独り言掲示板

初日

「助けて下さい」

と打ち込んだ。

こんなことを言って本当に僕をこの場から救い出してくれる人がいるわけないのに。

自分が責められているわけではないのに。

父親が理不尽に怒っているのが伝染して母が怒り出して。

母は面倒な性格だ。

怒り出したらすごい引きずるし、下手すると1年経っても掘り起こしてきたりするタイプ。そのくせ突然自分のことを突然卑下したり、自分は冷酷な人間だ。意地悪だ。とか突然意味のわからないことを言ったりする。

父は話を聞かない。

じぶんがテレビを見ていたりスマホをいじっていたり生半可な返事をしたくせに後でなんで言わないんだ、俺はこう言ったじゃないかとキレだす。

前に母の話を聞かなかった癖に、そんなこと聞いてないと怒る父。それを聞いていらつく母。悪循環が始まる。

大体いつも父から始まるから、話がモヤついてきたら「あー今日のご飯のこれ美味しいよママ!」とか言ってなんとか話に切れ込みを入れようとする。

場を淀ませないように無理矢理話に割り込む自分に嫌気がさす。

自分は何も悪くないのに。

いつからこうなったのかわからない。

父が部屋からいなくなると母は文句を自分に言う。

「ママの話聞いてない癖に当たってくるの超やめて欲しいんですけど!いらいらさせんなよってカンジ」

夕食後、父が自室に籠ったあと、僕は自分のスマホをいじりながら、母の愚痴を半笑いで聞く。

「ほんとにお父さん意味わかんないね。」

気づいたら人工の笑顔が得意になっていた。

気づいたら相手の求めている相槌が打てるようになっていた。

よその家の話を聞くと羨ましくなる。

家族全員でWBCの試合を朝から見たよ。

お母さんと一緒にお化粧をしたよ。

お父さんと一緒に一日中ゲームをしたよ。

もしかしたらうちみたいに裏ではあんまり仲良くないのかな。

母は成績なんていいから趣味を追いかける人って素晴らしいって言った。

その次の日、僕の成績表を見て絵ばっかり描いているからこうなるんだ。自業自得だと言った。その成績は385人中67位だった。

父はまた絵を描いているのか、すごいなと笑いながら褒めた。

その3日後、父は絵ばっかり描いていると社交性がなくなる、だから友達が少ないんだ、こんな趣味を持つなと言った。

絵は僕の唯一の趣味で、得意なこと。

運動は苦手だし、体は硬いし、コミュニケーションを取るのは苦手だし、自分から話を切り出すなんてもってのほか。

だけど、絵だけは。

自分の思いのままに没頭できる唯一の趣味で。

唯一僕の中で抜きん出てるもので。

才能とはいいたくないし、この世に絵を描くのが上手い人なんて数えきれないほどいるのだから、自慢できるようなことじゃない。

けど、初めて周りから賞賛の声を浴びたのは絵だったから。

悔しかった。

惨めだった。

初めて親を憎いと思った。

昔読んだ本で、古代エジプトの神を信仰している人が自分の信仰を侮辱されて、静かに怒っていた。

脳内でつうっと何かの液体が流れた気がした。

怒りの成分を含む液体が冷たいということを知った。

誰かに言いたかった。

僕のこと全く知らない、顔も名前も性格も声も知らない誰かに、ただ静かにじっと聞いて欲しかった。

僕の家はおかしいのかな。

みんなこうなのかな。

趣味を侮辱されたり、自分とは無関係な争いに巻き込まれたり、本当に嫌な過去を無理矢理掘り起こされたり、さ。



「助けて下さい」



『何かお力添えできますでしょうか?具体的に何か問題やお悩みがあれば、共有いただければできる限りサポートいたします。』


はなし、きいてよ。



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