生命の危機だと飛ばされたその先は、母親と父親が恋に落ちた時代でした。
若葉結実(わかば ゆいみ)
第1話
「なぁ、噂で聞いたんだけどさ。世の中にはタイムリープ出来る腕時計が存在するらしいぜ」
「は? 何言ってんの、そんなのある訳ないじゃん」
あくびをしながら大島
「俺も最初はそう思ったよ? でも、他校の生徒で実際に体験したってやつがいるらしんだよ」
「いや、それ嘘をついてるだけっしょ!」
「えー、そうかな……腕時計に行きたい日付を設定する所が付いてて──とか随分と詳しく知ってるみたいなんだよな、そいつ」
「へぇー……で、その腕時計は?」
「タイムリープした後は、消えてたんだって」
「なんだそれ、やっぱり嘘っぽいな。それより──」
男子生徒達が違う話を始めると、結翔は男子生徒の会話が聞こえていたらしく「タイムリープねぇ……」と、興味がありそうに呟く──少しすると空を見上げ「出来たら何をしよう」と呟いていた。
※※※
その日の夜──結翔がリビングでテレビを観ていると、後ろで両親が口喧嘩を始める。
「あなた! またお酒、飲んできたでしょ!」
「付き合いだから仕方ねぇだろ!」
「付き合いって……今月、それでいくら使ってると思ってるの!?」
何度も繰り返される夫婦喧嘩に、結翔はまた始まったと言わんばかりの表情で眉を顰めた。そんな結翔の気持ちを無視するかのように、夫婦喧嘩は続く──。
「もうヤダッ!! 最低ッ!!!」と結翔の母である
雄介はそれでも怒りが収まらない様で、更に拳を振り上げた。
チラチラと様子を見ていた結翔は直ぐに立ち上がり「親父ッ!!」と声を上げながら、雄介に向かって駆け寄り──手首を掴む。
「親父。話し合いは必要だと思って黙って聞いていたけどさ。暴力は流石にダメだろ」
結翔が冷静にそう言うと、息子に説教され、更に腹が立ったのか、雄介は顔を真っ赤にする。
だが──若い高校生相手に分が悪いと思ったのか、二人に殴り掛かることはせず「離せッ!」と怒鳴りながら腕を下ろした。
結翔が腕を離すと、雄介は黙ってダイニングへと向かう──途中、ダイニングテーブルに当たり散らしながらも、部屋を出て行った。
結翔はそれを見送ると、イライラを吐き出すかのように「ふぅ……」と溜め息をついた。そして絵美の方は見ずに「なぁ、母さん。俺、もう17だし……親父と別れたかったら別れて良いんだよ?」
絵美はそれを聞いて、我慢していたのを解き放つように泣き崩れた。結翔は黙って様子を見ていたが──結局、それ以上は何も言わず、その場を離れた。
──結翔は自室に戻ると、ベッドに横になる。天井を見据えながら「母さん……何で暴力を振るうような奴と、結婚したんだろうな」と呟いた。
結翔は考え事を始めた様で、そのまま動かなかったが──突然、「痛ッ!」と、顔を歪める。
だが直ぐに痛みは治まったようで、表情を戻して上半身を起こすと、「なんだ? いまの頭痛……」と、首を傾げた。
「まぁいいや。今日は早く寝よう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます