ダンジョン配信者始めました?
第2話 ネガティブ寄りな現代人
少年が頬杖を突いていた。
視線は窓の向こうを見ており、綺麗な青空を眺めていた。
瞳がぼーっとしていた。
半分授業を聞いているのか聞いていないのか、分からない様子だった。
けれど視線だけは窓の向こう側を覗き込みながら、耳だけは授業の内容を聞いていた。
少年は勉強が得意な方だった。
何故なら適当に聞き流しているだけで、大抵のことは覚えていられた。
一種の才能だと誇っても良かった。
しかし少年はあまり自信を持っていなかった。
(はぁー。馴染めてるのかな)
もとい心配性だったそれと同時にウェットな性格でもあった。
それは両親が超が付くほどポジティブで計画性の欠片も無かった故の反発だった。
(って、集中しないと。授業に遅れちゃうよね)
少年は黒板に目を向けた。
しかし授業はそこまで進んでいなかった。
進学校ではないので当たり前だ。
この学校は自由な校風が有名で、部活動が非常に多かった。
それなのに治安は良くて、学力も中の上ぐらいだった。
それでも授業はかなりゆっくりだった。
そのおかげで解りやすくて頭の中にスッと入ってきた。
「皆さんは魔石って知ってますか? 最近のストーブは魔石で動くものもあるけれど、今でも石油ストーブは多く使われているから。その原理は……」
科学の授業で“魔石”と言うあまり聞き慣れない単語が出てきた。
けれどみんなスッと聞き流していて、ノートにまとめていた。
(魔石か……確かダンジョンにあるんだよね?)
少年は頬杖を突きながら何となく心の中で唱えた。
すると先生に聞こえないよう小さな声で話している声が聞こえた。
何やら魔石に反応したみたいだ。
「なあ、最近ダンジョン探索者が増えてるらしいな」
「そうだよな。この辺じゃあんま居ないけど」
「しゃあねえだろ。この辺のダンジョンは難易度高いらしいから」
「東京近辺って数年前からヤバいよな」
「なぁ」
小声だったが良く聞こえた。
とは言え言っていることは本当だった。
東京近辺、特に奥多摩の方面は数年前のダンジョンの出現で自然がより一層支配した。
そのせいで人が住める土地も減ったり、たくさんの人が死んだのも有名だった。
特に東京二十三区は崩壊した。
ダンジョンの出現は自然災害の前後だった。
たくさんの人が暮らしていたはずが、瞬く間に成す術もなく消えてしまった。
そんな人達の上に、自分達は立っていた。
(何だろう。他人事じゃない気がする……)
とは言えここは東京でも二十三区でもなかった。
蛍市と呼ばれる新しくできた市で、日本中で様々な改修が起こった結果生まれた市だった。
場所は千葉県と東京都の間辺りだった。
ちょっと発展した街は都会に比べて物価が安かった。
そのおかげか交通の便もかなり良いので、他県から学生がやって来ていた。
少年もその一人だった。
さらには自然豊かが売りのこの街にはたくさんのダンジョンがあった。
しかし難易度がかなり高いのであまり開拓が進んでいなかった。
「でもよ、ダンジョン配信伸びてるよな」
「なあ。この辺でも誰かやればいいのによ」
「やらねぇだろ。だって何があるか分かんねぇんだぜ?」
「だよな。勇気いるよな。俺はごめんだぜ」
などと話をしていた。
すると先生が痺れを切らして叱った。
今時珍しいタイプだった。
「そこ、静かにしなさい!」
「「はーい!」」
しかし聞き分けも良かった。
反発するわけでもなく、普通に黙ってしまった。
それから授業に戻る中、少年は考えてしまった。
「ダンジョンか」
ぼーっと眺めていた。
何となく魅力的な響きに聞こえた。
けれど気のせいだと軽く流してしまった。
そんな感じで授業を受けていた。
少年、
*
早乙女宇宙は学校が終わると寄り道もせずに真っ直ぐ家に帰った。
途中頼まれていたものを買うためスーパーに入ったが、それ以外は特に寄る所もなかった。
果たしてこれが現代っ子なのかと思われた。
とは言え無駄遣いをしないことはそれだけで得でもあった。
だから宇宙は全く気にしていなかった。
そんな宇宙の頭はある事でいっぱいになっていた。
もちろんエロい事ではないので、その点は健全だった。
「ダンジョンか……ネタにはなるかも」
ポツリと口にしたのは、ダンジョンについてだった。
自分からは絶対に行こうとしないような危険な場所で、相当勇気が無いと行けなかった。
とは言えここ一年程で変わったことがあった。
それは配信サイトでダンジョン系配信者と言うジャンルが密かにブームになっていた。
ちょうど一年前、宇宙とほとんど同じくらいの歳の配信者がダンジョンで大活躍を見せた。
それをきっかけに着実にダンジョン系配信者は増えていた。
とは言え全体の一%にも満たないのだが、多少宇宙は思うところがあった。
「僕もダンジョンに行けば変われるのかな」
宇宙は消極的な性格が嫌いではなかった。
だけど悪いと思ってしまった。
それが個性だとは思うのだが、もう少し自信を持った方が良いと気が付いていたのだ。
「でもなー。僕って……」
ふと立ち止まって隣を見た。
お店のショーウィンドウが前面にあり、奥にはマネキンに服が着せられていた。
けれど宇宙が見たのは違った。
鏡に映る自分の姿で、そこには可愛らしい女の子が映っていた。
「僕ってこんなだし」
宇宙はずっと気にしていた。
男らしく無い。もちろんそれが悪いとは言わないが、かなりの女顔で女声だったのだ。
そのせいでずっと自信が持てなくて、何故かトホホな気分になっていた。
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