第37話 強者

「なんだぁ? てめぇは、部外者は引っ込んでろ! じゃねぇと只じゃすまねぇぞ? 」


 テナントビルの屋上に若衆準構成員を含め総勢7人。龍神会の不良ヤクザ達が語尾を強める。男達が語尾を強めたのには訳があった。クロノスの社長と屋上で交渉を始めようとした矢先に、後ろの非常階段から得体の知れない者がゆらりと現れたからだった。


「なんだ…… まだ手を出されて無かったか、社長…… 」


「あぁ、天城あまぎさん、すみません。ええ、まだ彼等からは何も」


 焦った兄貴分とみられる人物が声を荒げる―――


「てめぇコラ! シカトしてっとやっちまうぞ! 」


「どうでもいいけど、お前らは直ぐに道具武器使うからな、道具無しならいつでもいいぜ。何なら全員でもな」


「クッ! てめぇ――― 」


 今にも飛び掛かりそうな兄貴を前に一人の舎弟が慌てて止める。


「いや! ダメだ兄貴! ダメだよ。あの人はダメだ! 手出したらダメっス」


「何でだ? てめぇブルってんのか? おい」


「違います、あの人は天城さんっス、伯父貴おじきの麻雀仲間の人っスよ」


 すると鈍い音と共に、暗闇の中に舎弟の一人がドゴンと打ち上り、力無くその身を固いコンクリートに横たえた―――


なっ―――⁉


「あ、悪ぃ…… 懐に手ぇ突っ込んだからつい…… 勘違いさせる動きすんじゃねーよ。まぁいいや、道具持ってんなら先だせや、勘違いしちまう」


「こっ、こいつ…… 」

―――今見えなかったぞ……


 クロノスの社長がやれやれと呟く……


「三大流派の一派、那覇手ナーファディー。またの名を剛柔流ごうじゅうりゅう空手。此処にいる全員が束になって掛かっても勝ち目は無いでしょうね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る