すると、指輪をそれぞれの指にはめた。
「えーっと、こっちの腕が細い人が女の人かな? こっちが男の人かな?」
何と無く女性が月、男性が太陽だと決めつけた。
しかし指のサイズがピッタリだった。
お互いの薬指に指輪をはめ直すと、ソラは満足した。
「きっとコレをして欲しかったんだね」
何だか不思議な体験をした。
ソラはそれでも楽しかった。
最初の恐怖心が何処かに吹き飛んでしまい、ソラは満足そうに帰ろうとした。
その時だった。
ふと立ち上がって踵を返した途端、声が聞こえた。
「ありがとう」
「助かった」
ソラはビクッとした。
今のはきっと気のせいだと思ったのだが、何故か耳元ではっきりと聞こえたので、瞬きをして固まってしまった。
これが本当の金縛りだ。
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