第17話

 月日が流れ、夏祭りの当日を迎える。4人は屋台が並ぶ少し手前側で集まっていた。香織は白いTシャツを着ていて、デニムのショートパンツを履いている。残りの3人も白いTシャツにデニムのズボンとラフな恰好をしていた。


「じゃあ全員集まったから、まずは自己紹介しようか。初めての人もいるし」と、大輔は最初に口を開き、仕切り始める。


「そうだね。私は二年E組の桜井 香織です。大輔君とは中学の時に一緒の部活で知り合いました」

「じゃあ次は俺。俺は二年B組の大島 雄介です。大輔君とは中学の時に同じクラスで、絵美ちゃんとは今、同じクラスです」

「次は私ですね。私は二年B組の市村 絵美です。雄介君と同じクラスで、大輔君とは隣のクラスですけど、ちょっとしたキッカケで知り合いました」


 3人が順番に自己紹介をして、最後になった大輔は何故かニコッと微笑む。


「皆から名前が出てたし、俺の自己紹介はいらないよね?」

「ふふ、そうね」


 香織がそう言って微笑み、皆も笑う。


「じゃあ、端から順番に見て行こうか。」

「そうだな。じゃあ絵美ちゃん、行こうか?」

「──はい」


 絵美と雄介が先に歩き出し、香織と大輔が後に続く──四人はゆっくりと屋台を見て回り、興味がある屋台の前で足を止めては、楽しんでいる様に見えた。


「あ! 雄介君、ヨーヨー釣りやって良いですか?」と、香織は言って、屋台の前で立ち止まる。雄介も立ち止まると「うん、良いよ」と返事をして列に並んだ。


 ──二人で楽しそうにヨーヨー釣りを始める所を、大輔はジッと見守る。


「あ、釣れた! 釣れた! 大輔君、見て見て!」


絵美がはしゃぐ、ちょっと前、大輔は香織に腕を引っ張られ「ねぇねぇ、大輔。チョコバナナ食べようよ」と、誘われていた。


大輔は絵美の声に気付かなかったようで、「うん、良いよ」と返事をしながら、チョコバナナを売っている屋台の方へと歩き出す。


絵美は気づいてくれなかった事が悲しかったようで、眉を顰めながら大輔の背中を見つめていた。


「絵美ちゃん、釣れたんだ。凄いね」と、雄介が声を掛けると、絵美は雄介の方に顔を向け「うん、ありがとう」


「あれ? 二人はどこ?」

「チョコバナナを買いに行ったみたいだよ」

「そうなんだ。じゃあ二人が戻るまで、楽しもうか」

「うん……」


 ──少しして、大輔と香織は雄介たちと合流する。大輔が「お待たせ」と、言うと、絵美が「はい」と返事をする。


「じゃあ行こうか」と、雄介が言って歩き出すと、三人も合わせて歩き出した。



 ──少しして、香織は隣を歩いている大輔に「ねぇ、大輔。このままで良いの?」と、話しかけ、チョコバナナを一口、口にする。


「良いのって何が?」

「このままのダブルデートで良いのかって事。せっかくだから、二人っきりの時間を作ったり、お互いのペアを替えたり、そういうのは考えてないの?」

「あぁ……考えてないな」

「そう……じゃあ提案してよ。私はそういう刺激が欲しい」

「えー……」


 ──大輔は困ったように眉を顰めたが、考え始めた様で腕を組みながら黙り込む。


「そうだな。ちょっとだけ、提案してみるか」

「うんうん」


 香織がテンション高めに頷くと、大輔は前を歩く二人に向かって「雄介君、絵美さん」と声を掛けた。二人は立ち止まり、大輔の方に体を向ける。


「ちょっと提案があるんだけど、これから30分ぐらい二人っきりの時間を作らない?」


 大輔がそう提案すると、香織は大輔の腕を肘で突く。


「ん? 香織さん、なに?」

「もう一つの方も」

「え、もう一つの方も?」

「もちろん。ダメならダメで良いからさ」

「分かったよ……えっと、ペア交換の方も試しにしてみませんか?」


 雄介と絵美はお互いの反応をみるように、顔を見合わせる。


「──どうする?」

「私は構わないですけど……」


 雄介と絵美が返事をすると、「じゃあ、決まりですね」と香織が前に出る。


「それなら先にペア交換の方をやります?」と、絵美が提案すると、大輔はチラッと雄介の方を見る。


雄介が何か言いたげに自分を見ている事に気付いたのか、大輔は「いや……最初はこのままで良いんじゃないかな?」


「そう……」

「待ち合わせ場所は……最初と同じで良い?」


 大輔がそう確認すると、皆はコクリと頷く。


「じゃあ決まりだね。30分後、屋台の入り口に集合ということで」

「了解」


 雄介は返事をすると、絵美と一緒に奥の方へと歩いていく。大輔は二人の背中を見ながら「うちらはどうする? どこか行きたい所ある?」と、香織に聞いていた。


「ちょっと休みたいなぁ。そこでタコ焼きを買って、人気の少ない土手に移動しようよ」

「分かった」


 ──大輔は返事をして動き出すと、いつもの頭痛がきたのか、急に頭を押さえる。香織はそれに気づいた様で「え、大輔? 大丈夫?」と、心配そうに眉を顰めた。


「あぁ、大丈夫だよ」

「無理はしないで。具合が悪いなら私、二人に話してくるから」

「ありがとう、大丈夫だよ。それよりタコ焼き買いに行こうよ」

「う、うん……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る