第15話

 次の日の朝。大輔は昨日の事を考えている様で、浮かない表情を浮かべながら、通学路を歩いている。


 そこへ大輔を見つけた哲也が、後ろから駆け寄り「──おはよう」と声を掛ける。大輔は突然、挨拶されてビックリしたのか、それとも哲也が挨拶してくれたことにビックリしたのか、目を見開いて「──お、おはよう」と、動揺している姿をみせた。


「どうした?」

「どうしたって?」

「いや……ビックリしている様に見えたから」

「あぁ……突然だったから」

「あぁ、そういう事な。悪い悪い」


 哲也は謝ると、何事も無かったかの様に、楽しそうに世間話を始める。大輔はその姿に安心したようで、笑顔で話を聞いていた。


 ──その日の夜。大輔は夕飯を食べ終わると自室に向かう──椅子に座ると、「ちょっと整理するかぁ」と、卓上本棚から大学ノートを取り出し、机に広げた。


「まず哲也は絵美から俺と出かけた事を聞いて、絵美が俺の事を好きだと勘違いして嫉妬していた。だけど今朝の様子からして、それはもう無くなったみたいだ」


 大輔はそう呟くと腕を組み──考え事を始めた様で、その姿勢のまま固まる。


「んー……でも、絵美がどう断ったのかによっては安心できないんだよな。もし嫉妬の対象が雄介に変わっただけなら、俺は嫌でも雄介の方に付くしかない……」


 大輔はシャーペンを手に取ると、哲也は絵美のことが気になっている? を二重線で消し、今後の哲也の行動に注意と、その下に書いた。


「とりあえず今はこれしか出来ないだろ」


 大輔はそう呟くと、ノートをパタンっと閉じて、本棚に戻した。


 ※※※


 それから数ヶ月が経ち、夏が近づく。その間、哲也と大輔の間にいざこざはなく、二人は仲良く友達のままでいた。変わったとすれば──。


「ねぇ、絵美ちゃん。図書室に新しく入った恋愛小説、読んだ?」

「うぅん。まだですよ」


 急に雄介が積極的に絵美に近づく様になったという所だろうか。


 雄介は図書室に向かって歩く絵美の隣を歩きながら「じゃあ、俺が読み終わったら教えてあげるよ。いま、俺が借りてるんだ」


「あ、そうなんですね。じゃあ、お願いします」

「うん、分かった」


 仲良さそうにやりとりする雄介と絵美の姿を、大輔はちょくちょくと見掛けていた。今も後ろから見ていたが、邪魔してはいけないと思っている様で、そそくさと来た道を戻っていった。


 ──大輔はしばらく廊下を歩いていると、急に立ち止まる。


 どこか寂しげな表情で窓を見つめると、「色々と心配してたけど……もうすぐ俺の役割も終わりそうな雰囲気だな」と、意味深に呟いていた。


 ※※※


 数日後。休み時間に入り、廊下を歩いている絵美に向かって、雄介は後ろから駆け寄る。


「絵美ちゃん、ちょっと待って」


 声に気付いた絵美は立ち止まり、雄介の方に体を向けると「雄介君、どうしたの?」と首を傾げた。


「あのさ……今度の夏祭り、一緒に行かないか?」

「え……二人だけで?」

「そう」

「えっと……ごめんなさい」

「どうして? 誰か他に誘うつもりだった?」

「そのつもりは無いですけど……二人だけはまだ早いんじゃないかな?」

「そう……分かった」


 絵美は両手を合わせ「ごめんね」と言って、そそくさと雄介に背を向け歩き出す。雄介は余程、自信があったのか、断られたのが不思議な様で、首を傾げていた。

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