第11話 陽喰の森(初心者おすすめらしいです)
大家であり従姉妹の潤夏に励まされた宇宙は、次の日が日曜日なことを利用してダンジョンに行くことにした。
とは言え何処に行ったら良いのか分からない宇宙は潤夏におすすめスポットを尋ねた。
「潤夏姉さん、この辺りで程よいダンジョンって知ってる?」
「ダンジョン? そうね。とりあえず宇宙君は初心者なのよね?」
「うん。行ったこともないし聞いたこともほとんどないよ」
潤夏はそれを聞くと包丁をまな板の上に置いた。
唸り声を上げながら、腕組みをして考え始めた。
そんなに悩む問題なのだろうか?
スマホを使って宇宙も調べていくと、面白そうなところを見つけた。
初心者にも超オススメなダンジョンのようだ。
場所はそこまで深くもない森のようで、試しに聞いてみた。
「ねえ潤夏姉さん。ここなんて如何かな?」
「ここって何処のことかしら?」
「蛍市内にあるダンジョンの一つで、木々がまばらに生えた……」
「ああその森ね。うん、何かあっても近くがハイキングコースになっているからちょうど良いかも。ここから電車で一本で行けるから、行ってみたら如何かしら?」
潤夏からもイチオシの反応を貰えた。
宇宙も満足したのか、胸を撫で下ろした。
「それじゃあ明日行ってくるね」
「気を付けてね。ダンジョンは何が起こるか分からないのよ」
「な、何かって?」
先に不安がやってきた。
しかし潤夏は特に怖がらせるつもりはなく、「ふふふ」と笑っていた。
「大丈夫。その森はほとんど凶悪なモンスターもいないから、道にさえ迷わなければ問題無いはずよ」
「道に迷ったら?」
「死んだりはしないと思うけど、覚悟はしておいた方がいいと思う……でも、多分大丈夫だからね」
もの凄く不安な誘い方だった。
宇宙は全身から血の気が引いていく感じと、自信の喪失を感じ取った。
しかし今更心は決めてしまっていた。
変える気など毛頭無く、宇宙はダンジョンに初めて出かけることにした。
*
宇宙は電車に揺られていた。
日曜日なだけあってそれなりに多いとは思っていたが、そんなイメージは十年前に消し飛んだ。
電車の中は凄く空いていた。
これが完全に都内に入ると、まず間違いなく人が減った。
その原因は様々あるが、とにかくわざわざダンジョン方面に向かおうとは誰も思わなかった。
それはダンジョンが未知の場所=危険で怖い場所という頑ななイメージが日本人に残っているからだ。
などと言う一般論はさておきとして、宇宙は窓の外を見ていた。
そこには鬱蒼とはしていないが、それなりにまばらで深そうな森が広がっていた。
「あそこかな?」
電車は新しくできた橋の上を通過していた。
そこからならよく見えるが、奥の方には湖も見えた。
もしかしたら池かもしれないが、昔はなかったはずだ。
東京や千葉の方面に来たことは無かったが、マップアプリで検索した時にも、十年前の古い地図にはこんなもの無かった。
やっぱりダンジョンの制圧力は圧巻だった。
宇宙は緊張してきていたが、何処か楽しそうでもあった。
駅を出ると、宇宙は何度も瞬きをした。
目の前が緑で覆われていたのだ。
「えーっと、これは?」
道が左右に分かれていた。
大きな看板があり、そこには右と左でコースが違っていた。
如何やら右側はハイキングコースのようで、奥には公園もあるそうだ。
逆に左側に行くと、宇宙の求めていたダンジョンに辿り着くようだ。
「なになに? 右は陽廻公園。左は陽喰の森。何で対照的なの?」
宇宙は首を捻った。
それと同時に恐怖を感じた。
左を向くと人が全く通っていなかった。
対して右はチラホラと人の姿があった。
宇宙の行こうとしているのは、左だ。
ゴクリと喉を鳴らし、無理やりにでも恐怖心を引き剥がそうとした。
「そ、そうだよね。不安になっても仕方ないよね。うん、できるよ。僕」
今ならまだ帰れそうだけど、心は「行け」と言っていた。
だからだろうか自然と足が前に出ていた。
「あっ、そうだ! 一人が怖いなら一人じゃなかったら良いんだ!」
宇宙は逆転の発想を見せた。
スマホを取り出すと、SNSアプリの一つでROADを起動させた。
そこには友達の連絡先が登録されていた。
しかしここにて絶望した。
宇宙は圧倒的に友達が少なかったので、こんな時に話せる間柄も居なかった。
「あー……そ、そうだ。えーっと、スマホでも配信できるよね?」
宇宙は試しに配信してみることにした。
スマホを使っていつも配信している動画投稿サイトを開くと、配信用のURLを取得し、告知した。
「これで良し。ってあれ?」
宇宙は我に返った。
瞬きを何度もしていたが、自分の意思がそこにあったのに、感情の高ぶりが芽生えていた。
「ま、まさか勢い任せでここまでするなんて……何でだろ、心がポワポワする」
意味が分からなかった。
もしかして恐怖心が剥がれ落ちたのと同時に、いつものオドオド具合が吹き飛んだのかも知れなかった。
しかし告知してしまった以上、やるしかなかった。
宇宙はこの時知らなかったが、日曜日の午後からの配信と言うことでいつもは観られない人達も集まってくれていた。
宣伝が大成功している最中、看板の前で宇宙は呼吸を一つ置いた。
早速配信開始ボタンを押すのだった。
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