第25話 懲りない面々

「大丈夫かい? あのお兄さん…… 」


 部長が目を白黒させて聞いて来る。ふんわりと楓と私の関係も把握している唯一の存在だ。余りにも心配になり付け回しで助け船を出してくれたようだ、仕事が出来る男は頼りになる。


しかしあの氏家直樹うじいえなおきが君のお兄さんだなんてね、びっくりだよ」


「私もびっくりですよ、兄とはちょっと疎遠になっていて、いきなり芸能界に入るなんて思ってもみなかったので」


「でも、兄妹として見ていても、ちょっと距離が近い様な気がするね。大丈夫? 」


「大丈夫じゃないですよ、部長さんには姉さんのフォローをお願いしたいです。さっき凄く怒ってたみたいだし…… 」


「あぁ出来る限り努力してみるよ」


「それと懲らしめたいので、兄のテーブルに2万のフルーツ盛りと、ボトルでヘネシーのXOと、炭酸と丸氷とロクタンロックタンブラーも、それとオーパスは在庫あります? 」


「オーパスは在庫無いな、他店に聞いてみるよ。シャトー・デュケムなら何とかあるかもしれない」


「特別1級の白ですか…… 」


―――甘いし女の子には丁度いいか……


 他店に聞くとは分かり易く言えば近所のキャバクラ、若しくはBar等に在庫があるかどうか確認すると言う意味である。ヴィンテージ級の酒は入手困難となり、酒屋でも取り扱いが難しい。その為近隣の飲食店は常日頃から交流し合い助け合い、貸し借りを経て共存している。


 業界用語では『借りる』と言う―――


 酒を持っている所から借りて来て、相手が希望する値で買い取る事を言う。キャバクラで良心的な店では通常「5かけ」がボトルの値段となる。原価の5倍と言う事だ。仕入れ単価が10万を超えると×3~5となり時価により変動する。


「デュケムの上代じょうだいは? 」


「20万だね」


「ロマネあります? 」


「あるけど300越えちゃうよ? 彼、いちかちゃんのお兄さんなんだよね? 潰しにかかってるとしか思えないんだけど…… 」


「一回、痛い目に遭わせたいんです。もう二度と来ないように、でも流石に300は可哀想か…… 」


「うん…… やりすぎな気がするけど」


「じゃあロマネは見送りで、その代わり出前の特上握り5人前とヘルプ3人飲み要員お願いします」

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