第18話
──大輔の頭痛は本当に一瞬だった様で、大輔は何事も無かったかのようにタコ焼きを1パック買っていた。
香織はしばらく大輔の様子を見ていたが、そんな大輔の姿をみて大丈夫だと思ったようで、何も言わずに大輔と一緒に静かな土手の方へと移動していた。
「あー、落ち着くなぁ。私、人混みって好きじゃないんだよね」
「俺も」
「あ、タコ焼き私が持つよ」
「そう?」
大輔は香織にタコ焼きが入ったパックを渡す。香織は受け取るとパックの蓋を開け、楊枝を2本、タコ焼きに突き刺した。
「どうぞ」
「ありがとう」
大輔は楊枝を持って、タコ焼きを口に運ぶ──。
「あふ……あふ……美味しいけど、あふい」
「ふふふ、じゃあ私はもう少し冷ましてから食べようかな」
大輔はゴクリッとタコ焼きを飲み込むと「そうした方が良いと思う」
──そこで会話が途切れ、二人は光り輝く夜空を見上げる。最初に口を開いたのは、大輔の方だった。
「あのさ」
「ん?」
「告白の返事……今していいかな?」
大輔はそう言って、香織の方に顔を向ける。香織は夜空を見上げるのをやめ、大輔の方に顔を向け、見つめた。
「うん……その前に──」と、香織は言って、白いショルダーバッグからティッシュを取り出し、大輔に差し出す。そして唇を指さすと「ここ、拭いて」
「あ、ごめん。もしかして付いてた?」
「うん」
大輔は照れ臭そうに香織からティッシュを受け取ると、自分の唇を拭く。残ったティッシュを香織に返して「ありがとう」
「うん。これで雰囲気が出た。続きをどうぞ」
「分かった。香織さんとカラオケに行ったあの日。香織さんからとても真剣な想いを感じ取れた。だから今日は、正直に気持ちを伝えたいと思う」
大輔は正面を向き、気持ちを落ち着かせるかの様にスゥー……と鼻で深呼吸をする。
「俺……いま、複雑な状況にいてさ、愛し愛されてはいけない人が居るんだ。だから正直、君と付き合って、その人を遠ざけようと思った事もあった。だけど──」
大輔はそう言い掛けて、ギュッと自分の両手を握る。
「冷静になって色々考えて……それは真剣な君の気持ちを踏み躙る事になるから、やっぱり出来ないと思った。だから、俺は君とは付き合えない。ごめん……」
香織は最後まで大輔の顔を見つめ、真剣に聞いていたが、さすがに堪え切れなくなったのか、ここで視線を逸らして、俯き加減で正面を向く。
「──相変わらず真面目だな……私はそれでも構わなかったのに……」
香織がそう呟いたが──大輔は聞こえているはずなのに、複雑な表情を浮かべたまま沈黙を貫く。
香織は気まずくなったのか、タコ焼きに刺さった楊枝を摘まむと、口に運んだ。
「今度は、ぬるくなっちゃった。大輔君も食べなよ」と、香織は言って大輔にパックを差し出す。大輔は楊枝を摘まみながら「うん」と返事をして、タコ焼きを食べ始めた。
──二人は無言でタコ焼きを食べ進め、パックの中を空にする。香織はパックの蓋をすると、輪ゴムで封をした。
「大輔、ありがとう」
「なにが?」
「ちゃんと返事をしてくれて」
「あぁ……」
「これで、ちゃんと前に進める」
香織はそう言って、スッと立ち上がる。
「大輔、ごめん。我儘言うけど、私これで帰るね
「え? 雄介君と交代は?」
「私、雄介君に興味ないから」
「じゃあ何であんな提案をしたんだ?」
「──見ていられなかったから……かな?」
香織はそれ以上、何も聞かれたくなかったのか、大輔に背中を向ける。ゆっくりと歩き始めた──が、言いたい事が残っていた様で急に足を止めた。
「大輔のいう、愛し愛されてはいけないって人が誰だか分からないけど……お互いの為にも、気持ちはちゃんと伝えてあげなよ」
香織はそれだけ言って、また歩き出す。大輔は香織を見送りながら、「──うん」と、自信が無さそうに小さく頷いていた。
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