第12話 ダンジョン配信やってみた!

 配信開始のカウントが進んでいた。

 秒数が一つ、二つと進んでいた。


「あっ、あー、あああ……はい。聞こえてるかな? ううっ、緊張する」


 ソラは本音が漏れていた。

 しかし配信画面を観てみると、早速同接が20人付いていた。


 それから秒数が進むごとに、少しずつ同接が増えていた。

 いつもは夜も遅くに配信をするせいか、今日は新鮮な顔ぶれが多かった。


“初見でーす”


“こんにちは〜”


“いつメンです。今日は早いですね”


“ソラさん今日は外ロケなんですか!?”


 たくさんのコメントが溢れていた。

 気が付けば同接が早速100人を超えていて嬉しかった。


 それと同時にスマホにアップロードしていた待機画面を外す勇気が出なかった。

 けれどここまで来たら取るしか無いので、まずは音声だけで楽しんで貰った。


「みんなこんにちは。今日は珍しく午後からの配信なんだけど、実は外に居るんだ。風の音凄いでしょ? 僕の声聞こえているかな?」


 顔を出さないのでいつも通り流暢に喋っていた。

 しかし風の音が酷いので、音割れをしていた。

 とは言えコメント欄では、そこまで気にされていなかった。


“大丈夫です”


“気にしないでください”


“いつも通りで大丈夫ですよ”


“自信を持ってください”


 何故だろう。ソラは色んな意味で棘が突き刺さった。

 質問系のコメントや応援メッセージがたくさん届いた。

 しかし全体のおよそ九割を占めるコメントが、“頑張ってください”なのが気になった。


「えーっと、頑張ってる……よ?」


 ソラはたどたどしく答えた。

 しかし普段から観てくれている視聴者は知っていた。


“緊張してるんですか?”


“息遣い荒いですよ?”


“大丈夫ですよ。落ち着きましょう”


“今日も決まってますよ!”


 ソラが配信中でも、時折自信を失う瞬間があった。

 それがあまりに酷いと面白いを通り越して心配になってしまった。


 特に配信始めた時は酷かった。

 それ以来、誰もソラが緊張している時を笑わないようになった。


 緊張している時のソラの絵は何処かいつもの可愛らしさが抜けていた。

 イラストを楽しみにしてくれているのに、たどたどしくされたら視聴し難かった。


 しかしソラからしてみれば逆効果だった。


(そっか。みんな僕のこと心配してるんだ。如何しよう……)


 心配されることを心配してしまった。

 よくない悪循環スパイラルに落ちている気分だった。


 それでもソラはできるだけはっきりとした口調で保った。

 何とかして切り替えた方が身のためだと感じたのだ。


 そこまでの立ち直りだけは早かった。

 とりあえず考えない時間を作ることが心の安寧に繋がった。


「それじゃあ今日の配信なんだけど、実は僕、今ある場所に来てきます」


 そうは言いつつ、まだ辿り着いていなかった。

 そこまではこの状態でできる限り引っ張ることにした。


「何処かって言われたら……別に変なところじゃないよ?」


 もしかしたら視聴者の中には、いかがわしい所だと勘違いされるかもしれないと思い、先に訂正しておいた。

 するとコメント欄では想像が膨らんだ。


“変なとこじゃない?”


“もしかして公園ですか!?”


“アクティビティですか?”


“初見です。サムネイルの女の子可愛いですね!”


「ううん、サムネイルの子は男の子だよ」


 サムネイル&待機画面に使っていたのは、スマホに保存していたイラストだ。

 しかし自分がそうだからから知らないが、ソラの描いたイラストは男の子なのに女の子みたいになっていた。


 格好もそうだが魔法使いっぽい格好をしていた。

 大きめの魔女帽子が可愛かった。


“鳥の声聞こえない?”


“もしかして山奥的な?”


“今の時代電波は何処にでも飛んでいますからね”


“ソラさんが外でアクティビティだとぉ!?”


「そんなに意外かな?」


 何だか心外だった。

 確かにソラは普段から外ではしゃいで遊ぶようなタイプではなかった。


 とは言え全く外に出ないわけでもなかった。

 どちらかと言うとネガティブでインドアなだけだ。


 それ以外は極めて普通だ。

 普通だと言い張っていた。


「やっぱり分からないかな?」


 とりあえずソラの緊張が昂っていた。

 声音ではできるだけ出ないようにしていたが、この先がダンジョンだと分かり、鼓動が激しくなっていた。


「あっ、見えてきた……」


 目の前に有機鉄線が見えてきた。

 その前には近未来的な機器が置かれていた。


 台座の上には手形とカードを置くための窪みがあった。

 如何やらここがそうらしかったので、ゴクリと喉を鳴らした。


「えーっと、認証認証……」


 ソラは手を置いた。

 すると全身に静電気が走り、持っていたダンジョン許可証を台座にセットした。


“認証?”


“ってことはマジですか!?”


 如何やらコメントでも気がついたみたいだ。

 ソラはニコリと微笑むと、有機鉄線の一部が開き、その奥へと行けるようになったのを確認した。


「良し。それじゃあみんな、正解発表するね!」


 ソラはスマホのカメラをオンにした。

 カメラが起動すると、一瞬のノイズが走り映像が飛び込まれた。


「正解はダンジョンにやって来ました。今回は初めてと言うことで、初心者にも優しいって聞いた……あれ?」


 途中まで喋って気が付いた。

 いいや、普通にソラのミスだった。


 カメラが外カメラのつもりが内カメラになっていた。

 こんなミスあるのかと思い一瞬だけ待機画面を挟み設定を確認すると、デフォルトで内カメラになっていた。


「えっ、ちょっと待って、これって……ほええっ!?」


 テンパっていた。普通にテンパっていた。

 頭の中が凍結しぐるぐると高速で錯乱していた。


 もう何を言っているのか分からなくなっていた。

 そんなソラは三秒間停止し、一応コメント欄を確認した。


 するとそこにはやっぱりと言うか、顔出ししてしまったソラのことが書かれていた。

 しかし一つ違ったのは、思っていたのと違っていたのだ。


「あ、あれ?」


 音声はミュートになっていた。

 しかしコメント欄には一瞬の間で出たソラのことについて書かれていた。


“女の子?”


 ソラはフリーズした。

 いつものことだが、こうして多くの人の目に晒されると、普段以上に愕然とした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る