第22話

「──ご馳走様でした」と、大輔は空になったマグカップを床に置く。


「はい。じゃあ……約束通り、今日なにがあったのか話します」


 絵美は大輔の方に顔を向けず、真っすぐに見据えたまま、そう言った。


「大輔君と別れた後、私は雄介君に告白されました……でも私はそれを断りました。そうしたら……そうしたら行き成り、肩を掴まれ襲われそうになったんです」


 絵美はその状況を思い返して怖くなったようで、体を微かに震わせた。大輔は眉を吊り上げ明らかに怒りを露わにする。


「そんな酷い──」と、大輔は言い掛けたが、我に返り怖くなったのか、表情を戻し「ことはしないんじゃないかな? 何かの間違えじゃ……」


 今度は絵美がムッとした表情を浮かべ怒りを露わにする。持っていたマグカップを床に置くと「大輔君ってさ……」と、声を低くしていった。


「なに?」

「どうして私と雄介君をくっ付けようとするんですか!?」

「え……そんなことしてないよ」


 絵美はサッと大輔の方に顔を向け「嘘ッ! 私をお祭りに誘ったのは雄介君に頼まれたからでしょ!? 交代の時だって、雄介君を気にして、あの人を優先にしてた。今だって……今だって本当はそんな酷いことをしたのか! って、怒ってくれようとしてくれてたんじゃないの!?」


 大輔は本当のことを言われ、返す言葉が無いのか、黙って俯く。それを見た絵美は眉を顰めて心配そうに「──あいつに弱みでも握られてるの?」と尋ねる。


「うぅん、そんなんじゃないよ」と、大輔が直ぐに答えると、絵美はホッとした表情で「そう……それなら良かったです」


 絵美はスッと立ち上がり、大輔の方に体を向ける。そして大輔にグッと体を近づけた。大輔は絵美に触れてはいけないと、一生懸命に体を逸らしたが、堪え切れなくて押し倒されるかの様に、ベッドに背中をつけた。


 絵美は逃がさないと言わんばかりに、大輔の太ももを跨いで上に来ると、両方の手首を掴む。


「ど、どうしたの急に?」

「大輔君……何で私が哲也君や雄介君を振ったのか教えてあげますね。私……あなたに助けられる前からずっと、あなたの事が好きだったんです」


 突然の絵美の告白に、大輔は目を丸くして驚く。


「助けられる前からずっと……? ずっとって?」

「中学の時からです」

「え……違うクラスだったよね? 正直、関りもそんなに……」

「えぇ……そんなに所か、まったくありませんでした。だけど、何か行事があって一緒になる時とか、気になって遠くから大輔君の事を見ていました」


「はは……」と大輔は苦笑いを浮かべると「じゃあ、俺が助けた時に言っていた仲良くなりたい人っていうのは──」


「はい。あなたの事ですよ」


 絵美は照れ臭そうに頬を赤く染めながら、ハッキリとそう答える。


「そうだったんだ……」

「大輔君。私は正直に話しましたよ。だから……あなたも、その答えが何であろうと偽らないで教えてください」


 絵美は真剣な眼差しで大輔を見つめる。大輔は後ろめたさからか、視線を下にズラした。そのまま複雑な表情を浮かべ、大輔は黙り込む──。


 しばらくして絵美は同じ姿勢をして疲れてきたのか、プルプルと震え始める。大輔はそれに気付いた様で、眉を顰めた。ソッと目を閉じると、数秒で目を開ける。意を決したのか、大輔は真剣な眼差しで絵美を見つめた。


「分かった……話す。俺は雄介に弱みを握られてない。だけど、理由は話せないが雄介と君が結ばれないと困る理由があったんだ。でも……さっきの話を聞いて、暴力的で身勝手な雄介に渡したくない。いや、渡してたまるかと思った」


 大輔は穏やかな表情で絵美の顔に向かって手を伸ばし、優しく絵美の頬を撫でる。


「俺は君と他の男性が楽しそうにしている所を見ていたらモヤモヤしていた。きっと俺……大輔は君の事が好きなんだと思う。だから……この先がどうなろうとも俺は絵美と結ばれたい」


 絵美は大輔の強い意志を感じ取った様で、本当に嬉しそうに笑顔を浮かべる。


「嬉しい……」


 体力の限界だったのか、それとも全てを委ねたのか、絵美はスッと体を下ろし、大輔の体に自分の体を密着させた。


「重たい?」

「うぅん、大丈夫だよ」


 大輔はそう返事をして、絵美の背中に手を回す──絵美と大輔は、幸せを感じ合うかのように少しの間、そのままでいた。


「──ねぇ、大輔君」

「ん?」

「──しよ」

「──うん……」


 それだけの会話でお互い何をしようというのか分かったようで、大輔は上に乗っていた絵美を横に下ろす。二人は目を閉じると、キスを始めた──。


「んッ……痛い」


 大輔が絵美の体を触っていると、絵美はちょっと痛そうに顔を歪める。


「あ、ごめん」

「うぅん、大丈夫だよ」


 絵美はそう言って、大輔の髪を優しく撫でた──お互いが初めての様で度々、ぎこちない仕草を見せるが、でも確実に体を絡めていく。


 二人はこの日、心身ともに結ばれ、大人への道を一歩進んだ──。


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