第3話 実は配信者でした(漫画家なので絵を描きます)

 パソコンのディスプレイを見ながら、宇宙は作業をしていた。

 手元には液タブが置かれていた。


 USBケーブルでパソコン本体と繋ぎ、映像を表示していた。

 ペン置きにはペンが置かれていた。

 先が細いタッチペンだった。


 別の机の上にはコースターが置かれていた。

 上にはマグカップが置かれ、中には眠気覚ましのコーヒーが入っていた。


 濡れたら一巻の終わりだ。

 半ば緊張状態だったが、宇宙はいつも通り過ごしていた。


「やっぱり一人だと落ち着くよ」


 宇宙は安堵していた。

 呼吸が深く、安らぎに満ちていた。


 別に人混みが嫌いなわけではなかった。

 宇宙は少しポジティブ寄りもネガティブ寄りな性格だった。

 もちろんもの凄くネガティブではないが、ちょっぴり現代人らしかった。


「おっ、コメント来た。“今日もお絵描き配信ですね! ソラさんの描くイラスト柔らかいタッチで好きです!”(50,000円)。リーフレットさん、高額投げ銭ありがとう!」


 宇宙はコメントを読んだ。

 パソコンのディスプレイには配信ソフトが映っていた。


 音声波形がビヨンビヨンなっていた。

 隣には配信サイトのコメントが表示されていた。


 いつも観てくれている人達が多かった。

 マンネリ化しているのかもしれないが、宇宙は嬉しかった。


「よーし、それじゃあ今日は何の絵を描こうかな?」


 ソラは普段見せない笑顔を浮かべた。

 人前では緊張してしまうのだ。


“待ってました!”


“お絵描き講座はしないんですね”


“ソラさんみたいに可愛い絵を描くには如何したらいいですか?”


“ナイフを使う盗賊キャラがいいです”(300円)


 ソラはピンと来るコメントを見つけた。

 超高速で流れていく中で、お題となるコメントを見つけられたのは配信サイトの投げ銭システムのおかげだった。


「ナイフを使うキャラですか? ちょっと考えますね……」


 ソラは腕組みをして考えた。

 漠然としたお題に数十秒考えてみた。


 ピコンと頭の中にキャラクターが浮かび上がった。

 するとソラは早速絵を描き始めた。


「それじゃあこんな感じで……」


 ソラはサラサラと絵を描き始めた。

 軽く線を引くとラフを超高速で描いていく。


 もはや本番に直行しているようだった。

 コメントでは相変わらずの腕前に驚いていた。


“速い!”


“いつ見てもどんな速度で描いてるんですか!”


“版権絵は描かないんですか?”


「版権絵は許可が無いと描かないよ。犯罪になっちゃうでしょ?」


 ソラは平然と答えた。

 正直ずっとディスプレイを見ていて、液タブにはほとんど視線を落としていなかった。


 それもそのはず配信に液タブの映像が映し出されていた。

 それさえ見れば一瞬で描けるのだが、ソラはほとんど視線を配らなかった。


“質問です! ソラさんは如何来てそんなに絵を描くのが速いんですか? 何かコツとかありますか?”(220円)


 そんな質問が上がっていた。

 前にも似たような質問が来たことがあったが、その時もソラは困ってしまった。


「うーん、如何かな? 僕は自分がそんなに描くの速いと思ってないよ」


“嘘だ! めっちゃ速いよ”


「速いのかな? でも丁寧じゃ無いでしょ?”


“そんなことないです。柔らかいタッチのせいか可愛いです!”


“陰影もしっかり描いていますよね”


“しかも構想までが速すぎです”


 たくさんのコメントが溢れた。

 ソラは照れてしまうところだったが、あまり嬉しそうじゃなかった。


 むしろ少し落ち込んでしまった。

 勝手な被害妄想をしてしまったのだ。


「そうだよね。やっぱり丁寧じゃ無いよね」


 みんなはお世辞で言ってくれてると、ソラは思ってしまった。

 それでも心は決して折れず、黙々と絵を描き続けていた。


「でも質問にはちゃんと答えようかな。僕はそんなに絵が上手いと思ってないよ。それから絵を描くのが速いから良いんじゃなくて、丁寧で伝わるように描くことが大事だと思うよ。当たり前のことだけど、自分だけじゃなくて他人が見ても満足してくれるようにできたらそれだけで嬉しいでしょ? 全員を納得させることはできないけどね」


 むしろソラ自身が自分の絵を納得できていなかった。

 上手く描けたと思うことはあっても、他人の絵に劣ると考えてしまっていた。


 それでも描くことができたのは何でもないシンプルな答えだった。

 ソラは絵を描くことを楽しんでいた。


「はい、できた。後は色を乗せていくだけ」


 カラーサークルを展開すると、ソラは頭の中に思い浮かんでいたキャラクターの色を乗せていった。


 ディスプレイ上には銀髪ショートカットの女の子が、ナイフを逆手で構えている構図で描かれていた。


 頬にはちょっとした傷があった。

 装備はかなり軽そうで、顔を隠すためのローブを着込んでいた。


 ソラは短時間でイラストに影を落とした。

 そのおかげでローブが揺らめいている雰囲気を演出していた。


 おまけに背景も少し手を加えていた。

 太い木の枝に足を絡ませていた。


 ここまでたったの二十五分。

 描く前に頭の中で絵を完成させていたからできたのだが、それを可能にしたのは余計な情報を脳内処理できるソラの特技故だった。


「これで完成。みんな如何かな?」


 あまりの速さにいつものことだが全員驚いていた。

 ソラはコメントが無いので駄目なのかと不安になったものの、個人的にはそれなりに満足していたので、コメントが無い方が平穏でいられた。

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