第2話
結翔は夢をみているのか真っ暗な空間にポツンと立っている。
「ここ……どこだ?」
結翔が不安そうに眉を顰めながら辺りを見渡し始めると、「結翔、よく聞きなさい」と、透き通った綺麗な女性の声が響き渡った。
でも、真っ暗な空間には女性なんて何処にも居ない。
結翔は見上げながら「誰? どこに居るんだ?」と、質問をするが、女性は「あなたの生命の危機です」と話を続けた。
「生命の危機? どういう事だよ?」
「誰かが過去へタイムリープして、あなたが産まれない未来に変えようとしています」
「は? なんだよそれ?」
「私が特別にあなたを同じ時代に飛ばします。あなたは未来が変わらない様に阻止してください」
女性が一方的にそう告げると、フェードアウトするかのように、真っ暗な空間が光に包まれていく。
結翔はまだ聞きたい事があったようで「ちょ──」と声を出したが、届かぬまま景色は変わった。
※※※
とある高校のグラウンドで、サッカー部が元気よく朝練をしている。そこに一人、サッカーボールが自分の方に飛んできているのに、ボケェー……と、立っている男子生徒が居た。
「大輔! あぶねぇぞッ!」と、スポーツ刈りをした男子生徒が声を掛けるが、呆けて立っている男子生徒は動かない。
──案の定、サッカーボールは大輔の後頭部にクリティカルヒットした。
「いてぇっ!」と、大輔は声をあげ、後頭部を押さえる。スポーツ刈りをした男子生徒は、大輔に駆け寄りながら「だからあぶねぇって言っただろ」
「大輔って誰だよ? 俺は結翔だ」
大輔がそう言うと、スポーツ刈りをした男子生徒はキョトンとした表情を浮かべる。
心配そうに眉を顰めると「お前、大丈夫? 後頭部打って、記憶喪失になってないだろうな? 俺、分かるか?」
「小林? 小林
「あ~、良かった。友達なのに名前を忘れられちゃ悲しいもんな。具合の方、大丈夫そうか?」
「あー……大丈夫そうだけど、念のため休むかな?」
「分かった。先輩達には俺が伝えておく」
「ありがとう、お願いします」
「うん」
大輔はグラウンドから離れ──トイレに向かった。トイレの鏡の前に立つと、マジマジと角度を変えながら自分の顔を見つめる。
「どうなってんだ? 俺は結翔だ。でも……顔や体は、まったく知らない奴に変わってる」
普段の結翔の姿は、髪の毛が自然に立つぐらい短く、目は父親の雄介の様にキリッと鋭くて、スポーツ系の印象があったが、いまの姿は前髪が目に掛かるぐらい長く、ストレートのミディアムヘアで、どちらかというと大人しそうなイメージのある姿になっていた。
大輔はまだ信じられない様で、自分の顔や髪の毛を触ったりして、本当に自分なのか確かめているような仕草を見せたが──少しすると鏡から離れ、トイレから出た。
廊下を歩き、近くにある2年A組の教室に入る。教室は早い時間帯という事もあり、誰も居なかった。大輔は迷うことなく、窓際の一番前の席に座る。
「──俺は結翔だけど、大輔? って奴の記憶はしっかりある。目が覚めたら突然、景色が変わったから夢かと思ったけど……さっきのは痛かったし、そうではなかった。となると──」と、大輔は呟きながら頭の整理を始める。
「女性とのやりとりは本当で、俺は過去に飛ばされて、大輔ってやつの体に乗り移ったって事──か?」
大輔は椅子の背もたれに背中を預けると、万歳をしながら「そんなの信じられるかよ~」と声を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます