第5話

 大輔はサッカー部のユニフォームに着替えると、グラウンドに向かう。その後ろから哲也が駆け寄り──追いつくと、大輔の肩に腕を回した。


「よぅ、大輔。後頭部の方は大丈夫か?」

「あぁ、大丈夫だよ」

「そうか。良かった、良かった」

「──哲也、どうしたんだよ?」

「どうしたって?」

「妙にテンション高い様に感じたからさ」


 大輔がそう言うと哲也はニヤっと微笑む。


「分かっちゃう? 今日さ、委員会で仲良くなった女の子と廊下で出会って、更に仲良くなってよぉ」

「あぁ、そういう事」

「お前はそういうの無いの?」

「んー……無いかな」

「なんだ、勿体ねぇ」


 哲也が大輔の肩から腕を下ろすと、二人の先輩らしき生徒が手を振りながら「おーい。部活、始めるぞ」


 二人は「はーい」と返事をすると駆け寄って行った。


 ※※※


 次の日の放課後。大輔は一人で図書室へと向かった。中に入ると椅子に座って本を読んでいる絵美に気づいた様で、一瞬チラッと視線を向けたが、奥の方へと進んでいった。


 大輔は本の配置が良く分かっていない様で、一周サラッと歩き回るとライトノベルが置かれた棚の前で立ち止まる。ファンタジーのライトノベルを一冊、手に取ると、絵美の向かい側の席へと回った。


 大輔は絵美の正面の席をジッと見つめたが、さすがに座る勇気が無かったようで、斜め向かい側に座った。


 ──大輔は絵美の方をチラチラみて気にしながらも、本を読み始める。数分程経つと大輔の隣に香織がやってきて、黙って座った。


 香織は大輔の持っている表紙を見る様に覗き込むと「それが昨日、借りようか迷っていたやつ?」と小声で大輔に話しかけた。


「そうだよ」と大輔も小声で返事をして本を閉じる。


「へぇー……面白そう。私も借りてみようかな?」

「受付の横にあったよ。そうすれば?」

「うん」

 

 二人の会話が気になったのか、絵美は本を読むのをやめ、視線を向ける。大輔は絵美の視線に気付いた様で「あ、ごめんなさい」と声を掛け、立ち上がった。


 ──そして本を元の位置に戻すと、図書室の出入り口に向かって歩き始める。香織は立ち上がり、大輔の後を追いかけた。


 二人で図書室を出ると、香織は大輔の横に並び「本、借りなくて良かったの?」


「君こそ」

「私は……本当は大輔に用事があっただけだから」

「俺に?」

「うん。大輔ってさ──あぁいう子が好みなの?」

「あぁいうって?」

「さっき、向かい側に座っていた女の子」


 香織がそう言うと、大輔は驚いたのか足を止める。


「──何で?」

「なんでって……昨日、追いかけてなかった?」

「いや……たまたまだろ」

「──そう? それなら良いけど……。これから部活?」

「うん」

「そう、頑張ってね」

「ありがとう」


 香織はまた、大輔を置いて走り去っていく。大輔はそれを見送っていた──が、急に顔を歪めて「いっつぅ……」と、頭を押さえた。


「くそぉ……またあの時の様な頭痛かよ……なんなんだこれ?」

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