第6話
大輔は学校から家に帰ると、自分の部屋に向かった──椅子に座り、目的を書いた大学ノートを開くと、そこに香織の名前を付け足した。
左手で頬杖を掻き、シャーペンの先でトントンとノートを叩きながら「香織さん……大輔のことが好きなのかな……」と呟く。
「大輔の記憶の中に、そうと感じさせる記憶が残ってるし、今日の感じだと絵美を意識している様に感じた。俺は二人の手伝いをするために仲良くなっておきたいだけなのに、誤解されても厄介だな……一応、警戒だけはしておくか」
大輔はそう呟くと、ノートに香織、大輔が好きかも? と書いて、ノートを閉じた。
※※※
次の日の朝。部活が終わった大輔が一人で教室に向かっていると、向かい側から絵美が一人で歩いていく。
──何もないままお互いすれ違ったが、大輔は絵美の事が気になった様で、足を止めると後ろを振り返った。
絵美が廊下の端を歩いていると、向かい側から男子生徒二人組がゲラゲラと周りを気にせず大声で話しながら、歩いていく。
男子生徒の一人は絵美に気付いていないのか、堂々と廊下の真ん中を歩き──絵美の肩とぶつかった。
「いてぇな!」と男子生徒が大袈裟に言うと、絵美は見かけによらず気が強いのか「何よ、ぶつかってきたのはそっちでしょ!」と、すかさず言い返す。
「なんだと!」と、男子生徒と絵美は言い合いになるが、大輔は黙って男子生徒たちの後ろを歩いている雄介を見つめている様だった。
「──うっせぇな! てめぇみたいな地味なブスが調子に乗ってんじゃねぇよ!」
腹を立てた男子生徒が絵美を突き飛ばす。大輔はギリッと奥歯を噛み締め様子を見ていたが、さすがに我慢が出来なくなったようで、絵美に向かって駆け寄った。
大輔が絵美の前に立つと、突き飛ばした男子生徒は、大輔を睨みつけながら「なんだよ?」
「俺、見てたけどさ。彼女はちゃんと避けてたよ? 悪いのはあんた等じゃん! それに彼女は地味なブスじゃない! 変わればお前らなんか手に届かないぐらい美人になるよ!」
突き飛ばした男子生徒が何か言いたげに一歩前に出たが、もう一人の男子生徒が肩を押さえて止める。
「おい、こいつ。哲也の友達だぜ。やめとけよ」
「哲也って、あの哲也?」
「そうそう」
「──行こうか」
「おう」
二人はそそくさと逃げる様に去っていく。雄介はというと、とっくに引き返して居なくなっていた。残された二人は動きもせず、黙って立っていた──。
大輔が黙ったまま動き出そうとすると、絵美は遠慮深げに大輔の袖を掴む。
「ちょっと待ってください……」
「なに?」
「さっきの……変われば美人になるって言ってたの……本当ですか?」
大輔は絵美の方に体を向けると「──変わりたい理由でもあるの? 好きな人が居るとか?」
「好き──なのかは良く分からないです。でも気になってはいて、その人と仲良くなるために変わりたいとは前から思ってました。」
大輔はニコッと微笑むと「そうなんだ。大丈夫、さっきのは本当に思っていた事だよ」と、自信ありげに答えた。
「じゃあ──じゃあ放課後、一緒に帰ってくれませんか? 相談に乗って貰いたいです」
「分かった。じゃあ掃除が終わったらすぐに、校門で待ってますね」
「はい」
絵美は笑顔で返事をすると、歩き出す。大輔はしばらくそれを見送っていたが、心なしか顔色を悪くして廊下の壁に背中を預けた。
「これで良かったのかな……もう少し待てば、雄介が助けに入ってたとか無いよな? くそ……」
大輔はそう不安を漏らすと「──まぁ……絵美と仲良くなれるキッカケを作れたんだ。良しとするか……」と、呟きながら壁から背中を離し、ゆっくりと歩き出した。
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