第5話 セレモニー会場
「いてぇ!」
アカイがつまずいて盛大に転げまわり、地面に大の字になって寝っ転がった。右足首の関節が逆向きになってたし白い骨が皮膚を突き破って外に出ていた。
「わーすごいデスねぇ」
「おわああああ! どーなってんだまじで!」
「よしっ! そのまま倒れてろ、死ぬまで殺してやる!!!」
「なにかなにかないか、あっ」
手探りで地面をまさぐっていたアカイが何かに気が付いたようだ、それからすぐにアカイの姿が消えた。
「ふざけんな、出てこいこらぁー!」
シュウテンが吠える、地下だ、ハッチを開けスタッフ用の通路に入り込んだのだ。あそこは指紋認証でしか開かないし、一見してどこが入口になっているのかも素人には分からないはずなのにアカイは気がついたらしい、シュウテンが触れてもハッチは開かない、怒り狂ってハッチを殴打したせいでエラーが出て一時的なロック状態になっているようだった。
絶叫するシュウテン、もう獲物はどこにもいない。異常事態の連続に会場は静まり返っていた。
「えー現在、ミノタウロスホール最後の参加者アカイソラ選手の捜索をしているデス。観客の皆様はそのままもう少々お待ちくださいデス」
三三三のアナウンス用個体がお知らせを告げるが、良い所で結果が分からなくなった観客達からは大ブーイングだった。
「あー! やめてください! カシューナッツを大量に掴んで投げないでほしいデス! 痛いデス!」
ロボだからノーダメージのはずだか頭を押さえ涙目で感情があるようなそぶりを見せるのがロボの恐ろしいところだ。デスマスコットの演技力には脱帽物だ。
そう思っていた時だった、ドーンと急に大きな音がしてそちらに眼を向けると会場の上空にカラフルな打ち上げ花火がひとつあがり。それは次から次に打ち上げられていった、みな呆気に取られている。私は地下666メートルで上がる打ち上げ花火というのもいいものだなぁと思った。
「あ、あれおかしいデスね……。あれは攻略完了時に出る記念花火のはずデスけど」
「クリアしたぞー! 解放しろコラー!!」
アカイソラが栄誉ある脱出者セレモニー会場に立っていた。
「だめだあああああああ! 許さねえ、ここはおれの迷宮だぞ! 誰一人として生かして外に出したりしねえええ!!!」
脱出者が現れたことを認められないシュウテンは一人残された迷宮で吠え続けていた。もうゲームは終わったのだ、それでも近づくスタッフにも威嚇をし斧を振り回していた、こうなってしまっては反逆者とみなされ今後の活躍の場も与えられそうにないだろう。警備スタッフが麻酔銃を構え、引き金に指をかけた。
麻酔弾は腹部に命中し瞬時に
「おめでとうアカイくん!」
水仙の花束を抱えたアラマキ博士がアカイに近づいていき、力強く抱きしめた。その目元にはうっすらと涙が浮かんでいるが、きっと目薬だろう。
「これで自由なんだよな!」
「すばらしい戦いぶりだった、感動した。長い間生きてきたが今までこんなものをみたことはない」
「そ、そうか?」
「シュウテンくんになんど倒されても立ち上がる様はまるでヒーローのようだったぞ!」
「オレがヒーロー……」
「モンスターだろっ!」
明確な野次を飛ばした観客のもとにデス警備員がすっとんでいき、右ストレートパンチを顎にお見舞いした。観客は即座に意識を失いデス担架で運ばれていった。防弾ガラスで囲まれた最上階からオペラグラスで観戦するセレブリティの高いハイランク顧客ならともかく一般席の観客に容赦はしない、それがデスゲーム運営に必要な決断力だった。決断には痛みが伴う。その姿を見た、周りの観客も
「どうだ迷宮を脱出してみせたぞ! 最初にこのゴキブリに言われた通りオレは自由なんだろ」
「ゴキブリじゃないデス! 名前もミミミィデスしこのキュートな姿のどこがゴキブリなんデスか!」
「どうみてもそうだろ、全身黒いし触覚なげーし羽生えてるし」
「ぐぎいいいいい! あんまりデス!」
ゴキブリ呼ばわりされたミミミィはどこかに飛んで行ってしまった。ロボにも壊れやすい
「まったく、困った妖精だ……。アカイくん、わしは君の事はなんでも知っていると言ったな」
「あっああ」
「もちろんそれはちん……。体の構造だけではなく、
「いやまあ、そうだな」
「ふふ、照れる必要はない、誰だってヒーローには憧れるものだ。わしだって君ぐらいの頃はテレビにかじりついて特撮物を堪能していたよ」
「そうなのか?」
「そこで提案なんだが、どうだろう本物のヒーローになってみないか」
「なんだって?」
「今のデスゲームを盛り上げる為には死者と
「断る!!!!」
アカイは考える素振りもみせず即座に拒否した。
「なんと、何故なのだ」
「ヒーローは人の死を娯楽に変える悪の組織に手を貸したりはしない!」
「高潔だな、やはり素晴らしいぞ。しかしだねこの言葉を聞いてもきみの意思は変わらないかな……」
アラマキ博士はアカイに近づき、耳元で囁いた。
「触手、産卵、人外、獣人、睡眠、拘束」
デスゲームスタッフには至る所に隠れるように設置された高性能集音マイクのお陰で小声の秘密の会話は丸聞こえだ。小賢しい参加者は死角でこのテクニックを使おうと何度も試みるがすべて無駄な努力だった。
「なっ……!!!」
アカイは眼を見開いて驚愕した表情を浮かべた。
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