第6話 如何して市役所なのかな?

「それじゃあ今日はここまで。みんな、明日は休みだけどしっかり勉強するんだよ!」

「先生、それこの間も聞きました!」

「毎週言ってるよー!」

「「「あはははは」」」


 クラスがとても盛り上がっていた。

 いいや、この学校ではあまりに普通のことだ。


 生徒と教師との間に分け隔てがなかった。

 それが良いのか悪いのか、誰にも判断がつかなかった。


 けれどそれ故に面白くもあった。

 今の多様化の時代ではそれすら許されていた。

 許されないと混迷を極めてしまうような、危うい時代だった。


(みんな凄いな)


 宇宙はその空気に乗れなかった。

 澄ました顔をする訳でもなく、教室の隅っこの席で瞬きを繰り返していた。


「それじゃあ全員起立。例! さようならー!」


 それを皮切りに全員が教室を出て行こうとした。

 中には教室に残っている生徒もいたが、これから部活や委員会があるのだ。


 しかし宇宙には関係がなかった。

 高校に入ってから、部活が強制ではなくなったのだ。


 そのため何もしていなかったし、入ってもいなかった。

 いわゆる帰宅部と言うやつだ。


「帰ろっ」


 そう言うと宇宙は教室を出て行った。

 けれど今日は予定があったので、真っ直ぐ家には帰らなかった。


 もちろんスーパーに行く訳でもなかった。

 向かうのは市役所だ。


「でも何で市役所なんだろ……」


 宇宙はそんなことを言いながら歩いているの、不意に廊下の曲がり角から出てきた人にぶつかり掛けた。

 よそ見はしてはいけないなと思いギリギリでかわすと、お互いに肩が振れるか触れないかのレベルでかわしていた。


「ご、ごめん」

「別に」


 軽く謝ると、お互いに顔を見合わせなかった。

 少し気になったのは、綺麗な白髪だったことだ。

 窓から射す光が乱反射して、若干銀色に見えたが、髪の毛を染めてはいけない規則はこの学校にはないので、その類だと宇宙は思った。


 ちなみに宇宙は黒髪だ。

 特に染めることはなく、カラーコンタクトなどもせず、ピアスなども開けていなかった。


 しかも宇宙はそこまで友達が多いわけではなかった。

 が、いじめなども今の時代ではほとんど無かった。


「って、そんなことより急がないと」


 宇宙は急いで靴を履き替えると、市役所に向かった。

 まずはダンジョンに入るための許可証を手に入れる必要があった。


 *


 宇宙の暮らす蛍市は東京都と千葉県の間にある市だった。

 十年ほど前に新しくできた市ではあるが、物価はほどほどで学生が多かった。


 活気があるかと問われれば普通なのだが、交通の便は非常に良かった。

 おまけに生活に必要なものは全て揃っているので、とても便利だった。


 けれどたくさんの人が住んでいる訳では無かった。

 その原因はこの市が新しくできた原因にあった。



 ダンジョン。それは未知に溢れていた。

 たくさんのモンスターが生息し、広大で危険がたくさんだった。

 故に探索は進んでいないが、魔石と呼ばれる報酬が点在していた。

 そう、ダンジョンとは未知への宝庫だった。



 何と言う謳い文句がある程だった。

 要は今から十年ほど前に、ダンジョンが突然現れた。


 原因は未だ不明だが、自然災害が大きく関わっているそうだ。

 この国は昔から自然災害大国として有名だった。


 それが原因となり、様々なダンジョンが生まれてしまった。

 そしてたくさんの屍が生まれてしまっていた。


 それを見ないふりをして生きているのが宇宙達だった。

 嘆くよりも忘れてしまい、逆に利用することを政府は考えたのだ。

 何故なら、ダンジョンがもたらした要因は世界中を問わず本当に様々だった。


 例えばダンジョンのせいで人が住めない地域ができてしまった。

 インフラが大幅に途絶えてしまった。

 モンスターがダンジョンから出てこないように色々な対策を取ることになった。

 人口が減ってしまった。


 などなどetc……本当に目まぐるしかった。


「とは言え如何してこんなことに……」


 ダンジョンができたことが要因ではなかった。

 宇宙が気にしているのは、如何してこんなことになっていたのかだ。


「ちょっと調べてはみたけど、市役所なんて緊張するよ」


 毎回足を運ぶためにちょっと緊張した。

 別に気にすることでもないのだが、人間の心理的にお堅いところに行くと、体が萎縮してしまうものだ。


 特に現代人にとっては大きな障害になっていた。

 ほとんど電子で済ませることができるので、市役所なんて行くことがめっきり減っていた。


 ましてや宇宙は高校生だ。

 高校生が市役所に親同伴無しで行くことなんてそれこそ限りなく少ないと、宇宙は思った。


「って、市役所前でずっと立ち尽くしてても変だよね」


 しかも高校のブレザーを着たままだとますます変だ。

 不意に遠くの方から甲高い声が聞こえてきた。

 多分他の学生が近くを通り掛かろうとしていた。


 気にしてもしかたなかった。

 とは言え、人間の心理的に足早になってしまった。


「は、入ろ」


 宇宙は絶妙に自信が無かった。

 上手くできるか不安だったが、決して心は傷付かないし折れたりしなかった。


 それはやりたいことが見つかっていたからだ。

 だからこそ、宇宙は気を奮い立ち、堂々と……ではなかったが、市役所の中に飛び込んだ。

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