第12話
放課後になり、哲也達はグラウンドでサッカーの練習試合をしている。
「哲也! オフサイドトラップ!」と、大輔が声を掛けたが、哲也はオフサイドを取られてしまう。
「あ、ヤベっ」
大輔が哲也に駆け寄り「どうしたんだ? お前がミスするなんて珍しい」と話しかけると、哲也は「そうか? 別に珍しくないだろ」と素っ気なく返事をして、大輔を置き去りにして走って行った。
「──今日は機嫌でも悪いのかな」
※※※
部活が終わり二人は部室で着替えを始める──大輔はワイシャツのボタンを掛けながら「哲也、帰りに寄り道して行こうぜ」と声を掛ける。
「あ、わりぃ。今日は用事があるんだ」
哲也はそう返事をして、鞄を手に取ると、そそくさと部室を出て行った。
「用事ねぇ……だったら仕方ないか」
大輔は不安げな表情を浮かべながらも、追いかけることなく、ゆっくりと着替えていた──大輔は部室を出ると、校門に向かって歩き始めた。
校門を出ると、大輔は歩きながら驚いたような表情を浮かべる。視線の先には肩を並べて楽しそうに会話をしている絵美と哲也が歩いていた。
大輔と哲也達との距離は、走っても直ぐに追いつかないほど離れているが、大輔は複雑な表情を浮かべて、ゆっくり歩き始めた。
──しばらくして大輔はコンビニに入る。店内をグルっと回り、時々、商品棚の前で足を止めたりしていたが、二人に気付かれないための時間稼ぎだった様で、何も買わずに外に出た。その頃には二人は駅に向かって歩いていて、大輔の見える範囲には居なかった。
大輔は「はぁ……」と大きな溜め息をつき「マズいのを見てしまったなぁ……」と呟いていた。
※※※
大輔は家に帰ると直ぐに自分の部屋に向かった。通学鞄を床に置くと、倒れこむかのようにベッドに横になる。天井を見据え──考え事をしているのか、しばらく放心状態になっていた。
「なんかイライラする……何だこのイライラは? 結翔として父親でもない他の男と母親がイチャイチャしているのをみて、イライラしてるのか? それとも大輔として俺は──」
大輔はそう呟くと、絵美とデートした日の事を思い浮かべているのか、自分の前髪を触り始める──。
「分かんねぇ……」
──大輔はムクっと起き上がると、机に向かう。卓上本棚から大学ノートを取り出すと、目的を書いたページを開いた。
「いずれにしても、雄介と絵美が結ばれないと俺は消えてしまう。そうならない為に哲也について考えなくては」
大輔はシャーペンを手に取り、ノートに哲也は絵美のことが気になっていると書く。
「──でも本人に聞いてないから、まだ分からないんだよな……かといってサラッと本人に聞いてみる? ──もし手伝ってくれ、なんて言われたら、もっとややこしい事になるぞ? うーん……」
大輔はトントンとシャーペンの先でノートを叩きながら悩み始める──。
「哲也は絵美とぶつかった奴らが名前を出しただけでビビッて逃げるほど、昔はやんちゃしていた奴だからな……怒らすと怖いぞ……それに疑いたくはないけど哲也が未来を変えようとしている奴かもしれないし……」
大輔は、哲也は絵美のことが気になっているの後に? を加えるとノートを閉じる。
「とりあえず哲也に聞くのは後回しだ。先に親父がどうなっているか明日、様子を見てみよう」
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