第4話

 次の日の放課後。B組の生徒が次々と教室から出て行く中、大輔は誰かを待っているのか、廊下で一人、壁に背中を預けながら立っていた。


 少しすると、絵里が教室から出てきて、大輔はそれを見送った──が、絵美のことを知りたいのか、後を追うように歩き始めた。


 階段を下り、右に真っ直ぐ歩くと、行き止まりに図書室がある。絵美はその中へと入っていった。大輔は追うことなく、廊下で足を止める。


「放課後に図書室に行くのが日課なのかな? 本当、本が好きだな」


 大輔がそう呟くと、後ろから近づいていたポニーテールの女子が大輔のブレザーの袖をクイクイっと引っ張った。


「何してるの?」


 大輔は急に声を掛けられビックリしたようで、「わぁ!」と声を出しながら女子の方へ体を向けた。


「えっと、香織かおり……さん。別に、ただその……部活前に本を借りようか、迷っていただけだよ」

「ふーん……本に興味あったんだ」

「ちょっとね」

「そう。部活の方は順調?」

「順調……かな」

「そう……もし辞めたくなったら、また私と同じ部活やろうよ。いつでも待ってるからね」


 香織は大輔にそう言うと、照れ臭かったのか返事を待たずに走って行ってしまった。大輔は状況が分かっていない様子で、去っていく香織を黙って見送っていた。


 ※※※


 香織は大輔と別れると、バドミントン部とプレートが掛かった部屋へと入っていった──一番奥のロッカーの前に立ち、開くと鞄を入れる。


 そこへ部室のドアが開き「香織、お疲れ~」と、緑のジャージ姿をした女子生徒が入ってくる。


「お疲れ」


 香織は返事をしながらリボンを外し、ブレザーを脱ぎ始める。女子生徒は香織を待っている様で、近くにあった長くて青いベンチに座った。


 ──女子生徒はしばらく、黙って香織を見つめていたが、口を開くと「ねぇ、香織。今日なにか良いことあったん?」


 香織は気づいて貰えたことが嬉しかった様で、ワイシャツのボタンを外すのやめ、満面な笑みを浮かべる。


「分かる!?」

「分かるよ、さっきからニヤニヤしてるんだから。んで、何があったの?」

「それがね。今日、久しぶりに大輔君と話をしちゃったの!」

「大輔君? 2年A組の?」

「そう!」


 女子生徒は納得いかない様子で眉を顰める、両手をベンチにつけると「大輔君ねぇ……なんでクラスのマドンナと呼ばれているあんたが、あんな冴えない男を?」


「ちょっとぉ、冴えないとか言わないでくれる? 彼は目立つのが苦手なだけなの! 大輔君のジャンプスマッシュ、まじでカッコいいんだから」

「中学の時、同じ部活だったの?」

「そうだよ、同じバド部。大輔君はね、カッコいいだけじゃなくて優しいんだ。昔、基礎打ちが苦手で、みんな私とペアになりたがらなかったんだけど、大輔君は率先して私とペアになってくれた……だから今の私がいるのは大輔君のおかげ」


 女子生徒はニヤニヤしながら「なるほどねぇ……んで、大輔君とは何処まで進んでるの?」


「え、何処までっていうか……高校に入ったらクラスも部活も別々になっちゃったし、昔おなじ部活だった仲から進展してないよ」


 香織は俯き加減でそう言いながら、ワイシャツのボタンを外していく。


「随分と奥手だねぇ……話してニヤニヤしてるだけで良いの? そうしている間に誰かに取られちゃうかもよ?」

「そうだよね……大輔君、さっきなんか女子を追いかけている様にも見えたし……」


 女子生徒はビシッと香織を指さすと「それ、マジでヤバい。早く手を打った方が良いよ」


「──うん……そんな気がする」


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