第16話
「大輔君、ちょっと良いかな?」
雄介は教室から出て来た大輔に声を掛ける。大輔は雄介から行き成り話しかけてきた事にビックリしたようで、目を見開いて驚いていた。
「あ、あぁ……大丈夫」
「久しぶり」
「久しぶりです」
何だか二人はギクシャクした雰囲気で、会話を続ける。
「えっと……今まで話しかけて来なかったのに、虫が良すぎるとは思うんだけどさ。ちょっと大輔君に頼みがあるんだけど……」
「頼み? 何です?」
「実は今度の夏祭りに誘いたい女子がいてさ、その子が二人だけじゃ嫌みたいで、ダブルデートって形でも構わないから、一緒に付いてきて欲しいんだ」
大輔は突然の誘いに、どうして良いのか困っている様子で眉を顰める──まずはその子が誰なのか確かめたかったのか「その子って、雄介君と同じクラスの絵美さんのこと?」と聞いていた。
「あぁ、良く分かったね」
「何度か、見かけた事があって」
「そうなんだ」
「──分かりました。じゃあ友達に声を掛けてみます」
「よろしく」
雄介はそう言って、大輔に背を向け歩き出す──大輔はズボンから携帯を取り出すと、メールを打ちこみ、誰かに送っていた。
※※※
昼休みに入り、昼ご飯を食べ終わった大輔は、体育館の裏に来ていた。いまは壁に背中をつけ、一人で座っている。
「あいつ……夏祭りの時に、告白するつもりなのかな? だったら俺も、ハッキリさせないとな」
大輔がそう呟くと、大輔を見つけた香織は近づきながら「大輔~、お待たせ」
大輔はハッとした表情を浮かべ、香織の方に顔を向ける。
「香織さん……今の聞こえた?」
「聞こえたって?」
「あ、いや。聞こえてなかったなら良いや」
「なに? 気になるなぁ……」と、香織は言いながら、大輔の横に座った。
香織は大輔の顔をジッと見つめ様子を見ていたが──俯き始めた大輔を見て何も話さないと察したようで正面を向く。
「まぁ良いわ。で、こんな人気のない所に私を呼び出して何の用事?」と、香織は聞くと、また大輔の方をみて「あ! もしかして、告白の返事を聞かせてくれるとか!?」とテンション高めに聞き始めた。
「いや……そうじゃないんだ。今度の夏祭りなんだけど、一緒に行かないか?」
香織は一瞬、驚いた表情を見せたが、直ぐにニヤけた顔をして「大輔から誘ってくれるなんて珍しいじゃない。どうしたの?」と、からかう様に言った。
「えっと……正直に言うと友達から夏祭りの時にダブルデートしないかって誘われてさ、その……俺って女友達って少ないから、香織さんぐらいにしか頼めなくて……」
「なぁんだ。そういう事」
「ごめん」
「うぅん、大丈夫。良いよ、付き合うよ」
「ありがとう!」
香織はスッと立ち上がり、大輔に背中を向ける。そのまま歩き始めると思いきや「──告白の返事じゃなくて残念だったけど、誘って貰えて嬉しかった……楽しみにしてるね」と、言い残してから、その場を後にした。
──その日の放課後。
「雄介君」
大輔は二年B組から出てくる雄介を呼び止める。雄介は足を止めると「ダブルデートの件?」
「はい。俺の方は相手が見つかったんで」
「分かった。じゃあさ、絵美さんもついでに誘っておいてよ」
「はい?」
「一回、断られてるから誘いづらくてさ」
「──分かりました」
「頼むよ」
雄介は軽くそう言って、廊下を歩いていく──。
大輔は雄介が見えなくなってから歩き出し、人が居ない廊下で「頼むよ。じゃねぇだろ! あいつはいつもそうだ。嫌な事は人任せにして……自分の事なんだから自分でやりやがれ!」と愚痴を零した。
──それでも大輔は行動しなくてはならないと思っている様で、図書室の前に来ると、ズボンから携帯を取り出し、誰かに電話を始める。
「あ、哲也。いま大丈夫?」
「おう、大丈夫。まだ部室に来てないみたいだけど、まだ校内にいるの?」
「そう、用事が出来ちゃって。やりたい事を済ませてから部活に行くから遅れるって先輩に伝えておいてくれる?」
「分かった。伝えておく」
「悪いね」
大輔は哲也にそう伝えると電話を切る。歩きながらズボンに携帯をしまうと、図書室の中に入っていった。
大輔は座って本を読んでいる絵美を見つけると、黙って近づき横に座る。絵美は誰が横に座ったのか気になった様で、チラッと視線を大輔に向けた。
「よ。なにを読んでるの?」と、大輔が小声で絵美に話しかけると、絵美は「恋愛小説。今日はどうしたの?」と小声で返事をする。
「ちょっと絵美さんと話がしたくて、いま良いかな?」
「うん、大丈夫」
絵美は返事をすると、本をテーブルに置き、スッと立ち上がる。大輔も立ち上がると、絵美と一緒に出口に向かって歩き始めた。
──二人は廊下に出ると、邪魔にならない様に廊下の端に寄る。
「話ってなぁに?」
「あのさ、ちょっと先の話になるんだけど今度の夏祭り……誰かと一緒に行く予定とかってある?」
「──うぅん、特にないですよ」
「良かった。ダブルデートって形にはなるんだけど一緒に行かない?」
「ダブルデート……それって私と大輔君がペアって事です?」
「いや……俺はもう決まってる」
絵美はそれを聞いて眉を顰め、表情を曇らせる。
「決まってる? 誰なの?」
「中学の時に、同じ部活だった友達」
「そう……私の相手は誰になるの?」
「絵美さんと同じクラスの大島 雄介君。知ってるでしょ?」
「うん……知ってる」
「どうかな? 俺も付いて行くし、気まずくならない様にサポートするからさ」
絵美は迷っている様で俯き加減で床を見つめ、黙り込む──少しして顔を上げると「そこまで言ってくれるなら……行こうかな」
不安そうに絵美を見つめていた大輔は、それを聞いて安心したようで笑顔を見せる。
「良かった……じゃあ雄介君には伝えておく。詳細が決まったら、また連絡するね」
「うん、楽しみにしてるね」
絵美は笑顔でそう返事をして、大輔に背を向け図書室の方へと戻っていく。その頃にはもう笑顔は薄れ、不満そうな表情へと変わっていた。
一方、大輔は絵美を見送ると、図書室の前でまた顔を歪ませながら頭を押さえていた。
「──あー……痛かった……こんなにも似たような頭痛が何回も起きるなんて、何か俺に警告をしているのか?」
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