第8話 デスレッド
「再生するカラダ! 戻っていく血液! おおなんて素晴らしいんすか!! 感激っす!」
「あの……」
「あっ失礼したっす、特殊装備品研究室のボス、ヒイラギっす。アカイくんの装備担当に任命されたんでよろしくどーぞっす」
「アカイソラさんのサポートを担当するホウジョウです、よろしくお願いします」
「オ、オレの首が」
「だいじょーぶっすくっついてるっす、ケガの痕もないっすよ。あ、お二人のことはもう聞いてるっす、自分はハタチっす。職歴も自分の方が長いしセンパイコーハイの関係っすね。でもこの喋り方治らないんでこのままでいかせてもらうっす」
「なんでいきなり刺してきたんだ?!」
「自分の目で確かめたかったんすごめんす、あとで飯奢るっす。アカイくんはあれっすよね。トクサツすきなんすよね? だったら分かるっすよね? 本物が居たら触ってみたいってキモチが! 抑えられないワクワク感が!」
「わかんねぇよ! オレは実物みかけても遠巻きに見守る派だ!」
「あー損な性格っすね、我慢してても欲しい物はなんも手にはいらんっすよ、いい歳だからってヒーローとの握手を我慢しててもいいことないっす」
「いや、だがヒーローは小さな子供と握手する為にいる訳で……ってなんでトクサツ好きって知ってるんだ?」
「だってそれは……」
いけない、66万匹の妖精と9000人のスタッフがアカイソラの個人情報を全て知っている等と教えてしまったら発狂してしまうかもしれない。私は咳ばらいをした。
「ゴホンッ」
「いやっ、ほら会場で話してたのは聞こえたっすから、ヒーローとの握手の話っすよね」
確かに、全体の話は観客には理解不能だったかもしれないが。最後の方は大声になっていたので全員に聞こえていただろう。
「そういえばそうだったな、クソはずかしい、あんな場で大げさに握手したもんだから目立ってしかたない」
「そーっすそーっす。それでなんですけどね、さっそく貰ってほしいっす」
ヒイラギは近くに置いてあった四角い銀色のコンテナを乗せた台車を押してすぐに戻ってきた。
「これっす、出来立てほやほやのスーツっす! 開けていーっすよ!」
「オレのスーツか」
そう言ってアカイが取り出したのは、真っ赤なタイツだった。
「これは、レッド!!!」
「アカイくんの名前にピッタリっす!」
「レッドに……。アクセントでブラックか、カラーパターンの王道だな!」
タイツの胴体部分にはいくつもの黒いラインが引いてある、それはアクセントというか私には黒い鎖骨にしかみえなかった。
「でかいバックルもついてる、いいじゃないか! あと手袋とブーツに……そうそう最後はやっぱこれだよな!」
そういって最後にヘルメットを取り出した。やはりというかなんというか、それは歪なデザインだった。
「ど、どういうことだ!」
アカイが大声をあげる。不満がある時、人の声は大きくなるものだ。
「ふふっ、喜んでもらえているようだな」
「デスデス!」
不満の声をかき分けるようにして特殊装備品研究室の扉を開け入ってきたのは、アラマキ博士とミミミィだった。
「スーツの製作はヒイラギくんが、デザインはわしが担当したのだよ」
「ドクロじゃないかこれ、ツノまでついてる」
アカイが喚きながら握りしめているヘルメットは顔面の部分だけが黒く、それ以外は真っ赤な頭蓋骨を模したデザインで、眼孔の部分はツヤのない黒いレンズ状になっていて額からは短い角が二本伸びていた。
「なんか鬼みたいですね」
私は正直な感想を漏らした。
「これじゃあヒーローじゃなくて怪人だろ!」
「なにをいう、特撮物において主役のデザインがドクロをモチーフにするのはなにも珍しいものではあるまい」
「うっ、それはそうだが……」
「それに君はデスゲーム施設のヒーロー、デスレッドだぞ」
「デスレッドだと?!」
「どうだ、かっこいいだろう」
「かっこいいっす、アラマキ博士!」
「うむ!」
ヒイラギさんに褒められて胸を張るアラマキ博士は次に私の方を見た。
「とてもかっこいいと思います」
「うむ!!」
「かっこいーデス!」
「うむ!!!」
ミミミィも相槌を打ち、そして最後にアカイの方を見た。
「みんな言っているぞ、かっこいいとな! つまり、君が褒められているのだ!」
「お、オレがかっこいい……」
「そうだ! デスレッドはかっこいい!」
アカイのことを褒めているようで、特に褒めていない。だがそのように見せかけるのがアラマキ博士は上手かった。
「そ、そうか、それで性能は?」
「タイツは非常に柔軟性があり汗かいても即座に吸収し乾燥させる速乾性素材で我が社のスポーツブランドでも採用されているものをさらに改良した特殊素材だ。何時間着てもムレたりはしない、サラサラとした着心地を保証する。ブーツはあらゆる衝撃を吸収する特殊素材、何時間走っても足の裏が痛くならないぞ。ミノタウロスホールを五周しても疲れないし摩耗性も非常に強い高耐久性だ、十年履いても買い替えなくていい! グローブには特殊な武器が仕込まれている、これは……後のお楽しみというやつだな。ヘルメットはとにかく頑丈だ! 一番硬い部分だぞ! すごいだろう!」
「わかった。ふんわりとした説明だったがデザインと性能に……。問題はないっ! それで
「変身機構……?」
「ボタン一つでヒーローに瞬時に変身するスイッチだよ、あるだろレンジャーにもライダーにも」
「まったく、君は何歳なんだ? あるわけないだろうそんなもの、ファンタジーじゃないんだぞ、スーツは事前に着てくるに決まっているだろう。それにバックルにはなんの効果もないただの飾りだ、雰囲気は大事だからな」
「クソ腹立つなこのジジイは」
「それとミミミィは君の戦いのセコンドみたいなポジションになってくれるだろう、頼りにしてもいい便利な妖精だ」
アカイが不審そうにミミミィを見たが何故か当のミミミィは指をくるくる回し、俯き加減で顔も赤い。
「どーしたんだこいつは」
「その……。聞いたデス、博士に。アカイソラは人外が好きだとか……」
「おいいいいいいいい!!! なにやってんだあんた!」
「様々な角度からの君の情報が必要なのだからミミミィを同行させなければならん、しかし君が彼女を傷つけるもんだからついていかないと駄々をこね始めてな。仲直りのきっかけを与えたまでだ」
「そんないくら好きでもわたしは妖精、デスからね」
「昆虫には興味ねーよ」
「ムシじゃないデス! アラマキ博士、全然さっきと対応が変わってないデス!」
「ミミミィしばらく耳を塞いでいてくれ、通信機能も停止だ」
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