第21話

「じゃあ次は私の部屋に行きましょう」


 絵美はそう言って大輔の先を歩き出す。大輔は「うん……」と返事をして後に続いた。


 ダイニングを出て、廊下を歩き、二階に続く階段を上る。一番奥にある部屋の前に来ると二人は止まった。


「ここが私の部屋です」と、絵美は言って、ドアを開ける。先に中に入ると、「狭いですが、どうぞ中に入ってください」


「お邪魔しまーす」


 大輔は恐る恐る中へと入っていく。絵美の部屋は本当に狭く、部屋の半分以上はベッドが占めていた。学習机や椅子はなく、縫い包み等の雑貨もない。必要最低限のものしか置かれていない部屋だった。


「座布団も無いから、ごめんなさい。ベッドに座ってください」

「ベッドに? 良いの?」

「はい」

「分かった」


 大輔が遠慮しながらもベッドに座ると、絵美は部屋の入り口に向かって歩き出す。


「じゃあ私もシャワーを浴びてくるので、待ってて下さい」

「う、うん……」


 大輔が迷っている様に返事をするので、絵美は不安になったのか「ちゃんと待っていてくださいね」と念を押す。更に「もし急用で帰ることになるようでしたら、ちゃんとお風呂場に来て、声を掛けて下さいね。カギは掛けないでおきますから」


「分かったよ」


 大輔が返事をすると絵美はニッコリと微笑む。小さく手を振りながら「では、行ってきます」と言って、部屋を出て行った。残された大輔は直ぐに下を向く。


「──参ったな……女の子の部屋をジロジロ見る訳にもいかないし、いつ絵美さんの親が帰ってくるか分からないからドキドキする……」


 大輔はそう呟くと、帰ろうか迷っているのか沈黙を挟む──だが、直ぐに口を開き「かといって、様子がおかしい絵美さんを放っておけないし──まったく……あいつは一体、何をやらかしたんだ?」と愚痴を漏らした。


 ──しばらくして、ピンクのパジャマを着た絵美が部屋の中に入ってくる。大輔は一瞬、絵美の方に顔を向けたが、見ちゃいけないものを見てしまったかのように、直ぐに視線を下にズラした。


「どうです? パジャマ姿を男の子に見せるなんて初めてで、何だか照れちゃいますけど、可愛いでしょ?」

「そ、そうだね」


 絵美はそう言って持っていたマグカップを二つ、フローリングの上に置く。


「ホットミルクを作って来たんですけど……大丈夫でした?」

「ありがとう。大丈夫だよ」

「良かったぁ。じゃあ召し上がってください」

「頂きます」


 大輔は自分に近いマグカップを手に取り、口にする。絵美は残ったマグカップを手に取ると、大輔の横に座った。


「絵美さん、あのさ……」

「ん? 何ですか?」

「これを飲み終わったら帰るね。その……男女が二人っきりでこんな時間までいるなんて、えっと……色々とマズいと思うからさ」


 絵美は返事をせずに、ホットミルクを一口、口にする。ゴクッと飲み込むと「もう少し……もう少しだけ待って貰って良いですか? これを飲み終わったら今日、何があったのか話します」


「──分かった。それを聞いてからにする」


 大輔はそう返事をして、聞く準備を始めるかのように、ホットミルクを飲み始めた。

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