第4話 シュウテン
遠隔操作でデスストレッチャーの上に固定されたアカイが解放され再び血の惨劇が始まる。私たちがあれこれやっている間に既に六人が死亡していた。開始から十分足らずでこの有様だ、少々ハイペースすぎる。過去の動画をスマホで確認するとシュウテンが凄まじい勢いで斧を振り回し、六人を始末していた。首輪が爆発した訳でもないのに生首が空に飛びあがってる、今回のシュウテンはかなりのやる気で殺意が高いらしい。血しぶきを浴びながら勝利の雄たけびをあげている。
アカイはというと、走っていた。ひたすらに迷路を全力疾走している。これはリアルタイム放送ではあるが同時にゴールまでの道のりも会場に設置された巨大モニターに表示されている、通常ではあり得ないのだがアカイは最短ルートを直行しているようにみえた。このペースなら二時間も走り続ければ誰も到達したことのないゴール地点に向かえるだろう。
「アラマキ博士、これは一体」
「わしにもわからん! ミミミィ、何故ゴールの位置に正確に向かえるのかアカイくんに聞いてみてくれ」
「どーしてゴールが分かるんデスか?」
「知るかよ、適当に走ってるだけだ」
「うむむ……。野生の生存本能が芽生えたとでも言うべきか、彼は死なない上にゴールの位置が分かるらしいな。人間方位磁石か? デスゲームの申し子とでもいうべき存在かもしれん」
「おーアカイソラはすごいデスねー、ハカセも褒めてくれてますデスよ」
「ざっけんな、うれしくねーよ!」
そうこうしている間に会場に設置されている大型モニターに表示された生き残りの数がイチを示していた、アカイ以外が死んだのだ。もっと殺させろとシュウテンが怒り狂い吠えている。
「これじゃあ面白くないな、迷路を回転させろ」
アラマキ博士の命令で迷路全体がぐるぐると回転を始めた。博士と名の付く存在には大体理解できないような権力がこびりついているのでデスゲームの進行権限も付与されている。私も今から頑張って勉強して権力を手に入れた方がいいかもしれない。
「観客は脱出劇などは求めていないのだよ、必死こいた参加者の顔面が胴体から切り離されるのを求めているんだ。わかってくれるな」
ミミミィを通してアラマキ博士の野太い声が発せられる。
「わからねぇよ!」
アカイはキレ散らかしながら全力疾走していたが、最短ルートを行ったはずのアカイの目の前にシュウテンが現れたのをみて急停止した。
「おいっ、おかしいだろ。あれだけ距離をとったはずなのになんで目の前に居るんだよ!」
パニック物のホラー映画でありがちなワープ機能ではない、単純にスタッフだけが使える秘密の地下通路を通っただけだ。地下には壁は無いし時速300キロに達するデスゴーカートにも乗れるので人間の走る速度では絶対に逃げ切れない。休憩時間はみんなこれに乗って遊んでいる。
「死んでくれ! 一刻も早く死んでくれ!」
ダンボール製の頭は大量の返り血で今やふにゃふにゃのべこべこだった。この男一人で十三人も殺している。どういう嗅覚なのか毎回確実に生存者を見つけ出しては殺していくのだから大したものだ、デスゲーム業界のキルランキングにも乗るだろう。
「ちょっとまて、止めろ、あんた誰なんだ!」
「死んでほしいんだおれ以外全員死んでほしいんだって! それだけなんだからっなっなっなっ! わかるだろっ!」
「わからんっ、落ち着けってえええええ!」
「牛が食われる側の時代は終わったんだよ! モオオオオオオ!」
シュウテンの謎の掛け声と共にアカイの首が再び宙を舞った。大出血、しているがそれは約一メートル位の位置で停止した、生首が浮かんでいて空中に固定されたようになっている。会場からも悲鳴があがる、糸のようなものが首の断面図から伸びている、いや肉だろうか? 筋組織がゴムのように伸びていてそれは、伸縮し首の断面図にくっついた。飛び散った血も全てアカイの肉体へと戻っていく。
「おわー! きもすぎデス! アカイソラは不死身なんデスか?」
「ど、どーなってんだオレのカラダになにしやがった!」
「なにもしていないデス」
「なんかしたからこうなってるんだろうがああああ!!!」
なんだか胸が熱い、こいつは只者じゃない。生命とかそういうものを超越している。
「ミンチになれ!」
シュウテンはアカイの髪の毛を掴み首のあたりを滅多打ちにした、首に深い切れ込みが入り大出血しては血が肉体に戻り塞がる、そしてまた切れ込みが入り塞がる。それを数十回繰り返し、いい加減疲れたらしく肩で荒く息をしていた。
「なんだぁ? なんで死なないんだお前ぇ!」
「もうやめてくれ、話せばわかる!」
「分かるだと! じゃあ死ね!」
アカイの頭蓋骨が真っ二つに割れた、ニンゲンの裂けるチーズだ。そしてチーズはくっついていく、粘着性があるのだ。チーズだからするすると元の形に戻っていく。
「全然わかんねーじゃねーか! クソクソクソ!」
「いだだだだ! もうやめろ!」
斧の柄で殴られまくって顔面が部分的に陥没したアカイが倒れた状態から蹴りを放った、それは上手い具合にシュウテンの腹に入り地面に膝をつかせた、その隙にアカイは這う這うの体で逃げ出した。
「出口、出口はどっちだ!」
「あっちデス!」
「ほんとかっ?!」
「すいません嘘デス」
「ふざけんじゃねーぞゴキブリが!」
「ゴキブリじゃないデス! 妖精デス!」
「がああああああ!! やりやがったなああああ! 絶対ぶっころしてやる! 死んでもぶっ殺す!」
「ひいいいいいいい!!!」
アカイとシュウテンの追跡劇が始まった、この放送を見ている者は新しい大掛かりなドラマの宣伝かなにかだと思うだろうが、会場にいる観客達はこれが現実であるということを知っている為にひたすら困惑していた。
「どーなってんの? 特殊メイク?」
「なんだあれ、化け物か?」
「いや新しいロボじゃねーの……。しぶといしゴキブリ二号だろ」
「バアさんわしは眼が悪くなったんかのお」
「大丈夫ですよおじいさん、あたしも悪くなったみたいですから」
「人間じゃねー、やべーってまじで」
「まじキモッ、モンスターじゃん」
「モンスターは死ねっ! がんばれシュウテン!」
「シュウテンッ! シュウテンッ!」
シュウテンコールが会場全体に響く、人が死ぬのを見ることが好きな一部の観客達が好き放題言っている、こんな立場にいてなんだが、無性に腹が立ってきた。あいつらも仲良く迷宮に行けばいいのに。
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