第13話


 大輔は朝練が終わると、二年B組に向かう──教室を覗き込み、二人の様子を見ている様だった。


 雄介の方は相変わらず女子に囲まれて楽しそうに会話をしている。絵美の方は前とは少し違い、クラスメイトの女の子と楽しそうに会話を楽しんでいた。


 大輔はそれをみて顔を歪める。教室から離れると「くそ……二人とも動く気配がないな。一体どうやって結ばれたんだ?」と、苛立ちを隠せない様子で自分の教室へと戻っていった。


 ※※※


 放課後になり、大輔はユニフォームに着替えるとグラウンドに向かう──哲也に近づくと「なぁ哲也、聞きたい事があるんだけど」と話しかけた。


「ん? なに?」

「ちょっと変な事を聞くけど、前に哲也が仲良くなったって女の子って──二年B組の子?」


 大輔は昨日、本人に聞くか迷っている様子だったが、進展しない二人をみて心配になったのか、そう切り出す。


「そうだけど……いきなり、なんだよ?」

「いや……友達が、哲也と市村 絵美さんと仲良さそうに帰っているのを見掛けたって言うから」

「あぁ……そういう事。で?」

「で?」

「それで何?」

「あぁ……ただ友達の気になる人って、どんな人かな~って気になっただけ」

「ふーん……」


「じゃ」と、大輔が逃げるかのように離れようとした時、「なぁ、大輔」と、哲也が呼び止める。


「なに?」

「──そういや何でお前、前髪をバッサリ切ったの?」

「え?」

「前に目つきが悪いから絡まれるのが嫌で、前髪を伸ばしてるって言ってたじゃん」

「あぁ……今はお前が居るし、もうそろそろ平気かな? って思って」


 大輔がそう返事をすると、大輔達の先輩が「おーい。そろそろ部活、始めるぞ」と大声を出す。


 大輔は何故か先輩とは反対の方へ向かって歩き出す。


「おい、大輔。どこに行くんだ?」

「悪い、すね当て忘れた」

「ドジだな……先輩達には話しておくから、早く行ってこい」

「うん、ありがとう」

 

 大輔は返事をすると、部室に向かって駆けて行った──大輔は部室に入ると、息を切らしながらベンチにドカッと座る。


 ──息を整えると「ヤバ……本当に絵美だった……」と声を漏らした。両手で顔を覆うと「どうする」と、そのまま固まる。


「──落ち着け……落ち着くんだ大輔。しばらく恋愛に発展しそうなイベントは無いし、二人はまだ知り合ったばかりだ。まだ告白までいかないだろ。もう少し……もう少しだけ様子をみよう」


 ※※※


 それから数週間が経った放課後。大輔は一人で廊下を歩いていた。階段を下りたところで、絵美は前を歩く大輔に気づいた様で駆け寄る。


「大輔君」と絵美が呼び止めると、大輔は足を止め後ろを振り向く。


「あぁ、絵美さん。どうしたの?」

「今から部活?」

「いや、今日は休みだから帰ろうと思って」

「じゃあ一緒に帰らない?」


 絵美はニコッと笑顔を浮かべて大輔を誘う。でも大輔は顔を歪めた。


「あー……ごめん。今日は用事があるんだ」

「そうなんだ……じゃあ、また今度」

「うん」


 大輔は絵美を置いて、そそくさと歩き始める。絵美は寂しそうにそれを見送っていた。


 更に数週間が経ち、その間に絵美は大輔にお誘いの話を何度かしていた。だが大輔は、申し訳なさそうな表情を浮かべながらも、雄介や哲也に勘違いされるのを恐れているのか、何かと理由をつけて、それを受けることは無かった。


 そんなある日──。


「絵美さん、ちょっと待って」


 休み時間に入り、図書室に向かおうとして一人で歩いていた絵美を哲也は呼び止めた。絵美は後ろを振り向き、哲也は駆け寄って絵美の前に立つ。


「どうしたの? 哲也君」

「あのさ……今日の放課後って空いてる?」

「今日の放課後? 何も予定無いよ」

「じゃあさ──帰る準備が出来たら、一人で裏山の方に来てくれない?」

「別に良いけど……」

「良かった。じゃあ待ってるから」


 哲也は用件だけ伝えると、逃げる様に駆けて行った。絵美は何だろう……と言いたげな表情で、しばらくその場に立っていた。


※※※


大輔達が通う学校は校舎の裏に山がある。生徒や先生はそれを裏山と呼んでいて、部活のトレーニングに使用していた。


だけどそれ以外に使われることは滅多になく、場所によっては人がまったく来ない場所もあった。


哲也はいま、そこで絵美を待っていた──キョロキョロと辺りを見渡して歩いている絵美を見掛けると、哲也は大きく手を振りながら「おーい、こっちこっち」と、声を掛けた。


 絵美は哲也に気づいた様で、駆け寄る──。


「ここって本当に広くて気付かないね」

「そうだね」

「それで、話って何ですか?」


 哲也は絵美から視線を逸らすと「えっと……」と言葉を詰まらせる。少ししてから口を開くと「俺達って、委員会で話した時から仲良くなったじゃん」


「うん」

「あの時からさ──ずっと君の事が気になってたんだ。俺……」

「え……」

 

 絵美は突然の告白に驚いたようで、両手で口を覆い、固まっていた。


「だからその……付き合って欲しいんだけど……ダメかな?」


 ──絵美は迷っているのか、姿勢を変えずに黙っている。哲也はなかなか返事が返って来ないので、不安になった様で「い、いきなりでごめん。返事はまた今度で良いから、考えておいて欲しい」


「じゃ、じゃあ帰ろうか?」と、哲也は言って、絵美に背を向け歩き出す。絵美はサッと手を伸ばし、哲也の腕を掴んだ。


「哲也君、ちょっと待って」

「──なに?」

「色々考えて、どうしようかなって迷ったけど、いまここで返事をする」

「そ、そう」


 絵美が手を離すと、哲也は絵美の方に体を向ける。緊張している様でゴクッと唾を飲み込んでいた。


「私は──」

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