第14話 スライムに負けた日
ダンジョン、陽喰の森にやって来たソラはスマホのカメラを回して配信をしていた。
とは言え腰に装備した剣は頼りなく、ソラはキョロキョロしていた。
視線を辺り一帯に配っていた。
誰がみても不安になるペースでチラチラ視線を送るので、スマホがその度に擦れた。
「さっき看板を見て来てんだけど、この陽喰の森は何やら意味深らしいよ。森の奥には洞窟があって、そこで陽を失うことがあったんだって。何か分からないし、何処がソースかは知らないけどね」
多分噂の産物だ。
ソラはあまり信じていなかったが、そう言った噂話は何処にでも発生してしまうのだ。
けれどあまりにも噂が貧弱すぎた。
想像の余地しか感じられないが、噂話ができるだけ面白かった。
“アバウトな噂話だな”
“ちゃんと調べているんですね”
“まめな性格”
「あはは。ありがとう……って、まめな性格って喜んでもいいのかな? 配信している人って、キャラがないとつまらないんじゃ……ああ、如何しよう……僕キャラがないよ」
褒められているのに落ち込んでしまった。
しかし十分なキャラを持っていた。
けれど気が付いていなかったし、気が付いたら気が付いたので気にするタイプなので、誰も何も言わなかった。
“それにしても何も無いですね”
“静かな森”
“鳥の鳴き声も聞こえなくなったけど楽しいの?”
普通に心配されてしまった。
確かに今のところは何も面白味はなかった。
このままではダンジョンにハイキングをしにやって来ただけだった。
けれどそれでも良いと思いつつあった。
「何も出てこない方がいいよ。危ないことは極力したく無いもん」
ソラは卑屈だった。
せっかくダンジョンに来たのにモンスターにも出会わず、何もアイテムを拾おうとしなかった。
ふと一息付き、木の幹に手を当てた。
体を預けて少し休むと、その間にコメントを見てみた。
するとモンスターについて書かれていた。
“モンスターっていないの?”
“戦わないの?”
“陽喰の森ってモンスターの出現率ってそんなに高く無いよね?”
“稀に強いモンスターも居るので気を付けてください”(500円)
“スキル使わないの?”
“モンスター居ないのかーい!”
みんなモンスターを期待していた。
しかし勝てる気がしなかった。
それでもソラは一応考えてみた。
流石に何もなさすぎて不気味に思えて来たからだ。
「もしかして、この森にモンスターは居ないのかな?」
フラグを盛大に立ててしまった。
すると何処からともなくモンスターが姿を現した。
「あっ、何か出て来た!」
ソラは立ち止まった。
木の裏側から何か飛び出して来たのだ。
「えーっと、コレってアレだよね?」
ソラが見つけたのは青いプニプニした生き物だった。
手足は無く、如何やって移動しているのか分からないがとても有名なモンスターだった。
触ってみたかった。
まさか動いているところを見られるなんて思わなかった。
しかし定番なモンスターなのでソラでも分かった。
もちろんコメント欄も最初に出会ったモンスターが奇想天外では無く、親しみやすいモンスターで興奮していた。
「凄い、本物のスライムだ!」
ソラはついつい声を張った。
珍しく興奮しているようで、コメントも大いに盛り上がった。
ピョコン!
しかしマズいことにもなった。
スライムもソラの存在に気が付いてしまった。
あまりにははしゃぎすぎた結果、スライムの注意を引いてしまった様子だ。
しかし所詮相手はスライムだと、ソラは油断していた。
“スライムぐらい余裕!”
“やれぇ、ソラさん!”
“先制攻撃だ!”
コメントも応援してくれていた。
ソラは調査課で貰った剣を鞘から抜いてみた。
すると綺麗な新品の剣身が現れて、陽光に触れて優しく光った。
「うおおっ。凄い。だけど……本物になってる?」
触ったら痛そうだった。
不思議なことにダンジョンに潜ると、先程までは銀紙を貼ったただのおもちゃの剣だったはずが、今では本物の剣になっていた。
これがダンジョンの力なのかと実感したソラはごくりと喉を鳴らした。
奥深いと思いつつ、同時に怖いとも思った。
薬のおかげでいくら怪我をしても殺されてもダンジョンの外で復活する。
それが潤夏から聞いたダンジョンの不思議ポイントの一つだった。
「ふぅ。ここなら思いっきりやってもいい……そりゃあ!」
ソラは剣を振り上げた。
それから最初が肝心と、先制の一撃をスライムに向かって放った。
ポヨン!
しかしスライムは倒されなかった。
剣は確かに触れたのだ。しかし触れた瞬間、ポヨンとなって剣が滑ってしまった。
これにはコメントも騒ついた。
ソラも瞬きを何度もして三秒ほど動けなくなった。
“はい!?”
“なっ、何が起きたんだ!?
“す、スライムが攻撃を……”
“ただのスライムじゃないのか!”
“青いゼリーのなのに”
“Σ(°Д°)”
大量のはてなコメントが増加した。
そんな中、スライムが急にソラに体当たりをしてきた。
「うわぁ!」
普通に素早かった。
ピョコン! と体全体をバネのように使うと、ソラの鳩尾を貫いた。
「こんなの聞いてないよ。い、痛い……」
普通に冷戦個体の賢いスライムだった。
多分レベル換算だと八十以上は余裕だった。
ソラは普通にお腹を抑えていた。
ボロボロと砂の中に混ざっていた石の破片が突き刺さっていたからだ。
このままだとマズいと思った。
逃げるにしても何か欲しかった。
そんな時思い出した。
ダンジョンに居るのなら、
「そうだ、僕の能力!」
能力は薬を飲んだ時にダンジョンにおいて自分を助けてくれるものだ。
何となくだけどぼんやりイメージは湧いていた。
とは言えソラの場合、まだイメージが固まり切っておらず、首を捻るしかなかった。
しかしなりふり構っていられなかった。
とにかくスライムを蹴散らすことにした。
「これで如何だ! ……って何も起こらない!?」
ソラは両手のひらを合わせてみた。
しかし何も起こらず、ただ拍手した人になっていた。
“何も起こらんが?”
“この状況で何してるんですか!”
コメントでも普通に怒られた。
スライムも油断しているソラに向かって追い打ちを仕掛けてきた。
飛び掛かって、砂埃を巻き上げた。
能力は使えているはずなのに何も起きず、ソラはプチパニックに陥っていたが、何とか気を振り絞りその場から逃走した。
「いっ、一旦逃げよ!」
ソラは別に愚かでも何でもなかった。
普通に逃げただけだが、まさかスライム相手とは思わなかった。
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