メンタル雑魚なお絵描き配信者はダンジョンで顔バレした。登録者が爆発的に増えたけど素直に喜べない性格難です!

水定ゆう

プロローグ

第1話 くだらないことで悩むダンジョン配信者

「こんなのって……」


 少女? が声を押し殺した。


「何が?」


 白髪の少女は首を捻った。

 一体何に不満を抱いているのか、少女には分かるはずもなかった。


 右手には剣を握っていた。

 十字架をモチーフにした西洋剣が煌めいた。


 剣身の周りは紫色の一見ヤバそうなオーラに包まれていた。

 ゴクリと固唾を飲んだのだが、白髪の少女がそうした理由は別にあった。


「とりあえずこの状況を切り抜けることが先決よ」


 両手で剣を握り直した。

 剣身が目の前の敵を睨み付けた。


 周囲に逃げ道は用意されていなかった。

 いいや、実際にはあった。けれど逃げ道を塞がれてしまっていた。


 ふとスマホの画面がチラついた。

 配信コメントには同接2000人の視聴者から熱い指示が送られた。


“ホロウちゃん頑張って!”


“その剣かっこいい!”


“いっけぇ! もっとやれぇ!”


“ホロウちゃんならきっと倒せるよ。頑張ってソラちゃんのサポートしてあげて!”


「うるさい」


 カメラドローンを睨み付けた。

 ホロウと呼ばれた白髪の少女は、剣先をチラつかせた。


 目の前には敵がいた。

 姿形はドロドロとしたスライムだった。

 名前はヘドロスライム。とんでもない臭いがして正直戦意が削がれていた。


 けれどホロウは気にしなかった。

 これもホロウの能力のおかげだ。

 それに引き換えーー


「ちょっとソラ! もっとシャキッとしなさい!」

「ご、ごめん……で、でもね」


 ソラと呼ばれた少女?。

 黒髪だけど若干明るい色味が混ざっていた。


 一見するとオドオド系の消極的主人公な雰囲気があった。

 まさしくその通りで、ホロウはイライラしていた。

 本当は強いのにさっきからいじけていた。


「ちょっと、貴方が戦わなくて如何するのよ!」

「で、でも……」

「気にしすぎなのよ。もっと図々しくないと、配信者なんてやってられないわよ!」


 ホロウの言葉は的を射ていた。

 グサリと一射必中で撃ち抜かれ、心が歪みそうになった。

 だけどそんなことで傷付くほど弱くもなかった。


「そんなの分かってるよ。でもさ……やっぱりさ」


 何に落ち込んでいるのかホロウには到底分かるはずもなかった。

 だから分かってあげる気はなかった。

 自分に関係のない火の粉に自ら飛び込む勇気はなかった。


「とにかく戦いなさい。私一人じゃキツイわよ」

「全然そんな風に見えないんだけど……」


 ソラはそう口にした。

 ホロウは一見劣勢のように見えるが、実際かなり優位だった。


 理由は二つもあった。

 一つ目はさっきから息一つ乱れずに、ペラペラと口が動いていた。

 こんなに冷静なら劣勢でも何でもなかった。余裕の塊だった。


 それからもう一つはヘドロスライム相手に果敢かかんに挑んでいた。

 剣で畳み掛けるように切り付け、濁ったドロドロの液が噴射された。

 もの凄く臭くて洞窟内に充満した。


 カキン! カキーン!


 金属が擦れた。

 ホロウの振り下ろした剣がヘドロスライムに当たり、スライム質な一部を削ぎ落としたのだ。


 しかしそのまま流れるように地面に触れた。

 斬撃攻撃をいくら浴びせても、ヘドロスライムの体にはダメージとして入っていなかった。


「くっ!」


 苦渋を舐めた。

 能力を使いたいのは山々だが、今使っても何も解決しないと分かっていた。


「如何すればいいのよ」


 ホロウは少し焦った。

 傍目からは絶対に分からないが奥歯を噛んだ。


 そんなホロウを見守りつつ、ソラは本音を口にした。

 今見えているソラの視線からでは、ホロウがこんな風に見えていた。


「明らかにホロウの方が強いよね!」

「そうね。でもヘドロスライム相手だと厳しいわ」

「そうかな?」

「そうなの。だから早く立ち直りなさい!」


 ホロウは厳しく当たった。

 するとソラは先程まで見せていた暗い表情に首を捻った。


「落ち込んでないよ?」

「嘘っ! 絶対に落ち込んでたわ」


 何故か食い違っていた。

 けれどコメントはソラのことを言及した。


“ソラちゃん落ち込んでたよ”


“可愛い顔が台無し”


“落ち込まないで、ソラちゃん?”


“いつもの大技見せてよ!”


 ソラが落ち込んだように見えた原因がここにもあった。

 両手をパチンと合わせると、急に右手に炎が灯った。


「やっぱりだ……」

「やっぱり?」


 ソラの呟きにホロウが反応した。

 首を捻り急に右手に炎が灯ったので距離を取った。


「こんなのってないよ……これじゃあまるで……」

「まるで何?」


 奥歯をグッと噛んだ。

 唇から血が出るくらい激しく噛んだ。

 右手には炎が左手には光が纏われていた。


 その足は真っ直ぐヘドロスライムに向かっていた。

 臭いなんて焼き払ってしまうようで、凄まじい気配を感じ取った。


 ブヨン!


 ヘドロスライムがブヨンブヨンしていた。

 型崩れを絶対にしないプリンみたいだった。

 けれどその体に強烈な穴が空き、ヘドロと一緒に水分が蒸発した。


 ブシャァー!


 ホロウは鼻を摘んだ。

 凄まじい臭いが洞窟の中を覆い尽くし、激しく咳き込んだ。


「ぐはっ、うへっうへっ!」


 カメラだと絶対に映らないので、ホロウだけが倒れた映像が流れた。

 コメントは何が起きたのか分からなかったが、凄く湧いていた。


 その瞬間、ソラの不満が漏れた。


「結局ビジュアル何ですか!」


 まるで断末魔のようだった。

 同接は最大5000人にまで到達していた。

 これがソラ達、宇宙色プラネットの配信風景だった。

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