第3話 アラマキ博士

「おーびっくりした、まじで死んだかと思ったぞ。ドッキリってやつか」

「えー! ちょっとぉぉおお! なんで生きてるんデスか!」

「生きてるから生きてるんだよ、人間はそういうもんだ。呼吸をするのに意識しないのと同じだろ」

「そーいう意味ではないんデスけど……。てゆーかドッキリじゃないデス」

「あ?」

「確実に死ぬはずだったんデスけど……」


たしかに首輪は爆発し生首も飛んでいて石油を掘り当てたみたいに大量出血していたはず、私もこの目で見届けた。なのにこの男は平然としている。


「はぁ……。ゴキブリ相手じゃ会話も通じないか」

「ゴキブリじゃないデス!」

「あのさ、オレもう帰りたいんだけど、こんな撮影承諾してないよ。だめだって勝手にこんなことしちゃあ」


男は私に近づいてきてそう言った。あまりの事態に私は何も答えられない。無線で上司に助けを求める事にした。


「あー、こう言ってますがどうしましょう」

「麻酔銃を打ち込め」

「了解しました」


腰から会社から支給された拳銃を抜き三発撃った。見事に眉間と心臓と胃袋辺りに命中した、気が狂うまでFPSをやり続けた成果がこんな場所で出るとは思わなかった。


「うーん」


男は昏倒、これを食らうと半日は目が覚めない。それどころか覚めないまま永眠することも多々あるが死んでも特に我々に罰則はないので問題ない。すかさず待機していたデス警備員が駆け寄ってきて男を拘束しようと手錠を取り出した。あらゆる不測の事態にも対策を用意しておくべきとゲームブック第三項にも書かれている。


「了解しました。ホウジョウくん、この男を第十三処置室まで運ぶとしよう。手伝ってくれ」


デス警備員にそう言われたので手伝うことにした。デスゲーム運営にはこのような不測の事態が常に起こるので人員不足に悩まされる、クレーマーに対応したり、死体を運ぶのを手伝ったりするのも業務の内だ。男は両手両足を歯向かうと爆発する電子デス手錠で完全に拘束され、警備員と共にいつでも背骨を挟んで折れるデスストレッチャーに乗せて第十三処置室に向かう、背後からブブブと羽音がする。三三三がついてきているらしい。このロボは監視も兼ねているし複数台存在するので現場から一台居なくなった程度では特に問題はない。そして十三番の印がついた処置室の扉を開け診察台に置いた直後に男は目を覚ました。


「はっ、どこだここは!」

「あっもう起きたんデスか」

「おい、まだここかよ。撮影はやめろつったろ」

「どーして麻酔が効かないんデスか?」

「オレが知るかよ、早く解放しろ!」


三三三が私の拳銃をスキャンして調べ始めた。


「いじょーはないデスね。規定量の麻酔が入っています。念のためもう一発撃ってみてくださいデス」

「了解」


男の二の腕に向け麻酔銃の引き金を引いた。


「いってぇって! 傷害は犯罪だろ!」


そのまま少しの間観察したが、もう麻酔の効果が表れ無い。これは驚いた。


「あれぇやっぱりダメみたいデスね」

「次はその机の上にある緑の液体の入った注射器を使え」

「はい」


処置室の奥の方から老人の声が聞こえ、私は注射器を掴み男の腕に打ち込んだ。


「がああああ! 体があちいいいい!! なにをしたんだああああああ!」

「ウルトラハッピー☆ランド印のオリジナル精製猛毒デス、体内に入ったら十三秒であの世行きデス。全身の穴という穴から血を噴き出して内臓は全部融解して死に至ります、血清は当然ありませんデスよ」

「ざけんなああ!!」

「さん、にい、いち……死なないデスね」

「解放しろクソ!」


「どうやらその男、デスゲーム耐性があるらしいな」


処置室の奥から、右目に眼帯をしたガタイの良い白髪とヒゲを蓄えた老人が現れた。デスゲーム医療部門の最高責任者アラマキ博士だ。会ったのは初めてだがウルトラハッピー☆ランドのパンフレットの表紙にも載っているし、テレビCMにも出ているので一般人にも広く知れ渡っている。みな顔を隠したがる時代に堂々としたものだ。


「耐性ですか」

「うむ、人類は娯楽の為のデスゲーム生活を長い間続け過ぎた。その過酷な環境に対応するものがついに現れたのだろう」

「ではデスゲームはそういった人類の出現を目的としたものだったんですか」

「いや、完全に偶然の産物だ。みんな人が死ぬのを見るのが好きだからやっているだけだ。当然わしも好きだ、人が死ぬのを目の前で見る為に必死で勉強して偉い大学を出て医者になったのだよ」

「私も好きですよ、中学時代は毎日グロ画像を見てました」


本当は飽きているのだが、偉い人の前では本心を話すべきではないとこの一年で学んでいる。


「わたしも大好きデス!」

「オレは嫌いだ! 人が死ぬ所を見て喜ぶなんて趣味が悪すぎるぞ!」


男は唾を飛ばしながら語気も荒く言ったが、アラマキ博士は男の発言を無視した。


「しかし素晴らしいサンプルだ、非常に助かるよ、えーと名前は……」

「答えないぞ、個人情報だからな」

「アカイ ソラくん。十七歳だな、君の個人情報はわしには丸裸だから隠すだけ無駄だよ。股間の大きさから一回の排便量まで全て知っている、君より君に詳しいぞ」

「ふざけやがって、訴えてやる」

「ははは、警察も司法も我々の味方だよ、一体どこに訴えようというのかね」

「ネットのチカラがある!」

「ビービービー! ネット規制しました。Wi-Fi使用不可能デス」

「あぁ?!」

「わたしは独立したあいぴーがあり同型機も666666台存在するのでネットで自作自演も言論統制もやりたい放題ですしあなたの味方になる人はいませんデス」

「ざっけんなあああ!」


「そうと分かったらさっそく迷宮に彼を戻すぞ、致死耐性の実験を行いたい。この場には他にろくな処刑道具が無いからな。迷宮でシュウテンくんが頑張ってくれるだろう。三三三、えー個体名はミミミィか。ミミミィ、アカイくんについて行ってあらゆる動作を録画しておいてほしいアップの絵も必要だ」

「りょーかいデス!」


デス警備員と共にデスストレッチャーでアカイを再び迷宮前まで運んで戻ってきた、暴れまくるから麻酔銃を何度か撃ったがやはり効果はなかった。


「おいいいい! こんなのやめろ! 解放してくれ!」

「言われた通りにしないと私も殺されてしまいますので、申し訳ありません」

「よし、迷宮内に到着。被験者を置いていく。撤退するぞホウジョウくん」

「はい」

「ちくしょおおおおおお!」


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