第14話

 恋愛というのは、別にイベントなんて無くても突然、進展することは良くある。それは香織のことで体験していたはずなのに、大輔は動揺のせいで頭が回らなかったのか、判断を誤った。


 そんな大輔は、絵美が告白されていたなんて、露知つゆしらず、自分の部屋でテレビゲームを楽しんでいた──。


 そこへ床に転がっていた大輔の携帯電話に着信がやってくる。


「ん? 誰だ? こんな時間に……」


 大輔はゲームのコントローラーを床に置くと、携帯を手に取る。着信画面をみると「──絵美からかぁ……」と呟いた。


 大輔は出ようか迷っているのか、画面を見つめたまま出ようとしない──すると電話はすぐに切れてしまった。


「──なんの用事だったんだろ……まぁ直ぐに切れたし、大した用事じゃなかったんだろ」


 大輔がそう呟き、携帯を床に置こうとした時、また電話が掛かってくる。大輔はまた着信画面を確認して、ジッと見つめた。相手はもちろん絵美からだったが、大輔は出る気配を見せない。


「どうしよう……」


 大輔が迷っている間に、また電話は切れる──だが、直ぐに絵美から三度目の電話が掛かってきた。さすがに様子がおかしいと思ったのか、大輔は直ぐに通話ボタンを押した。


「──はい」

「あ、大輔君。しつこく電話しちゃって、ごめんなさい」

「いや、大丈夫だけど……どうしたの?」

「えっと……学校がある駅の近くに公園があるでしょ? あの……いまから来られないですか?」

「え? 今から? 終電に乗り遅れたらヤバいし明日にしない?」


 大輔がそう言うと、絵美は考えているのか黙り込む──。


「実はね……大輔君と顔を見ながら話がしたくて、もう公園に居るんです」

「え……もういるの?」

「はい」


 大輔は困ったような表情を浮かべながら、黙り込む──だけど、少し経つと「分かった。10分ぐらい掛かるけど待てる?」と、優しく返事をしていた。


「はい!」

「じゃあ、すぐ行く」

「うん、待ってます」

 

 大輔は「まったく……困った奴だな」と言いながらも、笑みを零して電話を切っていた。


 ※※※


 大輔が公園に着くと、絵美は缶ジュースを片手に持って、街灯に照らされたベンチに座っていた。


 絵美は正面から歩いてくる大輔に気付いた様で、苦笑いを浮かべると「──いきなり呼び出して、ごめんね」


「いや、大丈夫だよ」と、大輔は返事をして、絵美の隣に座る。そして「それより、そのカーディガンはあの時の──」と、絵美が着ているカーディガンを見つめた。


「うん、一緒に見に行った時に買ったやつです。季節が変われば、なかなか着られなくなるだろうし、大輔君に見せるには、このタイミングかな? って思いまして」

「似合ってるよ」

「ありがとうございます」

「それで話って何?」


 絵美は言い出しにくい事でもあるのか、大輔から視線を逸らすように正面を向き、缶ジュースを両手で包むとギュッと握った。大輔はそれを察したのか、黙って見守る。


「あの……怒らないでくださいね?」

「あ、うん。分かった」

「大輔君と哲也君は友達なんですよね?」


 絵美の質問に大輔は嫌な予感がしたのか、眉を顰めて不安そうな表情を浮かべる。


「そうだけど、それがどうかした?」

「前に哲也君と一緒に帰った時、友達なら話しても大丈夫かと思って、大輔君と二人だけで出かけた事を話してしまったんです……大丈夫でしたか?」


 大輔は哲也とのやりとりを思い出したようで「だからか……」と、声を漏らす。それが聞こえたのか絵美は不安そうな表情を浮かべ、大輔の方に顔を向けると「え……何かあったんですか?」


「あ! いや……こっちの話。今のところ何にも無いよ」

「なら、良かったです」

「話がしたかったってこの事?」


 絵美は大輔から視線を逸らすように、正面を向くと、ゆっくり首を横に振る。


「うぅん、話したい事は今から……実はね──」と、絵美は言い掛け、沈黙を挟んでから俯くと、「私、告白されちゃった」と、照れくさそうに髪を撫でながら話した。


 大輔は突然の打ち明けに驚いている様で、絵美を見つめたまま口を開いて固まっている。


「──えっと……告白って、恋愛の?」

「そう」

「誰にされたの?」

「哲也君に」

「そ、そう……返事は? 返事はしたの?」

「うん、その場でしましたよ」


 大輔はその先を聞きたい様子で口を開いた──が、それ以上踏み出す勇気が無かったようで、視線を落として言葉を飲み込んだ。


 ──少しして先に絵美が口を開き「だから私の事を避けていたんですか?」


「いや……その……」と、大輔が返事に困っていると、絵美はニコッと笑顔をみせる。


「大丈夫ですよ。告白は断りましたから」


 大輔は顔を上げ絵美の方に顔を向けると「そ、そうなの?」


「はい。だから前みたいに接してください」

「う、うん……」


 ──二人は沈黙を挟み、お互い見つめ合っているのが恥ずかしくなったのか正面を向く。絵美は笑みを浮かべながら、落ち着かない様子で、ブラン……ブラン……と両足を前後に動かし始めた。


「ねぇ、大輔君──それを聞いて、安心した?」


 絵美の積極的な質問に大輔は──複雑な表情を浮かべて沈黙を貫く。時間を稼ごうとしているのか、ズボンから携帯を取り出した。


「──電車、大丈夫?」


 絵美はスカートから携帯を取り出すと、携帯の画面をみて「まだ大丈夫」と返事をする。大輔は携帯をズボンにしまうと「明日も学校だし、そろそろ帰ろうよ」


 絵美は名残惜しい様で眉を顰める。携帯をスカートにしまうと、スッと立ち上がった。


「分かりました。帰りましょう」

「うん」

「駅まで送るよ」

「本当? 嬉しいです」


 大輔が立ち上がり歩き出すと、絵美も合わせて隣を歩き出す──二人は楽しそうに会話をしながら駅へと向かった。


「じゃあ、また明日」

「はい、また明日」


 絵美はそう返事をして、大輔に手を振ると、改札口に向かって歩いて行った。大輔は笑顔で見送っていた──が、何か不安でもあるのかスゥー……と表情を曇らせていった。


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