第16話 地味だけど便利な才能

 ソラは気分が落ち込んでいた。

 スマホの画面に映る自分の顔がとても暗くなっていた。


 目が据わっていた。

 だけどできる限り声だけは明るく振る舞った。


「みんなごめんね。心配掛けちゃって」


 完全に弱音を吐いている女の子だ。

 自分でも可愛いと思ってしまい、笑みが薄らになった。


 配信者でも落ち込むシーンが出ることはあった。

 常にニコニコ笑顔が出せるわけでも無く、ソラはその辺りも人間味が溢れていた。


 作っているものが何もなかった。

 同じような人は何人も何十人もいるけれど、ソラの場合は結構な頻度で不安になった。


 その辺りも心配してくれる視聴者がいた。

 ソラは少なからずそう言った人達に救われていた。


“大丈夫です!”


“ソラさんの漫画買いました!”


今度の同人誌即売会には参加するんですか?”


“今のソラさんってコスプレしたら絶対ウケいいよね?”


“超可愛い!”


“女の子ボイス。本当に男の子ですか?”


“確かに。女の子の絵ばっかり描いてるもんね”


「むっ、失礼だな。僕は男の子だよ!」


 ソラはムスッとした。

 だけどちょっぴり感情が戻って来た。


「でも体に違和感があるけど、動けなくはないんだよね。ちょっと慣れて来た!」


 ソラの体調は万全だった。

 スマホを服のポケットに入れて撮影していると、気になるコメントがあった。


“トイレとか行きたくなったら如何するんですか?”


 確かにそうだ。トイレに行きたくなったら如何したらいいんだろうと頭を悩ませた。

 それだけではなく、胸が少し張っていたので気分が悪かった。


「それにしても、こんな体になったのに興奮とかしないんだよね、僕って」


 元々欲情したりする性格ではなかった。

 その辺りは健全な男子高校生には欠けていたと何度も思ってしまった。


「それにしてもモンスターがいなくて良かったー。また負けたら本気で立ち直れないよ」


 まさかスライムに敗北するとは思わなかった。

 いいや、負けてと言うか敗走する羽目になった。


 しかしあのレベルのモンスターが居るとなると、この辺りのダンジョンも甘くはない。

 ソラは自分の力不足を染み染み感じていた。


“いやいや、あのスライムが強いだけ”


“スライム強くね?”


“レベルが違う”


“負けたのも仕方ない。能力も使えなかった”


 そうだ。ソラはまだ能力を使っていなかった。

 あのスライムにも能力を使えば倒せるのではと思っていた。


 しかし今の段階ではまだ勝てる見込みがなかった。

 そこで洞窟を軽く探索したら帰るつもりでいた。


「多分この辺りのはずなんだけど……見当たらない」


 普通に回ってしまった。

 空を見上げて太陽の位置を再度確認することにした。


「えーっと、今西に傾いているから……確かこっち側」


 ソラは迷い無く進んだ。

 時には立ち止まって道を確認していたが、視聴者には如何して分かるのか疑問だった。


“ソラさん、如何して道が分かるんですか?”(200円)


 投げ銭付きのコメントが流れた。

 ソラはスマホを取り出してコメントに回答した。


「うーんとね、太陽の位置で方角を把握しているんだよ」


 そんなことは誰でも分かっていた、

 問題はそのやり方ではなく、如何して場所が分かるのかだ。


 やり方はとっても簡単だった。

 まず頭の中で看板に描いてあった地図を何となく思い出す。


 本当に何となくで良い。

 問題なのは、そこに何が描かれていたのかだ。


 はっきりとした輪郭ではなく、地図の大まかな形を思い起こせば良い。

 そして大事なのは、何が描かれていたのかだ。

 書くではなく描くことが大事で、ポイントを要所要所を押さえて覚えれば良い。


「つまり地図に描かれていたのは大きな川と深い森と、地面には傾斜があること。後は奥の方、大体北西に洞窟があるらしいこと。この辺を思い出せば何となく太陽の位置関係で分かると思うけど……変かな? やっぱり、変だよね……はぁ」


 ソラは自分で誇らしげに説明した。

 しかし喋っていて気が付いたが、自分が変わっていることだった。


 何が変と言うわけではなかった。

 ただ、こんなに自信満々に喋っていて外した時のことを考えると不安に苛まれた。


 もちろん視聴者は気が付いていた。

 ソラのコレは立派な才能で、誰にも真似できないものだった。


“いやいや凄いって!”


“誰にも真似できない”


“変じゃないですよ!”


“普通ではない才能”


“羨ましいとは思わないけど。マップアプリ使えば良いし”


“でも電波が届かないところだと最強!”


 コメント欄では様々な問答があった。

 けれどソラからしてみれば普通ではない時点で、自分は変わり者だと痛感されたような気がした。

 気分がやや落ち込んでいた。本当にくだらないことだと、誰もが思ったはずだ。


「と言うことで、一応行ってみるけど……違ってたらごめんね。誰か帰り道分かる人いたらコメントしてね」


 ソラは予防線を張っておいた。

 万が一の時もこれで一安心と安堵して森の中を進んだ。


 ガサゴソと草木を掻き分けた。

 蔦などが絡み付いたり、棘が突き刺さることもあった。


 だけど迷わず進んでいた。

 色々自信は無かったが、それでも間違ってはいなかった。


「この辺のはず……あっ!」


 ソラは大きな声を上げた。

 目の前に何やら暗闇が広がっていた。

 パッカリ開いた口が広がっていたのだ。


「本当にあった」


 ソラは瞬きをした。

 そこには洞窟が見えていた。


 視聴者はソラの性格がウェットでしょうもないことで落ち込むタイプだと知ってはいたが、コレだから応援したくなった。

 実は愛されキャラであることをソラ自信は知らなかった。

 

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