第7話 特殊武装課

「慣れればそれなりに良い所ですよ。今の時代に福利厚生と社員登録制度もありますからね。それで、体の方は問題ありませんか」

「問題しかねーだろ、オレを誘拐するだけじゃなく改造人間にしやがったのかここの連中は」

「その身体の件につきましては、我々としても本当に存じ上げないのです」

「こんなことが出来るのはあんたらみたいな秘密結社だけだろ!」

「おっしゃる通りかもしれませんが、あなたの不死身の身体についてはまったくの無関係です。アラマキ博士もそう言っていましたし」

「じゃあオレは一体なんなんだ?!」

「う~ん、なんなんでしょう。本当に救いのヒーローかもしれません」

「マジ?」

「まじかもしれませんね」


会話をしている最中にスマホが震えた、デスSNSによる連絡だ。準備が出来たのでアカイソラを連れてきて欲しいとある。あらゆる不測の事態に備えてデススタッフの連絡手段は電池で動くトランシーバーに無線のイヤホンマイクとスマホの三つが用意されている。屋内電話もそこら中にあるし糸電話も設置されている。


「呼び出しです、外に行きましょう」

「どこにいくんだ」

「特殊装備品研究室です、あなたのスーツを貰いにいきます」

「スーツ……。ホウジョウさんの着ているそれか」

「これはスタッフ全員に支給される防弾スーツですが、こちらのスタッフ用スーツは普段の生活用として使用してください」


私はアカイにスーツ一式と備品と予備が入ったトランクケースを差し出した。スタッフ用スーツは白のYシャツ、黒のネクタイ、それと黒のジャケット、黒のスラックス、黒の革靴で、毎日がお葬式のこの施設にぴったりの出で立ちではあったが上着の胸ポケットには可愛らしいフォントでウルトラハッピー☆ランド、と夜になると光るピンク色の刺繍がされている。正直クソダサい。アカイは一番上にあったスマートフォンをまず手に取った。


「おっスマホあるじゃん」

「それがアカイさん用のスマホです、私の連絡先も既に入ってます。ネットは繋がりますけどここ独自のブラウザと検索エンジンしか使えないので外の誰かに助けを求めたり、情報を公開したりは出来ませんよ」

「……なにが見れるんだ?」

「ウルトラハッピー☆ランドの全域マップと通販サイトと監視員同士のSNSと検閲された外の動画の類ですね。映画とかを見る分には全然使えますよ」

「退屈そうだな」

「ここでの最大の娯楽はコロシですからね」


「これオレも着なきゃ駄目か?」


アカイは漆黒のジャケットを持ち上げて、不満そうな顔で言った。その視線はやはりピンク色の刺繍に向かっていた。


「不死身の超人は目立って仕方がないので、そのスーツを着た方がさほど目立たなくなりよいかと」

「それもそうか……」

「これから貰いに行くのはアカイさん専用の戦闘用スーツとのことです」

「つまり、ヒーロースーツか!」

「研究室まで移動します、外に出ていますので、そのスーツに着替えてから出てきてください」

「わかった」


数分後、アカイがスタッフ用スーツを着て出て来た、彼の個人情報は丸裸なので誂えたかのように体にフィットしている。


「似合ってますよ」

「そうかな、にしてもなんか随分オレのカラダに合ってるなこれ」


しかし彼は、会場での小声の会話はアラマキ博士と二人だけの秘密であると思っているらしくそのことには気づいてないらしい。


「……監視カメラが沢山あるので、それで調整をしています」

「へぇ、便利なんだな」

「えぇ、では行きましょう」


アカイの私室から外は長い廊下が広がっていて、そこを歩くと二人分の革靴がカツカツと音をたてて反響する。施設内が無駄に広すぎるというのも困りものだ


「ここさ、人気ひとけがあんまないな」

「アカイさんの住まいは要人エリアなので、近くに住んでいる人は少ないですよ。あまり他人と顔を合わせない方がいいでしょうし」

「それは少し助かる、つーか徒歩で移動するのか?」

「いえ、乗り物があります」

「またあのゴーカートに乗るのか、もうしばらく顔面に風を感じたくない」

「ああ、ここまでは別のスタッフが運転するあれに乗ってきたんですね。こんどは地下鉄に乗ります」



「こんなとこに路線があったのか?」

「まぁ私鉄という奴ですね、もちろん地上のフツーの人々は入ってこれませんのでご安心を、通路の壁をよく見てください、電車のマークがあるでしょう。そこの階段を降りると各所に繋がる電車が走っているので利用したい時はどうぞ。改札もありませんし無料ですので気軽に乗ってください、セブンスヘブンの用意した関連企業の施設以外にも他社のコンビニやショッピングモールもあるので便利ですよ」

「なぜだ! 悪の組織の施設だぞ!」

「理由はシンプルに金ですね、賄賂わいろって奴です。スタッフ以外の家族や親族でここに暮らす人たちもいるのでそれも廻った収入になりますし」

「ぐっ、やはり最後は金なのか……」


プラットフォームで佇んでいると、13両編成の電車にがやってきたので乗り込んだ。短い間だがアカイは変わり映えしない真っ暗な地下の窓の外の景色を食い入るようにしてずっと見ていた。


科学特殊兵装かがくとくしゅへいそう駅~科学特殊兵装駅~。お出口は左側になります」

「着きました、降りましょう」

「なんだよこのふざけた名前は……。ごほっ、おい煙と薬品臭いぞ。火事なんじゃないか!?」


駅から降りた直後から若干変なニオイがしていたが。私にとってはいつものことなので特に気にならなかったが言われてみれば異常な臭いかもしれない、長い地下生活のせいで感覚が狂ってきているらしい。


「いつもこんな感じですよ、私が大丈夫なんですから不死身のあなたにもガスマスクは要りませんよ」

「不安でしかない」

「あらゆる人体に有害な物質の研究をしている場所でもありますからね、やはりヒーローだけあっていいカンをしています」

「誰でも臭いでわかるだろ……」


それから三分程歩き、特殊装備品研究室の看板の下までやってきたのでノックをして扉を開けた。初めて来たが、中に入るとコンクリート打ちっぱなしで車の改造をするガレージの様なデザインだった。ある程度の地位にいる人物は部屋を自由にデザイン出来ると聞いたことがある、おそらくそのせいだろう。権力者には権利がある、私もやはり上昇志向で生きていかねば。作業台の近くに白衣姿でパーマがかかりまくった髪型をした若い女がいた、設計図のようなものを持ち熱心に覗き込んでいる為にこちらに気が付かないので声をかけた。


「失礼します、この方が……」

「あっ……。待ってたっす! ずっとずっと待ってたっす!!」

「ぐわっ!」


女はアカイに勢いよくラグビータックルをしてそのままテイクダウンしたかと思うと胸に顔を擦り付けまくっている。


「死んでも死なない不死身の実験体! あぁ! まるで夢みたいっす! 子供の頃から信じていたっす! うあああっ! これが不死身のニオイっすかあああ!」

「な、なんだあんた!」

「ではさっそくテストを」


そういうと女はナイフをポケットから取り出し、アカイの首を思い切り突き刺してから引き抜いた。


「ぎゅあああああああ!」


アカイの悲鳴と大出血、部屋の中が赤に染まる。それと同時に血液は穴の開いた首に排水溝に落ちていく風呂の残り湯のように戻って行った。その箇所を女は愛おしそうに撫でまわす。


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