第3話

 休み時間になると、大輔は隣のクラスのB組へと向かう。教室の前に着くと、「えっと……記憶によると、ここに居るはず──」と、廊下から誰かを探し始めた。


「あ、居た」


 大輔の目線の先には、黒い短髪をしたイケメン俳優の様な男性が、席に座っていた。


「本当に居たよ、若い頃の親父が……でも──」


 雄介の周りには4人も女子生徒が集まっていて、楽しそうに会話をしていた。大輔はそれをみて不安に思ったのか、困ったように顔を歪める。


「──まぁいいや、ここに親……じゃなかった雄介がいるって事は絵美もいるはず……」


 大輔はそう呟きながら、教室内を見渡す。だけど分からなかったようで「すみません、教室内に絵美さんっています?」と、近くを通った女子生徒に声を掛けていた。


「あぁ、居ますよ。呼んできます?」

「あ、いや。どんな女の子か分かれば大丈夫なので」

「そう? じゃあ……あの子がそうですよ」


 女子生徒が指差した方向に、前髪が目に掛かっているぐらい長い黒髪のロングで、牛乳瓶の底の様に厚くて大きい黒縁眼鏡をした女子生徒が座っている。


 髪は寝ぐせで所々が跳ねていて、制服の赤いリボンは曲がったままになっていて、見掛けなんて興味が無さそうな印象で、大人しそうに分厚い本を読んでいた。


「ありがとう……」


 大輔は女子生徒にお礼を言うと、直ぐに教室から離れる──自分の教室に戻ると、席に座り、机にうつ伏せた。


「はぁ……マジかぁ、一筋縄ではいかなそうだぞ?」


 ※※※


 大輔は家に帰ると「ただいま」と声を掛けながら中に入る。丁度、廊下に出ていた大輔の母親は、大輔に気付いたが、直ぐに視線を逸らし素っ気なく「お帰り」とだけ言って、近くの部屋へと入っていった。


「──そっか……この家は基本、俺に不干渉だった」


 普段、笑顔で出迎え、御菓子食べる? と聞いてくれる絵美に慣れているからか、結翔は寂しげな表情を浮かべて、そう呟いていた。


 ──大輔は二階にある自分の部屋に向かうと、部屋の中を見渡す。


「ロボット系のプラモデルに……アニメのポスター……そして漫画……なんか俺の趣味に似ている気がする。──いや、このぐらいの歳の男の子なんてこんなものか」


 大輔はそう呟くと、部屋の奥へと進み、通学鞄を床に置く。


「まずは──」と、声を出しながら机に近づき、椅子に座る。ペン立てからシャーペンと消しゴムを取り出すと、引き出しから大学ノートを取り出し、机に広げた。


「頭の整理をしないとな。確か俺をこの時代に飛ばした女性は、誰かが過去へタイムリープして、あなたが産まれない未来に変えようとしていると言っていた。つまり俺の目的は──」


 大輔はノートにデカデカと、未来を変えようとしている人の邪魔をして、俺が産まれる未来に繋げる事! と、書いた。


「──こんな感じで良いんだよな? もし失敗したら俺は死んでしまう……そうならないために──」


 大輔は状況の整理を始めようとしているようで、いま関連がありそうな人の名前を書いていく。


 雄介と絵美は同じクラスだけど、今日の感じだと繋がりがある様では無かった。多分まだ付き合う前なのだろう。


 大輔は雄介と中学の時、同じクラスだったが、ほとんど会話を交わすことなく卒業している関係みたいだ。


 母さんと親父が一緒のクラスだった事は知っているが、大輔の記憶の中に絵美に関するものはない。多分、入学してからずっと関わり合いが無かったのだろう。


 大輔はそう書き出すと、シャーペンをノートの上に放り投げ「はぁ……」と溜め息をつく。


「俺を飛ばした女性、何で大輔なんかに俺を入れたんだよぉ……これじゃ、何も分からないのと、変わらないじゃないか。こんな事なら、二人はどうやって結ばれたの? ぐらい聞いておけば良かった」

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