第7話 ダンジョン調査課ってなに?
市役所にやって来た。
案の定と言うべきか、ほとんど人の気配がなかった。
薄暗い電灯がチカチカしていた。
これぞ市役所と思ったが、蛍市は新しくできた市なので、ほとんど綺麗だった。
外観の壁の色も白でカビもほとんど生えていなかった。
とはいえ奥の方を見てみると、薄暗くて不気味だった。
近づいてはいけない雰囲気とはまさにこのことで、宇宙はビビってしまった。
とは言え視線を感じる訳でもなかった。
単純に二階へ行くための階段周りが暗かった。
「って、今日はダンジョンに入るためな許可証を手に入れるんだった……何をすれば良いんだっけ?」
宇宙はせっかく市役所に来たのに、この後の手順が分からなかった。
困惑して腕組みをしていると、完全な変な人になってしまった。
ここから先のプランが全くなかった。
唸っている宇宙だったが、不意に声を掛けられた。
「如何かされましたか?」
宇宙はびっくりしてしまった。
慌てて振り返ると、そこに居たのは市役所の職員さんだった。
瞬きを何度もしてしまった。
完全に不審者だったが、今更逃げることもできなかった。
「あ、あの、えーっと。ダンジョンに入るためには何処で許可を取ったら良いんですか?」
宇宙は非常に流暢な喋り方をした。
何故かは分からないが、頭の中で一瞬だけパニックになったものの、口から出た言葉はあらかじめ用意していたものではなく、やりたいことを心の底から口にしていた。
すると宇宙は上手く言えたと思いホッとした。
それから聞いていた市役所の職員は「ダンジョンですか?」と繰り返し口にすると、何か納得したようだった。
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
如何やら伝わったらしい。
宇宙は改めて胸を撫で下ろすと、職員を目で追った。
市役所の中には幾つもの担当の課が設置されていた。
ちょうど窓口の上の方にプレートが吊るされていた。
その中には普通の市役所には絶対にないものもあった。
宇宙は驚いてしまった。
「本当にあった……」
ダンジョン調査課と書いてあった。
初見だと絶対に嘘だと思うのが普通だが、宇宙は目的のものが見つかって良かった。
とは言えここから先は何をすれば良いのか分からなかった。
宇宙は悩んでしまったが、とりあえず調査課の前にやって来た。
「あ、あの……」
「はい、少々お待ちください。はい、ダンジョン調査課です。本日はどのような御用件でしょうか?」
そこに居たのは先程宇宙に声を掛けてくれた人だった。
綺麗な顔立ちをした人で、猫のような目をしていた。
髪の色は黒髪だったが、一部メッシュ加工が入っていた。色は黄緑色だった。
市役所の職員さんがそんなことをしても良いのかも、宇宙は少し思った。
しかも腰丈まで伸びていて、艶もあった。
声色からしても見た目からしても、健康そうだった。
「えっと、ダンジョンに行きたくて。許可証はここで貰えるんですか?」
宇宙は少したどたどしかった。
しかし職員の女性は「はい」と軽快に答えてくれた。
明るい笑みを零し、宇宙の事をジッと見ていた。
もしかして試されているのかと宇宙は思った。
今から選定は始まっているのではないのか。
よく少年漫画の展開である流れが始まっているのではと推測して、ゴクリと喉を鳴らした。
しかしそんなことはなかった。
単純に気になっただけのようで、宇宙の目を見ると「なるほど」と師匠ポジ的な事を呟いた。
「良い目をしていますね」
「えっ!?」
宇宙は瞬きを何度もした。
しかしながら、これはある種の合格的な意味だと頭の中で脳内処理した。
「別に変な意味じゃありませんよ? 探索者をやってみたいと言う方はたくさんいますが、気が据わっていなければ探索者は務まりませんから」
職員の人は達観していた。
それを踏まえれば如何やら合格なのは間違いなかった。
けれどより一層緊張が走った。
宇宙は過呼吸になるような精神力では無いものの、ちょっとだけ動揺していた。
探索者をやっていて失敗した人が如何なるのか、ネットにはあまり書いてなかった。
書いてあったとしても噂レベルで、どれだけ屈強な人でも精神力が疎かになると、たちまちダンジョンは牙を剥くそうだ。
「あ、あの、僕は……」
「はい、ではまずはこれを書いて待っていください。書き終わった再度提出してくださいね」
職員の女性は宇宙にボードを手渡した。
そこには原価二十円程の安いペンと何やら誓約書のような紙が挟まっていた。
宇宙は困惑した。
そこには太字でこう書いてあったのだ。
ダンジョン探索により“万が一”亡くなった場合、当局は一切の責任を負いませんことを踏まえ、誓約書をお書きください。
※ダンジョン内での死亡例を聞いたことがございませんので、“一応”としてお書きください。
凄く怖くなった。
まさか誓約書のど真ん中に、こんな仰々しいことが書いてあるとは誰も思わないはずだ。
一番視線が集まってしまった。
「う、嘘だよね? た、確かダンジョンに入っても死者は出ていなかったよね?」
確かにダンジョンの中で死者は出てはいなかった。と、宇宙は記憶していた。
けれど血のように赤い文字で書かれていて、全身の血の気が引いていく宇宙だった。
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